魔竜強襲
夜中、のんびりと生肉を食べながら夜空を見上げる。
日が落ちた頃合いで何度も眠ろうとしたがこの嫌な予感が胸を掻き立てる。そのため、暇潰しにと猪や狸を殺し食している。
だが、晴れない。この嫌な予感が晴れることはない。
それは人間側も同じなのか城壁の上で警備をしている兵士たちの数が何時もより多く、辺りの草原に冒険者たちが警備している。
肌がピリピリと痛み、毛が逆立つ。強者が纏う空気がここら一体を覆いつくしているのか?……だとしたら、何だ。
「グルル?」
何だ、あれは。
南東の方角、ちょうど山が見える方向から夜空を覆い尽くす何かが群れをなしこちらに向かって突き進んでいる。
鳥の群れか……?いや、違う。これは違い過ぎる。それならこの空気を発生させる訳がない。嫌な予感がする。
『ミスト、起きているか』
『起床済み。主人、気配、気付いてる?』
『ああ。……戦闘の準備を整えろ。この街は戦場に変わる』
『了承』
ミストと【テレパシー】で連絡をとり腰を上げて歩き始める。
冒険者や兵士たちも気付き始めた。冒険者の中には【暗視】を持っている奴がいるのだろう、他の冒険者に指示を出している。
それに、俺も視認した。
群れは全身を灰色交じりの鱗を全身を覆い鳥のような二足の足を水平に背中から生える蝙蝠の翼を羽ばたかせている。
口から見える牙は鋭く、長い尾の先は逆立ち、白目の部分は黒く、金色の瞳は街を注視している。
俺が容易に想像できる。あいつらは――ドラゴンだ。
【ドラゴン:魔物の系統の一種。
魔物の中で最強に位置付けられている。
成体は最低でもCランクに相当し、全個体が極めて高いポテンシャルを秘めている。
その身体は余すことなく様々な分野に使用される。
数年に一度、遠征と呼ばれる現象が起きる。
遠征は成体による人間狩りであり魔物が原因で起きる厄災の一つとして数えられる】
説明どうも。だが、俺は魔物であって人間ではない。襲われる心配はないが……流石にこの街を落とされるのは少し困る。ミストやカーリー、それとシリウスがいる訳だからな。
と、いうわけで潰させて貰お
ドゴオオオオオオオン!!
「グルアッ!?」
な、何だと!?
壁の方に向かって歩き森を抜けた瞬間壁の一角に炎の玉が直撃する。
爆ぜた瞬間、凄まじい衝撃と熱風が吹き荒れ兵士たちが壁の上から落ちていき地面に叩きつけられ肉塊に変わる。
まさかの先制攻撃はドラゴン側かよ……!だが、これは不味い。壁の一角が崩れた。侵入しやすい箇所が出来てしまった。あれを再建するのは俺の魔法だけでは無理だぞ……!
「ガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」
「グルアッ!!」
邪魔だ!!
真上から急降下するドラゴンの噛みつきを避けることなく両手で受け止め口から風の砲弾を放ち内部から破壊する。
ちっ……完全な肉塊にするつもりで放ったのに原形を留めていやがる。だが、構わないか。
腕を振るい【風刃】を放ちドラゴンの一頭を森の中に落とす。
だが、その瞬間
「「「「ギャアァァァァァァァァァァァ!!」」」
人間どもの絶叫が響く。
慌てて壁の方を見れば既に何頭ものドラゴンが侵入し街を破壊し始めていた。街には火の手が上がり、泣き叫ぶ声が聞こえる。
ちっ、もうドラゴンが街に侵入したのかよ。そりゃ空から攻められれば防御も糞もないか!!
『主人、お怪我は!?』
『問題ない。そっちは』
『ドラゴン、恐らくワイバーンが侵入。北の門よりドラゴンが一頭。強敵。自分が相手を』
『ダメだ。……俺が殺る。ミストは街に入ったドラゴンを殺せ』
『……了承』
焼ける門と喰われる人間の姿を見ながらミストからの【テレパシー】に答えると四足歩行で走り始める。
ここから街までは走れば一分とかからない。それに、冒険者や兵士が外に出ていてくれたお蔭でワイバーンと呼ばれるドラゴンが壁の外に出てくれてる。
これは僥倖。俺は魔物である以上街に入れない。故にワイバーンを殲滅させるのが得策だ。
「ガアアッ!!」
空気の足場で跳躍、地面に降り立ち人間を喰らうワイバーンの上を取る。落下の力を左の【硬拳】に【収束】させ頭を殴り付ける。
たった一撃でワイバーンの頭は地面に叩きつけ硬質な鱗を破壊し頭蓋骨を脳ごと粉砕する。
動かなくなっなワイバーンから飛び退く。その瞬間他のワイバーンが炎のブレスを吐く。
ちっ……仲間に当たる事も計算内かよ!!だが、それならこっちも!!
着地した瞬間ワイバーンたちに手を向ける。その瞬間、ワイバーンたちの足を泥が絡めとる。
驚くワイバーンたちに向けて接近し【硬化】させた魔力の糸を眼球に差し込み奥の脳を糸で切断する。
【魔力アクティブスキル:魔力糸を入手しました】
お、新しいスキルを入手できた。……だが今更感が半端ないな。種族によって手に入れやすい、入れにくいスキルでもあるのだろうか。
人形に変わったワイバーンが地面に倒れる。糸を指先に戻す。上空にいたワイバーンの尻尾による突きを【硬化】させた腕で防ぐ。
重っ!!見た目以上に重い!それに硬い。まるで槍による突きをもろに食らったような感じだ。食らったことないけど!!
地面に両足を地面に踏みつけ勢いを押さえ込む。
ズザザザザ、という音と共に後ろに離れさせられ、止まった瞬間着地したワイバーンの尻尾の大薙ぎを空気の塊で防ぐ。
速い。Lv.九二の俺とそう大差はない。だか、甘いぞ!
腕を上に大きく凪ぐ。その瞬間、ワイバーンの真下の地面から鉄の槍が放たれる。ワイバーンの腹を何本もの槍が刺し穿ち串刺しにする。
死んだワイバーンから杭を引き抜き辺りを見回す。
とりあえず、この辺りの壁に降りたワイバーンは倒せたな。人間どもも気付いてるし、さっさとここから立ち去るか。
『否、必要無キコト』
ん?一体誰が
『吾ガ潰シテオコウ』
一体何を……
俺の頭に直接響く片言の声の意味を問い質そうとした瞬間、俺の影の中からドラゴンが浮上する。
咄嗟に飛び退くが影から浮上したドラゴンは二つの足で地面を掴みその鋭い眼光を俺に向ける。
こいつが俺に【テレパシー】を送っていた奴か。だが、ドラゴンにしてはワイバーンとは全く見た目が違うな。
まず翼がない。茶色の鱗に覆われ額には鉄板のような厚い鎧に覆われてる。そもそも、二足歩行だ。
体格もワイバーンより小さく俺と同じくらいの身長だ。だが、その肉体は素晴らしい。無駄な贅肉はなく戦うための肉しかない。
ドラゴンというよりもボクサーやプロレスラーのような実用的な肉しかない。まさに戦士、武人と言えるだろう。
「放てー!!」
「「「【フレイムウェーブ】!!」」」
俺がドラゴンと相対している壁の方から冒険者の声が聞こえる。
何事かとそちらを向くと炎の大波が俺らを押し流そうとするかの如く迫ってきていた。
同じ魔法を同じタイミングで撃つこと威力や範囲を広げているのか。
『無駄なことを。【泥下埋葬】』
『無駄ナコトヲ。【粉塵鏖殺】』
鬱陶しそうに俺らは同じ言葉を言いながら腕を振るう。
その瞬間地面が泥へと変わり炎の大波とぶつかり合う。火の勢いは逸れそのまま泥に呑み込まれる。
火の勢いが収まった頃合いに冒険者どもの方が見える。だが、そこにあったのは金色の粉と血の海だけだった。
へぇ……中々に強いな。
『コノ程度、些事ニスギズ。吾ラノ戦イハコレデ充分』
ドラゴンは自分に拳と拳をぶつけ狂暴な笑みを浮かべる。そして拳を俺の方に向け腰を落とし構える。
まぁ、そうだよな。こいつには魔法の殆どは通じなさそうだし一番俺が使い慣れている得物で戦うのが得策だろうな。
拳を構えながらドラゴンを見る。
ステータスを見せろ。流石に事前情報無しはキツい。
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名称:エンゲツ 種族:幻想地竜
Lv.九〇
攻撃力:七九二
防御力:六三二
素早さ:二三五
魔力:一四五
通常アクティブスキル:【咆哮】【忍耐】【打砲】【連動繋ぎ】【影体】
魔力アクティブスキル:【ブレス】【土属性魔法】【幻術】【硬化】【硬拳】【硬尾】
通常パッシブスキル:【天武】【剛力】【拳打】【押し潰し】【魔力操作】【殺戮】【暗視】【悪魔種】【悪魔信仰】【剛腕】【狩人】【武人】【自然治癒】
耐性パッシブスキル:【痛覚耐性】【竜鱗】
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……俺のステータスを見せてくれ。あ、攻撃力とかだけで充分だ。
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攻撃力:七八三
防御力:八五三
素早さ:三〇四
魔力:七三二
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予想していた以上に上がりが良い。ていうか、良すぎる。キメラとの戦いが大きなプラスになっているのだろうけどこれは上がりすぎだろ。
【魔曲シリーズは攻撃力の成長率に極めて高い補正がかかります】
先に言えよ!!てか、倍率高すぎるだろ!どんだけバグスキル何だよ【魔曲】シリーズは!!反則も良いところだよ!
だが、そのお蔭でドラゴン――エンゲツよりもステータスだけなら上だ。だが、油断すれば確実に殺られる。それは変わらない。
ここで潰してやるよ、エンゲツ。




