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少年憎悪

「戻ったぞ」

「主人、頼める?」

「分かった」


地面に敷かれた布に横になっている獣人たちを確認すると【治癒魔法】で傷を癒していく。


意識があるのが一〇人程、意識が無いのが一五人くらいか。ミストやカーリー達が軽傷者の手当てをしてくれているし、これくらいなら傷を癒すのにそう時間はかからない。


だが、この怪我……打撲による傷よりもナイフのような切り傷が多い。建物の倒壊に巻き込まれたと言うよりも殴りあいに巻き込まれたと考えた方が正解か。


【治癒魔法から回復魔法に進化しました】


あ、スキルが進化した。でも説明を見るのは後にすべきか。流石にこれは集中しないといけないしな。


「何があった」

「それは……」

「それは俺が説明するよ」


俺が魔法で骨折を治しながらミストに尋ねる。


言い淀むミストに何かと思っていたらテレスが横から割り込んできた。


「こいつらは教会の兵士どもに傷つけられていやがったんだ。咄嗟に庇ったが怪我が酷かったからお前に頼んだ。断じて、お前を信用したからじゃない」

「説明どうも。そして信用何て興味がないから別にしなくても良い」


俺を睨み付け刺のある言葉で説明するテレスに感謝する。テレスは少し複雑な顔をして作業に戻る。


俺と実際に戦いミストの友人となったシリウスや暗い境遇故に俺のスキルの影響下にあるカーリーからは信用を得ているが接点の少ないテレスには信用を得ていない。


流石にミストの事もあり俺の正体を伝える真似はしていないが俺を常に警戒している。まあ、別に問題ないが。


それにしても、教会か……確か帝国はヒューマン至上主義のアガート教異同派に属していた筈だ。ストレスの発散のために獣人達を襲った……うん、十分にあり得る。


やれやれ……人間というのは本当に愚かだ。ヒューマンも獣人もエルフもどれもこれも殺せる。そこら辺を駆け回る鼠とそう大差ない。狼の群れが別の狼の群れを襲っているようなもので、種として見ればそれは非効率な事この上ない。


「よし、これで終わったな」

「おい、ちょっとこい」


傷を治療し終えてすぐ、俺はテレスに連れられまだ復興が進んでいない方に歩く。


人の気配がせず周りから見れないところまで歩くとテレスは俺の手を離し剣を引き抜き俺の顎に切っ先を向ける。


「怪物が人間らしく振る舞っているんじゃねぇ」

「知るか。俺は俺の自由に生きているだけだ」


剣を向けながら吼えるテレスの剣の刃を掴み握り潰す。


すぐさま拳の間合いから外れるテレスに追撃すること無く佇み、テレスの出方を注視する。


「テメェは化物だろ、なら好き勝手に暴れやがれ。それがテメェらのやり方だろ」

「生憎と、俺はお前らのような下らない存在になりたくないからな」


テレスが地面を蹴り接近し背中から取り出した棍棒を振り下ろす。俺は避けずに肩で受け止める。


「この程度の攻撃は通じない。……ディンの村、かつて存在した巨大蝸牛の『怠惰』によった汚染された村の出身らしいな」

「どこで……!?」

「カーリーだ。ここ最近、あいつが俺に愚痴を言いに来ていたからな」


ディンの村、聖王国の南にある海の沿岸部にある小さな村。そこでは毒性の強い魔物が跋扈し命の価値が極めて低い村だ。


沖合いにある島で『怠惰』と呼ばれた魔物が殺され、その死体から噴出した毒で大気は勿論、魔力が汚染され毒性が強い魔物が生息するようになったらしい。


結果、村は衰退し一部の【毒無効】のスキルを保有している人しか生きる事が出来ない土地になってしまった。


そこの村の出身であるテレスはこの村をここまでにした魔物を非常に憎んでいる。だから、俺にこうやって得物を向けているのだ。


「ああそうだ。母さんも、父さんも、じいちゃんもばあちゃんも、魔物のせいで人生を狂わされた。そんな魔物が人間を助ける?ふざけるな!!魔物は魔物らしく生きやがれ!!」

「魔物らしく?……下らない。そんなもの自分で決めれば良いじゃねぇか」

「くっ――!!」


棍棒を弾き肉薄し蹴りを放つ。鞭のような蹴りが棍棒の横に当たり破壊する。


「魔物だとか人間だとか、俺にとってはどうでも良い。気まぐれに敵対者は殺すし気まぐれに困っているやつを助ける。俺は俺らしく生きているだけだ、お前が指図するな」


怒りの混じった口調で後ろに下がるテレスの足を払い地面に倒し胸を踏みつける。


誰かに俺の生き方を指図されるのは死ぬほど不愉快だ。俺は俺らしく生きているのだから誰かに文句を言われる筋合いはない。


「殺せ……!ここで殺せばテメェは化けも」

「ま、殺さないがな」


胸から足を下ろすとテレスに向けて堂々と背中を向ける。


カーリーの事もあるし俺はこいつを殺せない。少なくとも、今は。それに、俺が背中を向けているのは『お前は俺を殺せない』、そう挑発しているからだ。死んだら挑発もクソもないだろ。


怒って俺に襲撃してくれたらそれはそれで面白いが……まあ、しないだろ。あいつは激情と理性を両立させれる人間のようだしな。


「ふざけるな……!ふざけるなぁ!!」

「お前の思い通りにする訳ないだろ。まあ、他の魔物なら分からないと思うがな」


嘆くテレスを置いて俺は帰路につく。


さて、さっさと戻っておかないと来客が来ているかもしれないしな。

「ん……?」


瓦礫の間を縫うように歩いて帰路についていると鼻にツンとしたミカンのような臭いが掠める。

生物の臭いか……?だが、ここら辺には生物がいる気配はしないが……。


辺りを見回し、人がいないかを確認する。無論、見える範囲には人の姿はないし気配もしない。

だが、それならこの臭いは何だ?一体何処から……まさか!!


臭いをたどり一つの倒壊した建物の瓦礫の中を見る。


「いた……!!」


中に、まだ動いている人影があった。


すぐさま【魔力糸】を指先から垂らし瓦礫に接続して瓦礫を粉塵へと変えて魔法で後ろで砂へと変える。


よし、これで助けれ……え?


全ての瓦礫を粉塵に変え木材を丁寧に壊して出てきた人を見て少し驚愕する。


ミカン色の髪をした少女で痩せてはいるが元は美人であった事が伺える顔立ちをしている。身長は人間の姿をとっている俺とそう大差ない。


だが、そんな事はどうだって良い。それ以上のものに俺は目を釘付けにされているからだ。


一番目を引いたのは腕だ。腕には手がなく、二メートルはある大きな翼になっている。羽は揃っており少し光沢がある。また、脚は鳥の脚とよく似た細い脚で鷹の脚にそっくりだ。


ハーピィ……というやつか。背中にむち打ちの痕があるし首には太くてゴツく、全く似合わない鉄の首輪を着けている。


恐らく奴隷なんだろうが……所有者も見当たらないし、このままだと死んでしまうし、回収するか。


首輪を空気の塊を付与した右手で握り潰して外すと背中に背負う。


さて……と。さっさとテントの方に連れていくか。シリウスやカーリーに聞けば少しは事情を知れるだろうしな。


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