精魔衝突
『行くぞ!!』
『アア!!』
俺とエンゲツは互いに【テレパシー】で呼び掛け同時に地面を蹴る。
「行くぞ、魔物ども!!!」
イスタリも剣を中段に構え同様に地面を蹴り俺らに接近する。剣の間合いに入った瞬間、僅かに速かった俺に向け剣を下から上へと振るう。
切り上げられる剣を【硬化】させた右腕で防ぎその隙にエンゲツが拳を打ち出す。
イスタリは拳の軌道に左手の掌を向ける。その瞬間、水の砲弾が放たれエンゲツの肉体を吹き飛ばす。
「ぬっ!?」
その瞬間、エンゲツの身体は霞となって消える。
驚きのあまり剣の力が緩まる。その瞬間腕を広げ体勢を崩す。
突然の事に体勢を崩したイスタリの顔面を真上に跳躍していたエンゲツの尾が叩きつけられ地面に頭を打ち付けられる。
打ち合わせも何もやっていなかったが予想していた以上に連携がとれてるな。元より、俺らには【幻術】がある。人間である以上俺らよりも五感は鈍い。故にあっさりと嵌まる。
「小癪!!」
飛び起きて地面に刺さった剣を引き抜くと同時に俺に切りかかる。エンゲツが間に割り込み剣を両腕をクロスさせ防ぐ。
その隙にエンゲツの影を利用して影の中に潜り込む。少ししたところで飛び出しイスタリの頭を掴み強引に目の前に叩きつける。
「がほっ!?」
突然地面に叩きつけられたことで受け身もとる事が出来なかったイスタリはフルフェイスの兜の隙間から血を吐く。
流石に【影体】を利用した移動術は予想していなかったようだな。まぁ、だからこそやった訳だが。
追撃の踏みつけを横に転がって回避しそのまま立ち上がり地面を蹴って接近と同時に上段に構えた剣を振り下ろす。
俺に剣が触れた瞬間霞と消え攻撃の体勢を整えたエンゲツの蹴りが腹に炸裂する。
地面を何度も跳ねながら転がるエンゲツが転がる先に回り込み影から出ると同時に背中を蹴り飛ばす。
「くっ……!」
俺らの連続攻撃に耐え抜いたイスタリは立ち上がると鎧に付着した血を拭う。
へぇ……あれだけの攻撃を受けても鎧に傷一つついてない。どうやら、かなり硬度の高い鎧なのだろう。あれを越えないと直接攻撃が出来ない。
手首のスナップだけで風の刃五つほど飛ばすが全てを剣で打ち落とされる。そのまま地面を蹴って疾走し俺に向けて剣を切り上げる。
振り抜いた瞬間、俺の身体は霞と消えその僅か先に立っていた俺が風の砲弾をイスタリの腹に向けて放つ。
咄嗟にイスタリは右腕を砲弾の軌道に置き盾にして防ぐ。
地面を擦りながら威力を圧し殺し歯を食い縛って一気に上に投げ飛ばす。
「魔物の癖に魔法を……!」
話している余裕はないと思うぞ。
砲弾を上に上げた影響で開いた腹に影から浮上したエンゲツが掬い上げるように腕を振るう。
イスタリは咄嗟に飛び退いて間合いの外へと出る。飛び退き様に魔法を発動させ風の円形の刃をエンゲツに投げつける。
回転する風の刃を尻尾で弾き飛ばし、口から炎を吐く。それと同時に炎の中に突っ込む。
熱い。だが、この程度なら問題ない!!
「なっ!?」
炎から抜け出ようとするイスタリの腕を掴み直接空気の塊をイスタリの腕につける。
腕を払い炎から抜け出た瞬間、空気が爆ぜる。
ちっ、これでも傷つかないのかよ。
炎の中から出てきながら隣に立つエンゲツに目線をやる。エンゲツは頭を横に振るとイスタリの方を見る。
そうか。あれはエンゲツでも無理か。……仕方ないか。エンゲツも俺と同じ程度のランクだろうしな。あのランク、魔物同士には意味をなさないが人間相手ならそれなりに意味を持つからな。
「くくっ、貴様らに私を傷つけることは出来ない」
勝ち誇るような笑い声をあげるイスタリに腕を軽く払い【風刃】を飛ばす。
だが、鎧に弾かれ霧散していく。
……魔法ではない。何かしらのトリックがある筈だ。
「この鎧は『聖霊装束:三式』。『大聖霊』様の加護を持つ鎧。この鎧はランクC以下の魔物の攻撃を弾く。貴様らがどれだけ攻撃しようと無駄だ」
剣を背中に担ぐように構えながら男は高らかに俺らに告げる。
情報開示ありがとう。だが、これは不味いな。その能力だと俺らの攻撃は無駄になる。例え間接的な攻撃、例えば衝撃波でもその威力では肉体を殺すことは出来ない。
参ったな……これは。流石に反則過ぎないか、その鎧。
だが、勝ち目はありそう何だよな。
『おい、進化できるか?』
『無論ダ。オ前トノ戦イデ条件ニ達シタ』
それは、進化。これでランクを一つ上げる。
だが、進化は少しばかり時間がかかる。そのため戦闘中に進化は難しい。
「では、行くぞ!!」
ッ!!速い!!
地面を蹴り最短距離で接近するイスタリに向けて拳を合わせる。
流すように剣で逸らされ、回転しながら胸を逆袈裟に斬られる。
右の掌に風の砲弾を作り上げイスタリの腹に当てて距離をとる。開いた間隔にエンゲツが割り込み掬い上げるようなアッパーで顎を捉える。
だが、怯むことなくイスタリは空中で回転しながら剣を振るいエンゲツを切り飛ばす。
地面を蹴り疾走しエンゲツの背中に腕を合わせ勢いを緩めさせながら風の刃を放つ。
――それでも時間稼ぎにもならない。
当たりながらもイスタリは剣を上段に高らかに上げる。
剣は白い光を帯び、幾重にも重なる層は光を受ける毎に万華鏡のように変わっていく。そして、その光は剣の刃に収束、折り畳まれていく。
その瞬間、俺の本能が警鐘を激しく鳴らす。
不味い、あれは不味すぎる……!あれを諸に喰らったら確実に死ぬ!!
『不味イ――!!』
『分かっている!!』
「装填、完了」
俺らが影に潜ろうとした瞬間、イスタリの声が響く。
「『バースト』」
そして、剣が振り下ろされる。
「……グル?」
その瞬間、俺は気がついたら火の中にいた。
一体……何が……!?
目の前の状況を見て、絶句する。
俺の目の前には多くの焼けた家屋が建ち並び、多くの人たちが逃げるのを止め俺らの方を見ている。俺らが吹き飛ばされた際に通ったであろう道の近くの家屋は倒壊し、下敷きになった人間の死体は火の炉へと送られる。
そして、その奥にある壁は……一部が切り崩れていた。
まさか、あの一撃で……!?
「ガフッ!!」
口から血を吐きながら、何とか自身の身体を見る。
傷が深い。臓器はやられていないが骨が何本か逝っている。筋肉の方にも裂傷が走っている。【自然治癒】も追い付いてない。
だが、あの一撃をまともに喰らえば確実に死んでいた筈……無意識のうちに【硬化】を使っていたか?
だが、エンゲツがいない。まさか、さっきの攻撃で殺られたか?
『オイ!聞コエルカ!?』
『ああ、聞こえてる。お前の方は大丈夫か?』
『ダメージガ深刻ダ。……ダガ、コレデ時間ヲ稼ゲル』
『ああ』
【治癒魔法】で傷を塞ぎながら頭の中に響くエンゲツの声に答える。
どうやら、向こうも無事らしい。流石に場所までは分からないが、問題ないようだ。どうやら上手く撒けたようだ。
さて、こっちも逃げるか。
「放てー!!」
「「「【ウィンドランス】――!!」」」
これさえなければ、だがな。
駆けつけた冒険者たちが一斉に風の槍を放つ。
咄嗟に空気の塊で盾を生み出し防ぐ。
「グルオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
突風が俺の身体を擦りながら天を仰ぎ見る。
そして高らかに【咆哮】する。
「ぐっ――!?」
耐性のない冒険者たちは気絶し魔法を使おうとした冒険者は魔力を暴発させる。
辺りから聞こえる爆ぜる音を聞きながら影の中へと落ちる。
ここでなら、進化できる。あいつは【精霊種】、【悪魔種】でない以上影の中には潜り込めない。今の戦場でここほど安全な場所はない訳だ。
エンゲツも既に潜っているだろうし合流次第、進化を始めよう。




