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獣人変生

「ビーン、お医者様の用意は出来てますか!?」

「はい、お嬢を連れてきて下さい!!」

「ああ。お前ら、お嬢を連れてきな!!」


慌ただしく扉が開けられ、入ってきたメイド服の獣人の少女と屈強な獣人の男が二人、そして担架に乗せられた獣人の少女が入ってくる。


担架に乗せられた少女を俺は覗き込む。可憐な少女の息は荒く、時折うめき声をあげている。怪我をしたであろう部分の服は大きく破れ、腕や肩にかけて黒と赤の痣が出来ている。首元には大きな噛みつかれたような痕があるが既に傷は癒えているため問題ないだろう。


向こうで急ピッチで解呪の準備をしているし、すぐに準備が終わるだろう。それまでは待機だな。


「あんたら、お嬢が治るよう祈っときな!」

「「「「はい、姉さん!!」」」」


うーん……従者の頭がかなりの姉御肌の人物だな。他の同僚たちにかなり慕われてるし根っこは良い人物なのだろう。


獣人といっても、色々とあるが彼らは全員が狼の獣人だ。狼の獣人が多い国だったのだろう。


「あんたが医者かい?お嬢が世話になる」

「俺では治せるか怪しいから院長に任せる事になる、礼なら院長に言ってくれ」


「ああ、後で言おう。それで、あんたは何をしてるんだ。お嬢が痛がってんじゃねぇか」

「いや、何かが可笑しいと思ってな」


姉御メイドと話ながら少女の手や脚、首を触診しているように見せつつ【魔力糸】を接続させ体内を調べる。


【呪詛】が身体に付与されているためか魔力の流れが悪い。【呪詛】の魔力が骨に集中している。これのせいで少女が痛みを感じているのだろう。臓器に関してはダメージは無かったし骨そのものも正常だった。【呪詛】さえ解かれればすぐにでも元気になるだろう。魔力の通りが良くて助かった。普通なら人間の魔力が俺の魔力に無意識に反発してくるせいで通りが悪いけど、こいつには魔力の通りが良くて助か……ん?


俺が違和感を感じていると担架が奥に運ばれる。

あの女の準備が整ったのか。だが、普通の人間の身体なのに魔力の通りが良いものか……?【悪魔種】や【吸血種】、【精霊種】の魔物と殆んど変わらないくらいに魔力が通し易かった。だが、普通の人間がどうやって……まさか……!!


とある仮説に思い当たる節があることに気付き立ち上がりながら奥の診察室の中に入る。


奥の診察室の薬臭さを我慢し従者をはね除けて胡散臭い女の肩を掴む。


「おい、施術を止めろ!!これは罠だ!」

「どういうことだ?」


怪訝な目で見てくる女や従者たちに説明する。


「俺は魔力の糸を体内に接続させ体内の状況を確認する。だが、身体の魔力が魔力の糸を無意識の内に外に出そうと抵抗する。人間の身体は魔力の糸を通しにくい。意識がはっきりしており身体が魔法薬の素材になるようなものではないからだ。逆に魔物の身体には接続しやすい」

「そうなのか。だが、それと何の関係があるんだ?」

「こいつの身体にさっき魔力のの糸を接続させた。その際に魔力の糸がすんなりと入った。魔力の流れがおかしくなってても普通はそうはならない。……こいつの身体は魔物へと変わっていっている」


俺の言葉に周囲はざわめく。人間から魔物になる、普通はあり得ないことだ。だが、とあるスキルなら強引だが可能に出来る。


「【眷属化】と呼ばれるスキルがある。このスキルは相手の体内に魔力を直接注入する事で生物を【悪魔種】や【精霊種】、【吸血種】へと変生させる」


まあ、その対象が瀕死の状態でなければ魔力を注入したところで発動しないけどな。


「【呪詛】はトラップでこれを解呪すると一気に魔物へと変わっていってしまう」

「なら、どうすれば……!」

「……上書きする。それ以外に方法はない」


歯を食い縛り壁に拳を叩きつける姉御メイドに囁く。


俺も【眷属化】系のスキルを持っている。これを使えば少なくともこの変化の方向性を変える事は出来る。


だが、もう少女が生きるための道は魔物へと至る道しかない。俺にはどうすることも出来ない。


「……お嬢が苦しまずに殺す事は出来ますか」

「無理。どのみち私たちの手では無理だ」


そういって女はメスを持つと少女の心臓に突き立てる。


辺りが静寂に包まれると同時にメスを引き抜く。血がどくどくと心臓から出るがすぐに傷が塞がっていき血の痕すら無くなっていく。


「不殺の呪い。呪いの中でも特殊なもので寿命以外の死んだと言う結果を無かったことにするものだ。解呪は不可能、つまりは手詰まりだ」

「なら……!どうすれば……!」

「それは……危ない!!」


うつ向くビーンに飛びかかってくる少女の腹を殴り付け天井に叩きつける。衝撃で気絶した少女をベッドに戻す。


……この魔力は【悪魔種】か。【悪魔種】へと変生させられてしまったのか。


肉体的には殆んど変わっていないが右腕にびっしりと黒い紋様が刻まれている。


だが、この程度の変化ならまだ大丈夫だろう。


『やあ、ボクの置き土産は気に入ってくれたかい?』

「っ!?声が頭に!?」

「気を付けろ!!どこにいるか分からないぞ!?」


頭に響く声に気づいた従者たちや女は辺りを見回し、俺は我関せずの態度をとる。


この声はラートニグの声だ。敵意もないし今は関わらないでおこう。


『まあ、それは置いといて。それでどうだった?』

「まさか……あの時のリスか!?」

「あり得ない。魔物が人間の知恵を持つ何てあり得ないことだ!」


『あり得るから話してるじゃん。それでどうだった?自分たちの大切な大切はお嬢様が【悪魔種】へと変えられ殺すことも出来ない、何てそうそう聞ける話じゃないじゃん』


うわー、悪魔らしい【悪魔種】だな。


「最悪の最悪だ!お嬢を苦しめた貴様は絶対に殺してやる!」


『あっはは!ムリムリ、君には絶対にムリだよ。たかだか人間程度に『大罪』の頂点の一つ、『暴食』を喰らう何て不可能に等しいよ』

「『大罪』だと……!?」

戦慄する者たちを無視してラートニグはハイ

テンションに催促する。


『それでどんな気持ち?人間の感情を記録するのがボクのライフワークだから話して貰わないと困るよ』

「……直接接触しようともしない雑魚が『大罪』だと?笑わせる!」

『……そっか。じゃあ死んで』


冷えた声音でそう言った瞬間侮蔑した従者は身体の中から幾本の紅い血の剣が突き出す。


絶命した男の死体床に倒れ血の海の中に浮かぶこととなる。


「なっ……!?」

『さっきのにはガッカリだよ。もっと価値のあるものを教えてくれたら楽だったのに。それじゃあね』


【テレパシー】が切れると同時にビーンたちは地面に膝を付き崩れる。


他のメイドや従者たちもまた地面に膝を付いたり目から涙を流す。


やれやれ……生きてるだけでも運が良かったんだ、受け入れろとは言わないがそれを理解する努力くらいはしておいた方が良いだろうに。


「なんか、凄い事に巻き込まれた?」

「さあな。病室って空いてるか?」

「一応ね」


俺は少女を担ぎ三階まで上がり空いてる部屋のベッドに寝かしつける。


『暴食』の口調の中に殺意や敵意はなかった。人は紙屑のように散る、あいつらにとって人間はその程度の存在なのだ。


まあ、それは俺にはとってもそうなんだが。


やれやれ……少しはのんべんだらりと出来る、何て思ったがこれは難しそうだ。



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