第三進化
『見ツケタゾ』
『ああ、俺もだ』
影の中を泳ぐこと数分、エンゲツと合流する。
エンゲツの傷も酷いな。全身に裂傷が刻まれてるし胸に大きな傷ができている。【自然治癒】で塞がっているようだがかなりの出血があったんだろう。
『とりあえず、ここで進化を行う。一応の索敵は頼めるか』
『分カッタ、ソッチハ頼ムゾ』
『了解した』
俺らは互いに背中合わせにすると周囲を警戒する。
流石にここに乗り込むことは出来ないが、攻撃を仕掛けてきても可笑しくない。さっさと進化しよう。
【進化先:幻魔死熊:B+】
【進化先:新月黒熊:B+】
【進化先:白滅聖熊:B+】
【進化先:崩天熊:A】
【進化先:ベルセルク:A+】
……ゲテモノしかないのかよ。しかも、名称が一々嫌な予感がするものしかない。アースとかメタルとか無いのかよ。
だが、仕方ない。一つずつ説明を頼む。
【幻魔死熊:B+
【悪魔種】
黒き滅びと破滅を与える悪魔の熊。
存在するだけで【幻術】による大規模災害が発生する。
かつて、とある部族が一頭の熊を大切に飼っていた。だが、帝国が部族を滅ぼした。たった一人生き残った熊は怨みを持ち破滅の象徴となった。
進化条件:Lv.一〇〇であること。
パッシブスキル【殺戮】を保有すること】
これは今の進化先を推し進めたら、とも言える進化だな。だが、説明欄があまりにも不吉過ぎる。
絶対にろくなことが起きないし一人なら兎も角今はミストもいる。常時発動の【幻術】は洒落にならなさ過ぎる。
却下だ却下。次!
【新月黒熊:B+
【吸血種】
闇夜に出現し血を飲む高貴な大熊。
素早さが高く、攻撃力も高い。ただし、防御力が低い。
吸血系のスキルを向上させ、眷属を生み出す事ができる。
進化条件:Lv.一〇〇であること。
吸血系スキルを保有していること
【逸脱種】を保有していること】
イスタリ一人を勝つのならこれでも良い。だが、夜にのみしか移動できなくなるのはミストのこともあって少し困る。
これは保留だな。それじゃあ次!
【白滅聖熊:B+
【精霊種】
白き月と見間違える光の精霊。
魔力に長け、複数の属性を操る。
魔力アクティブスキル【月光万華鏡】を持つ。
夜に真価を発揮するスキルを幾つも保有する。
とある地域に住まう部族では『聖獣』と呼ばれ崇拝されている。
進化条件:Lv.一〇〇であること。
複数の属性魔法のスキルを持っていること。
【逸脱種】を保有していること】
魔法に長けたの種族か……。
これはこれで良い。魔法は俺の攻撃の中にも多く含まれているしそれに長けているとなれば魔力も高くなるだろう。
だが、あと二つ残っている。それを見てからだ。
【崩天熊:A
【悪魔種】
気高くも崇拝される崩天の王。
素の能力はそこまで高くない。せいぜいB+程度。
しかし、その進化は仲間によって行われる。
自身を尊敬し、敬愛し、崇拝する者がいればいるほど能力は際限なく上がっていく。
かつて、崩天熊へと至ったとある熊は、何千、何万という軍勢を持ち個を持って幾つもの国を滅ぼし取り込んだ。
進化条件:Lv.一〇〇であること
【魔曲・獸歌】を保有していること
【幻術】を保有していること】
……化け物かよ。
仲間がいれぱいるほど際限なく上がる、まさに王の特性を持つものか。暴君にも名君にもなれる、とんでもない代物だな。
だが、どんなに強力でも俺には必要ない。
俺の旅路は『生き足掻く』こと。命を賭けた生存競争を生き抜きたいのであって王や信仰の対象にされるのはダメだ。俺の信条に反する。
故に、これは進化先としては失格だな。……もし、俺が人間だったらこれに進化していたかもな。
さて、最後は……一番とんでもないものだな。
【ベルセルク:A+
【精霊種】
混沌と破滅を司る狂気の精霊。
そのあり方は【精霊種】よりも【悪魔種】に近く、【精霊種】の中でも異端とされている。
人としての姿と魔物としての姿を持ち自由に切り替え、人間の世に容易く溶け込み、内部より壊していく。
精神に影響を与える魔法、スキルを多数保有し、たった一頭で大国を崩壊させた。
精神構造が脆い者は承諾がない限り目の前に立つことすら許されない。
進化条件:Lv.一〇〇であること。
【魔曲・狂歌】を保有すること。
【精霊刻印】を保有すること。
【逸脱種】を保有すること】
……崩天熊が可愛く見える化け物だ。
まず、精神に直接干渉するということ。精神は人格に附随するものでありそれに干渉するとなればそれは人格を壊すも治すも自由となる。
次に、人としての姿を持つということ。これは普通にメリットが大きい。人の街に侵入できるとなれば態々ミストを待たせる必要もなくなる。切り替えも自由となれば案外良いかもしれない。
最後に……A+であること。指標としている訳ではないが、もしこの一件で『神龍』や『大聖霊』と敵対した場合より強い方が良い。
新月黒熊や白滅聖熊も良かったが……この化け物にするか。
【それでは、進化を始めます】
俺が心の中で決めた瞬間、身体の奥底から熱が沸き上がる。
流石に二回目、少しは慣れたのか意識が飛ぶことも熱に苦しむことはない。だが、肉体が確実に変わっていく。
この暗闇のせいで身体がどうなっているかは分からない。だが、身体の筋肉が凝縮され、圧縮されているのが何となく分かる。人間に近しい身体へとなっていっているのだろう。
【通常パッシブスキル:精霊種を入手しました】
【通常パッシブスキル:精霊信仰を入手しました】
まぁ、ここまでは普通だよな。
【通常アクティブスキル:呪刻を入手しました】
【通常アクティブスキル:呪毒を入手しました】
【通常アクティブスキル:福音を入手しました】
【通常アクティブスキル:死告を入手しました】
【通常アクティブスキル:人格汚染を入手しました】
【通常アクティブスキル:眷属化・精霊種を入手しました】
【通常アクティブスキル:調律を入手しました】
【通常アクティブスキル:人化を入手しました】
【魔力アクティブスキル:エンチャントを入手しました】
【魔力アクティブスキル:狂気庭園を入手しました】
【魔力アクティブスキル:呪詛を入手しました】
【魔力アクティブスキル:狂乱を入手しました】
【通常パッシブスキル:精霊淘汰を入手しました】
【通常パッシブスキル:傾国を入手しました】
【通常パッシブスキル:狂気を入手しました】
【通常パッシブスキル:冒涜を入手しました】
【耐性パッシブスキル:魔蝕の鎧を入手しました】
【耐性パッシブスキル:精神汚染無効を入手しました】
【耐性パッシブスキル:冒涜無効を入手しました】
……とんでもないスキルばかり入手してしまったよ。だが、こういったスキルがとんでもなく強力だったりするからお蔵入りさせることも出来ないから大変なんだよな。
ステータスを見せてくれ。
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名称:エリラル 種族:ベルセルク
Lv.一
攻撃力:五四二
防御力:六四四
素早さ:二九四
魔力:七一二
通常アクティブスキル:【収束】【放出】【探知・嗅覚】【忍耐】【血液陶酔】【殺戮魔拳】【戦乱狂演】【並列思考】【記録保存】【幻視】【罪禍の虚眼】【虚ろ瞳】【他心通】【五業堕とし】【影体】【風刃】【神魔の瞳】【魔曲・獣歌】【魔曲・狂歌】【呪刻】【呪毒】【福音】【死告】【人格汚染】【眷属化・精霊種】【調律】【人化】
魔法アクティブスキル:【硬化】【硬斬】【土属性魔法】【不血魔爪】【吸血魔爪】【幻術】【幻夢の魔霧】【召喚術】【追放術】【天翼摂理】【魔力糸】【治癒魔法】【風属性魔法】【エンチャント】【狂気庭園】【呪詛】【狂乱】
通常パッシブスキル:【転生者】【逸脱種】【押し潰し】【ランナー】【剛力】【拳打】【毒耐性】【魔力操作】【自然治癒】【殺戮】【狂戦士】【百頭狩り】【狩人】【悪食】【悪魔種】【悪辣】【非道の獣】【悪魔信仰】【暗視】【精霊刻印】【精霊淘汰】【傾国】【狂気】【冒涜】
耐性パッシブスキル:【痛覚耐性】【熱帯性】【火属性耐性】【魔蝕の鎧】【精神汚染無効】【冒涜無効】
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能力値が下がったか?……いや、俺が努力して高めた数値が無くなってゼロからやり直しになっただけだろう。そう大差ないしある程度は動けるだろう。
……物騒なスキルが増えたなぁ。
「終えたか?」
影の中を遠い目をしていたら背後のエンゲツが話しかけてくる。
エンゲツの方も人間に近い姿に進化したのか。【暗視】があっても見れないが朧気に輪郭は分かるがな。
「ああ。……お?普通に人間の言葉が話せるな」
「そうだ。吾らの中にも人の見た目をとる者もいる。無論、吾らの中でも極一握りだけだがな」
「まっ、それでも構わないか。……さっさと殺るぞ」
「ハッ、分かっている」
イスタリの居場所はこの影の中でもよく分かる。
恐らく、【精霊淘汰】の影響だろうな。
【精霊淘汰:付近の【精霊種】を探知。
【精霊種】に対して攻撃力に補正】
本当に【精霊種】を潰すためのスキルだな。だが、イスタリを相手にするにはちょうど良いか。
影から浮上した瞬間、俺の蹴りとエンゲツの拳がイスタリの胸に叩き込まれる。
「ガッ――!?」
あまりにも突然の攻撃に防御も出来なかったイスタリは地面を何度も転がっていく。
今ので殺すつもりだったが、流石に無理か。だが、それでも問題ないか。
……それにしても、エンゲツもかなりの進化を遂げたな。
チラリと隣に立つエンゲツの姿を見る。
エンゲツの人に近い姿は巌のような大柄な男だ。身長は俺とそう大差はないが体格が筋肉でゴツゴツとしており顔には固い表情を浮かべ、太い眉はひそめ、鋭い眼差しでイスタリを見ている。
臀部から蜥蜴の尾が生え、両腕は茶色の鱗で覆われ、こめかみの辺りから二本の捻れた角が生えておりエンゲツがドラゴンだと思い出させてくれる。
どこから取り出したのか服を着ており、山吹色の短めのズボンを履き上半身には薄くフィットする白い服と右肩から茶色のマントを垂らしている。
ある意味エンゲツらしい身体をしているが……まぁ、俺よりはマシか。
俺の身体はエンゲツとはうって変わってかなり細い。体つきは細いが筋肉は必要な量だけついている細マッチョで二の腕と脚に白い毛が生え、手は人間だが爪は鋭い鉤爪だ。腕には幻想死熊の頃からあった紋様がある。
顔立ちはよく分からないが髪の毛は白く、ボサボサ。腰の辺りにまで伸びている。服は菊が描かれた黒の着物だが帯はなく、上着のように羽織っている。服は大正ロマンの学生のような学ランで案外動きやすい。
たく……だが、服はあってもなくても別に良いか。それに、こういったピシッと決まった服は嫌いじゃない。
「ゴフッ……ば、バカな、この僅かな間に進化をしただと……!?」
「答える必要はない」
「その通りだ、イスタリ。俺らは俺らだからな」
剣を杖の代わりにし、兜の隙間から血を垂らしながらも立ち上がるイスタリに向けて拳を構える。
胸部の鎧が凹んでいる。今の今までダメージが入らなかった鎧に致命的なダメージが入った証拠だ。
なら、壊せる。あいつの絶対の防御を崩した以上その優位性は完全に失われた。
「始めるぞ」
「始めるか」
ここからが本当の闘いだ。




