帝都侵入
手を合わせるように叩く。その瞬間、身体を中心に衝撃波を放たれ囲んでいた冒険者たちを凪払う。
「「「ギャアァァァァァァァァァァ!?」」」
「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
絶叫、そして咆哮。
衝撃により骨が砕けた者や気絶した者を優先的に【硬斬】で切り裂く。
爪が血で染まり、血飛沫と共に振るい爪により半数近くの冒険者が斬殺する。
逃げようとする冒険者に向けて手を向ける。それと同時に土が杭へと変わり逃げる冒険者たちを真下から刺し穿つ。
この程度か。数は多かったがそこまでの能力を持ち合わせていなかったな。
死体となった人間たちを森の中に放置し森の中にある小川で血を洗い落とし、身体を震わせて水滴を弾く。
この一週間、迂回やら寄り道しながらも歩き続けけて帝都の近くにまで来たからだろうな。都市部の近隣は案外冒険者の数が多いしな。
毛皮が渇ききったところで【人化】を発動、人間の状態に変身する。
さて、これで人間どもにへまをしなければ襲われる心配はなくなったな。さっさと森を抜けるか。
大きく伸びをして、身体の調子を整えて坂道を歩き始める。
帝都があるこの場所の地形は典型的な平地だが、湖に沿岸部を沿うように作られている。また、帝城があるのはその湖の中央部にある島で、その周りには農場や鍛冶場の役割を持つ島が点在している。そのため、防御力と持久力に長け、何度も攻められたが遂には攻め落とす事が出来なかった鉄壁の城塞都市だ。
また、帝都に入る手段は主に都の東西南北に走る街道以外になく、それ以外は深い森に囲まれており、CランクやBランクの魔物が住んでいる。コスト面から森を切り開く事が難しいため、ほぼ放置しており冒険者の街としても帝都は有名だ。また、この森が帝都に攻める際に道を制限することに役立っている。
なるほど、守りに特化していると言われるだけあって守りは万全のようだな。まあ、その守りも【悪魔種】には意味をなさないとは思うが、その辺はどうなんだろうか。
壁の近くにまで近づき、壁の上を木の陰から見上げる。兵士たちの姿はあるが、あくびをしており、下に意識を割いてない。
あの様子から察するに、兵士たちの士気はそこまで高くないのだろう。魔物がいてもすぐに判別出来るよう壁の周り、約五メートルには木々が無いし、いたとしてもすぐ見つけれるだろうと高を括っているのだろう。
だからこそ、俺にあっさりと侵入されるんだよ。
【影体】の発動と共に木から伸びる影に沈み潜航する。
そろそろ、この辺りで出ても良いだろう。
音も何もない静かな影の世界から元の世界に目の辺りまで浮上し、周りの安全を確認する。
人の気配は……て、すぐそこは天下の往来があるな。だが、誰もこっちを見ていない。ここで浮上するか。
周囲の安全に気を配りながら影の世界から浮上する。
これで帝都の中に侵入する事が出来たが……さて、どうしたものか。城に侵入するのは容易いだろうが、拠点となる場所と協力者を作っておかないといけないな。特に場所は、なるべくカモフラージュされやすい場所か疑われにくい場所にしないといけない。協力者に関してはもっと難しい。俺がやろうとしているのは端から見たら犯罪でしかないだろうし、優遇されてるヒューマンが協力するとは思えない。強いてやるのなら……いるかどうか分からないレジスタンスか犯罪組織だけだろうな。
ええい、考えても埒があかない。行動だ行動、行動しないと意味がない。分かんない問題は後回しだ!
服を作るのと同じ要領で学生帽を作り頭の耳を隠すように被る。そして脇道から大通りに出る。
へぇ……見事なものだな。
思わず感嘆としながらも周りに悟られないよう見回すことなく大通りを歩く。
建物の多くはイギリスやフランス等のハーフティンバー様式とよく似ている。外壁の多くが白や赤、黄、青とカラフルで目新しい。魔道具の類いであろう街灯もあり、その街灯もアンティークな鋳造をされていて一つの芸術作品のようだ。市場と思われる場所では多くの人で賑わい、獣人やエルフの少女が鬼ごっこのような遊びをして楽しんでおり、心が和む。
まさか、ここまで帝都と他の都市に差があるとはな。だがまあ……後ろ暗い部分がない訳ではないではないがな。
チラリと気づかれないよう通り沿いのカフェの中を見る。カフェの中では首にゴツい首輪をしたエルフが給士をしており、臀部や胸部を触られても抵抗しようともしないのが見てとれる。
いや、出来ないだけか。事実エルフの少女の顔は熱でもあるかのように赤面している。
本音では恥ずかしい。だが、魔道具による契約か肉体的、精神的に弄くり回されたため抵抗出来ない……そんなところか。
不愉快だ。実に不愉快だ。だが一々これで突っかかるのも疲れる。放置しなければならない、か。
不快な思いをしながらカフェの前から立ち去る。そのまま道なりに歩いていると、帝都の中央にある湖にたどり着く。
湖では新鮮な魚が多く売られ、先程の市場より一回り大きな市場ではより盛大な活気がある。また、チラホラと貴族と思われる人間が市場の中に入っていくのが見える。
……おおよそ、あそこが奴隷市場なのだろう。平民たちの居住区に入るとなれば、掘り出し物を探しにきた……と言ったところか。
もう少し深く知りたい。あそこの事について少し聞くか。
適当な屋台の人間を身繕い、話しかける。
「あの、すみません」
「おう、どうした小僧」
「あの市場は何を売ってるんですか?」
「あそこかい?あそこは奴隷市場だよ。時折貴族様も来ているだろ?貴族様の中には平民街の奴隷をご所望の事があるからな。何せ、消耗品のような連中が多いからな」
「貴族街の奴隷市場は違うのですか?」
「おいおい、そんな事も知らないのかよ。いいか、貴族街の奴隷市場はあそこで売られてるものよりもゼロが五つつくくらい高い。その分品質は保証済みだ。あと、貴族街にはオークション会場もあるな」
「……ありがとうございました」
屋台の人間はあっさりと教えてくれた。
そして、教えてくれた事に俺は手を力強く握りしめる。
市場から離れ、湖の沿岸を歩きながら先程の市場を思い出し、ムシャクシャとした思いと共に石を蹴飛ばす。
ふざけてる。全くもってふざけてる。
奴隷がいることが当たり前の社会、人が人として生きない事を強要する社会、吐き気を催すほどに許しがたく、腐りきっている。
よく見れば、獣人というだけで不当に安い値で魚を卸されていたりエルフと言うだけで主婦たちから陰口を囁かれている。ここにも差別が横たわっているのがハッキリと分かる。
ここに住んでいる獣人やエルフは真綿で首を絞められていくような少しずつ精神を蝕まれているのだろう。精神を追い詰めるのならもう少し直接的な手を使えば良いのに、それをしない。それは不愉快以外のなにものでもない。
だが、俺は深くは関わるつもりはないのも事実だ。さっきも思ったが一々突っかかるのも面倒だしな。
「さて……」
腹が鳴り、空腹感が身体を満たしていく。
とりあえず、何かを食べよう。久々に魚でも食べようかな。




