冒険者壊滅
「シッ!」
ラインが素早く地面を蹴ると同時に地面を力強く蹴り肉薄する。
【硬斬】を発動させて横に振るうと同時に剣とぶつかり合い金属がぶつかり合うような音が鳴り響く。
二手、三手と右手を振るうが全て剣で防がれ、風の砲弾でラインを吹き飛ばす。
「くっ……!」
ラインが立ち上がるのと同時に指をラインに向けて弾く。先ほどよりもかん高い音と共に放たれた衝撃波をラインはギリギリのところで回避する。
ラインは典型的な剣士だ。身体能力を上げたりする【強化】や【加速】、【硬化】は使えても魔法までは使えない。使えていたとしても俺のスキルの方が速い。
なら得物はどうだ。得物は剣である以上、予備のナイフ位は持ち合わせているだろうが弓等の遠距離の道具は持ち合わせていない。
「がっ!?」
なら、攻撃の最適解は剣の間合いの外から封殺することだ。
スタッカートの如く連続して放たれた衝撃波の一つにラインの肩が当たり、大きく体勢が崩れる。
その隙を突くように【硬化】を付与した【魔力糸】を一気に振るう
「くっ……!!」
咄嗟に地面を転がり回避しようとするが、背中の鎧が一部切り裂かれる。
あの鎧は鉄か。フルプレートでは無いにしろ、それなりの硬度は持っていただろうが意味はないようだな。
「正々堂々と戦うつもりはないのか……!?」
「猟師が獲物を狩るときに剣を使うか?」
ラインの激昂を軽く受け流し【魔力糸】を振るい斬撃が草々を切り刻んでいく。
ラインが剣を振るい【魔力糸】を防ぐと同時に接近しながら土の弾丸を放つ。
ラインも土の弾丸を防ぐために剣を横一文字に構える。
そう来ると思っていたよ。
「なっ!?」
指を引くと同時に剣に絡み付いて【魔力糸】が剣を地面に落とす。
まさか、【魔力糸】を使った事に意味がないと思っていたのか?
土の弾丸をギリギリのところで飛び退くが跳弾が頬を掠める。
頬に意識が割かれるのを見計らい【風刃】を放つ。
「【硬化】!」
両腕に【硬化】を発動させ【風刃】を防ぐ。
【風刃】が霧散した瞬間指を弾き【福音】を発動させる。
「がっ!?」
意識外からの衝撃に防ぐ手段の無いラインは何度もバウンドし地面に倒れる。
【福音】の威力調整はしてあるとはいえ、当たりどころが悪かったら死ぬかもな。まあ、その時は諦めるが。
「くっ……!【フレイムランス】……!!」
おっと、そう来るか。
立ち上がり様に向けられた手から放たれる火の槍を風の槍で防ぎ辺りに撒き散らす。
良い攻撃だ。だが、無駄でしかない。
脚をガクガクと生まれたての小鹿のように震わせ剣を地面に刺して杖代わりにして立つラインに向けて指を向ける。
そこは【福音】の間合いだ。確実に仕留めれる。
「終わりだ【福い
「させない……!!」
風鈴のような涼しい声音と共に放たれた針に向けて【福音】を放つ。
衝撃波で針が撒き散らされると同時に先程の少女が真下から逆手に持ったナイフを切り上げてくる。
咄嗟に身体を反らして回避するがもう片手のナイフに胸を薄く裂かれる。
「ちっ……!」
バックステップでナイフの間合いから外れると同時に指を弾き衝撃波を放つ。
少女は衝撃波をナイフで裂きラインの胴体を脇に持ち一呼吸で飛び退き間合いから外されてしまう。
……ラインを倒せれば勝てると思っていたが予想外の相手になってしまったな。
「ミルキ、ガリアは……」
「近くの村に預けてきた。心配ない」
「そうか……」
そう言うと同時にラインは意識を失う。
少女がラインを地面に下ろすとナイフを構え肉薄してくる。
……!速い。先程よりも数段階速い……!!
高速で途切れることなく振るわれるナイフを【硬斬】で打ち落とし切り結ぶ。
「ちっ……!」
「…………」
【風刃】を振り下ろし間合いを僅かに開けるがすぐに肉薄される。
左右斜め下から振りだされるナイフを持つ手を掴み動きを封じて膝蹴りを薄い胸に叩き込む。
「ガッ……!」
無感情の瞳を見開き呼吸を忘れる少女の脚を払い襟と腰を掴み腰を相手に腰の内側に入れて持ち上げ、浮腰の容量で投げる。
地面に叩きつけられた少女から手を離すと立ち上がると同時にナイフが振るわれる。
身を屈め回避し少女の柔らかい腹にタックルし地面に押し倒し口内に【収束】させたいた空気を放つ。
少女は手を払いギリギリのところで回避しナイフを投げつける。横に転がると先ほどまでいた場所にナイフが刺さる。
少女のナイフは鋭く速い。しかも自分が怪我をする事を躊躇わずに攻撃を仕掛けてくるから駆け引きが通じにくい。
拳よりも速く振るわれるナイフのせいで切り合いになれば確実に負ける。瞬間的な素早さなら恐らく少女の方が強いだろう。
「シッ!!」
だが、それは敗北の条件ではない。
投擲されたナイフを空気の塊で防ぐ。それと同時に土の杭を地面から射出する。
少女は身を翻して回避しながらナイフの切っ先を向ける。その瞬間、氷の槍が放たれる。
槍を右手で掴み握り潰すと同時に左手を向け空気の砲弾を放つ。少女は近くに落ちていたナイフを蹴りあげる。
その瞬間、氷の槍が出現し空気の砲弾にぶつかり合い、砕け散る。
あのナイフは毒が仕込まれていると思っていたが……魔道具の類いだったか。
「……強い」
「それはどうも」
そう言いながら肉薄してくる少女が止まるよりも速く動き首にラリアットを決める。
「ガッ!?」
半回転して地面に倒れる少女に向けて拳を放つが回避され振り向き様にナイフが振るわれ肩を切られる。
腕を引き距離を取るが少女は肉薄してくるため襟と振るってくる手を腕を掴んで身体を引き、左足を少女の膝に置いて車のハンドルを左に切るように少女を地面に叩きつける。
地面に叩きつけられた瞬間、手を離し腹を蹴りつける。
「がっ……!」
腹から空気が抜けるような音と共に少女は気絶する。
まさか、自分の速度がここまで綺麗に利用される何て思ってもいなかっただろう。ま、少しばかりの代償は必要だったがな。
外れた肩を直し、足下で気絶した少女を静かに見下ろす。
流石に、何度も地面に叩きつけられれば衝撃が身体にダメージを浸透させるか。ま、これで二人は倒せたし、さっさと傷を癒すか。
腰を下ろし、手を少女の腹に置くと同時に【回復魔法】を発動させる。
「…………」
「何だ、珍しそうにして」
背後から視線を感じ振り返ることなく話しかける。
背後から返答はない。だが視線があるためここから離れていない事は確かだろう。
確か『精霊』……だったか。自然現象で発生するあやふやな存在、気配からして前に会った奴だろうし、またしても俺の近くに現れたか。
「ま、話さないのなら話さないで別に良いんだがな」
「…………」
そう言うと背後から気配が消える。
やれやれ……何だったんだあれは。まあ、それは気にしなくても別に良いか。害がある訳でもないしな。
少女の傷を治すと、ラインの傷を手早く癒す。
ラインの傷はそう大きいものはない。サクッと癒してしまっても問題ない。
二人が意識を覚ますよりも早く、影の中に沈み影の海を潜航する。
冒険者とエンカウントするのも面倒だし、昼間はこっちで移動をしていた方が良さそうだ。
【Lv.三からLv.五になりました】




