戦闘終結
疾走、そして接近。
一段階速くエンゲツに肉薄すると同時に拳を握り放つ。エンゲツは頭を傾けて回避し腕を振るい炎を放つ。
地面を蹴り後ろに跳躍して回避し【魔力糸】を地面に接続し地面から一気に杭を放つ。
エンゲツの横薙ぎの拳で杭は破壊される。だが、それで十分だ。
「【福音】」
動きを一瞬止めたエンゲツに向けて指を弾く。その瞬間ラッパのような音と共に衝撃波が放たれる。
「ガッ――!」
衝撃によって吹き飛ばはれたエンゲツは壁に叩きつけられる。脚を振るい【風刃】を放つがエンゲツは拳で弾くと同時に土の槍を放つ。
回避すると同時に地面に槍が突き刺さり、一気に肉薄していたエンゲツに心臓を穿たれる。
「ぬっ!?」
「それは幻だ」
その瞬間、俺の身体は鴉へと代わりエンゲツの視界を塞ぐ。
あまりにも突然のことに驚くエンゲツの後ろの影から浮上すると同時に蹴りを背中に叩き込む。
「グッ!?」
「イメージさえあればどんな幻だって作れる。魔力を操るよりも簡単だ」
頭から地面に倒れるエンゲツは地面を転がるがすぐに起き上がる。
勢い良く接近する俺に魔法を放とうと右手を向ける。だが、魔法は発動しない。
「なっ……!?」
突然の魔力の不調。あまりにも唐突過ぎたそれにエンゲツの意識を割かせる。
その隙に【硬斬】を纏った爪でエンゲツを切り裂く。
「【呪刻】。効果は『魔力の阻害』だ。案外使い勝手は良いな」
尤も、効果時間はそこまで長くなく、せいぜい数秒が限界だがな。
胸を切り裂かれ四歩後退するエンゲツの手首を右手で掴み引き寄せ顎を蹴り上げ、上げた足を振り下ろし肩に叩き込む。
その瞬間手首を捕まれエンゲツの口から【ブレス】が放たれる。咄嗟に手を離し身体を反らし回避するが尻尾で足を払われ頭から地面に倒れる。
追撃の踏みつけを横に転がり回避し地面を左手で押して起き上がりながら【硬拳】の裏拳を半月状に振るいエンゲツの拳を上に弾く。
「オオオッ!!」
体勢を整え、雄叫びと共にエンゲツの懐の中に潜り込み【硬拳】を連続して放つ。殆どを打ち落とされ、反撃を喰らったが何発かはエンゲツの身体に叩き込まれ、大きくエンゲツは後退した。
だが、俺も何発か受けてしまい、唇が切れ血が口から垂れ落ちる。
「やはり、やるな」
「そっちこそ。互いに進化先が望んだものでは無いのが悔やまれる」
互いに垂れた血を拭い称賛する。
俺とエンゲツ、互いに自分の流儀故に進化したスキルの使用を制限してしまっている。
俺の進化先で得たスキルは精神や人格に干渉するものが多い。だが、それは俺の『生き足掻く』ためのものからかけ離れている。
エンゲツが進化先で得たスキルの多くは恐らく『毒』の類いが多いのだろう。だが、正々堂々と殺しあう事を好むエンゲツにとっては気にくわないだろう。
故に、俺らは進化先の力を使わない。
「だが、それもお仕舞いだ」
「ああ、そうだな」
エンゲツの鱗の隙間から粘性の強い毒々しい紫色の液体が垂れだす。それと同時に俺の身体の周りに黒い靄が生まれる。
進化前の俺らの力はほぼ同じ、更に技量もまた近いものがあった。倒されない要素はあれど倒せる要素もなかった。
だが、この進化によって俺らは道を別れた。その力を使わなければこいつには勝てない。
【狂気:常識を侵食する者の証。
精神に干渉するスキルの効果を上昇。
敵対者の精神に対する耐性を減少】
【冒涜:常識に背く者の証。
精神に干渉するスキルの効果範囲を上昇。
敵対者の精神の正気度を低下】
この黒い靄は【狂気】や【冒涜】の特性だったのか。
キメラが使わなかったのはそれを使えるだけの知能を持ち合わせていなかったからだろうか。
だが、そんな事はどうだって良い。こいつを潰すのにそんな事を必要性としない。
「……止めだ」
「……そうだな」
だが、それは今ではない。
互いの能力を見て対峙するが凄まじい殺気を感じとりその力を身体に戻し互いのスキルを解除し元の空間に戻す。
どうやら、エンゲツも同じ結論へとたどり着いたようだ。
「流石に、これ以上殺り合うのは無理なようだ」
「……そうだ」
日が昇り始め、明るくなる空を見上げる。
そこには何千、何万というワイバーンの群れがホバリングしながら俺らの事を見下ろしている。しかも、どのワイバーンも普通のワイバーンとは違い、鱗の色が白や黒、緑、赤と個体ごとに違いカラフルだ。
まあ、そんな事はどうだって良い。
ワイバーンから進化した種族か。敵意は無いにしろ俺らが拳を握ってきた瞬間殺気をぶつけられて戦いを中断させられた。不愉快なことこの上ない。
『俺らの戦いを邪魔するな』
『吾ラノ戦イニ口出シスルナ』
『『『黙レ、戦闘狂ドモ』』』
俺らの抗議をワイバーンたちは迷うことなく却下する。
『『『我等ノ目的ハ儀式』』』
『『『ソレ以上デモナク、ソレ以下デモナイ』』』
『『『目的ハ遂行サレタ』』』
『『『ナラバ、コノ街ニ留マル必要ナシ』』』
『『『エンゲツ、貴様ハ儀式デ生キ残ッタ』』』
『『『故ニ、我等ノ王トノ謁見ガアル』』』
『『『王ノ意向ニ遅レルツモリカ?』』』
ああ……そういうことか。
ワイバーンたちの言葉に俺は納得がいく。
このドラゴンたちの『遠征』は『儀式』。恐らく成体として認められるためのものだろう。
それをエンゲツは無視し俺との戦闘を楽しむ事を優先させてしまい、こいつらの王――『神龍』との謁見を忘れていたのだ。
そりゃ回収するためのワイバーンたちも怒るはな。社長との会議があるのにそっちのけでゲームをしているようなものだ、怒るのも無理はない。
「……引き分け、という扱いにしておこう」
「ああ。だが、次に会った時には再び命を賭けて殺し合おう」
「……ああ、そうだな」
互いの拳を相手の胸に当て、エンゲツは影の中へと沈んでいく。
「……そうだ。名を聞いていなかったな」
「エリラルだ。お前の名は?」
知っているが。
「エンゲツ。では、またどこかで会おうぞ!」
影の中に沈みきったエンゲツを見送ると俺も影の中に潜っていく。
さっさと逃げないと俺の存在に気づかれてしまう。面倒な事この上ないからさっさと逃げるに尽きる。
……再戦するときにはもう少し強くなっていたいな。
【Lv.一からLv.六になりました】
お、レベルが上がった。……上がり具合が低いのはランクの問題だろうか。まぁ、別に構わないが。




