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青年の指標

狼の肉を咀嚼して飲み込み、骨を噛み砕く。余った肉を【追放術】で飛ばして森の中で横になる。


「オン」


のんびりするのは嫌いではない。


犯罪組織を潰してから七日経過したが、【虚ろ瞳】で街の中を見た感じ俺が疑われている様子はない。まぁ、俺が侵入した形跡を残していないから疑われるも糞もないけどな。


街にいるミストからの情報によると、今多くの冒険者が貧民街の警戒に当たっておりそれなりの金が報酬として与えられているらしい。そのため、外に出ている冒険者の数は少ない、とのことだ。


確かに、ここ最近冒険者の連中との遭遇がそこまで多くない。個人的には楽だがそんな理由があるとはな。


さて……時間もあるし入手したスキル、特に絶対にヤバいスキルの説明を見ていくか。


【魔曲・獣歌:【魔曲】シリーズの一つ。

過去に虐げられ、差別されてきた者に対する求心力を増幅させる。

その歌は人に深く突き刺さり、善にも悪にも誘う。善に使えば神に等しき者に、悪に使えば邪神となるだろう。

入手条件:rdBrsvhzbyxbjrb】

【魔曲・狂歌:【魔曲】シリーズ。

相手の五感を狂わせ索敵を無効化し、弱い心の持ち主を発狂させる。

その歌はあらゆるものを狂わせる。自らが抱える狂気をもって自壊し数多の悲鳴の中を嘲笑と共に渡り歩く。狂気の芽を咲かせるために。

入手条件:ydjrdbjzhyZhtcBhg】

【天翼摂理:【天翼】シリーズ

相手の欲望につけられた枷を外す。

相手の罪悪感を消去する。

あらゆる罪を許し、あらゆる悪を肯定する。それは滅びと共に訪れる天のラッパの如く国を傾け、戦乱の中を天より見定める。傾国と共に世界に祝福が訪れるだろう。

入手条件:FdGdhydjdxUwbj】

【神魔の瞳:神より簒奪せし権能。

あらゆる目にあらゆる特性を付与する。

目に写るものの本質を見定める。

神は全てを見定める。あらゆるものを見定め、観測する。だが用心せよ。深淵を覗くことは禁忌へと至ることを。

入手条件:EbdzJVfKckxkyc】


「ガアッ!?」


今までと比較にならない激痛が頭に走り、頭を手で押さえ歯を食い縛り痛みに耐える。


な、何だこのスキルは。あまりにも規格外過ぎる。【逸脱種】のようなチート染みたスキルだがこいつはそれ以上だ……。化物過ぎる、あまりにも化物過ぎるスキルだ。


だが、それと同時に用法を間違えなければ戦局を大きく動かせる究極の一手になりうる。悩みどころだな。


「【ウィンドショット】!!」


む……?


フル回転している頭の鈍痛が静まってきた頃、森の奥から風の魔法が発動したのを察知する。


誰かが森の奥に向かったのだろうか。ちょうど良い、少し狩りといくか。


ゆっくりと起き上がり、四足歩行で声の聞こえた方向に向かって歩く。


「【ウィンドショット】!!はぁ、はぁ――!!」


茂みを歩き開けた場所に出ると革鎧を改造し貴公子のような服装を着た青年が手を真っ直ぐに構え滝の方に向けて魔法を放っていた。


その整った顔は焦燥と汗に濡れ、歯を食い縛り、顔を歪めている。息も絶え絶えであり魔力の限界も近いのが見て分かる。


あいつは……確かカーリーのパーティのメンバーだったな。名前は確か……覚えてないな。風の魔法の使い手だった事は覚えてるが、そこまで接点があったとは言えないしな。


二人とも貧民街の方に行っているから一人で自主練をしている……と言ったところか?


「【ウィンドショット】!!……くそっ!!」


風の弾丸が滝の水飛沫に消えたのを見て青年は膝を落とし水底を拳で殴り付ける。


「ダメだ、このままじゃミスカーリーを、ミスターアルスを助けれない!僕を認めてくれた彼らが見ず知らずの誰かに傷つけられる現状を変える事が……!」


青年の嘆きを聞いた俺は頭をポリポリと掻くとため息をついてしまう。


全く……俺も馬鹿だよな。俺の命を狙っている連中に少し、ほんの少しばかりの共感をしてしまうとはな。


「何や――」

『遅いぞ、戯け』


俺に気付いた瞬間、地面を蹴り背後に回り込み脇腹に爪が触れるギリギリのところで止める。


振り返ようとしたところで爪を脇腹に差し込む。じわりと広がる赤い血に青年は顔を痛みに滲ませる。


「まさか、【テレパシー】か……!?」

『答える道理はない。こちらとしては関わるつもりはなかったが、僅かばかり面白そうな独り言が聞こえたものでな』

「面白い……!?この切実さを嘲笑うか!」

『嗤うさ。守る者を見定めながらもその実力のない弱者。そんな弱者に守られる何てどうしようもない者たちよ』


弱者が弱者を庇う。そんなの命を賭けた闘争においてどちらも命を失う結末しかならない。それはあまりにも滑稽で仕方がない。


「僕を嗤うのは良い。慣れてる。でも僕の友を……嗤うな!!」

『遅い』


青年が爪が深く入る事を躊躇わずに振り返る。血が爪を伝い川に落ちていく。それでも青年は俺の顔に向け右手を向ける。


その瞬間、少年の身体は風の弾丸に吹き飛ばされる。


「がっ!?」


川の中を青年の身体は何度もバウンドする。それでも濡れた身体をむち打ち起き上がると青年は右手を構える動作を始め


「ごっ!?」


俺の風の弾丸が青年の右手をひしゃげる程にぐしゃぐしゃにされる。


『言った筈だ、遅いと。【魔力操作】がなければ俺の魔法に対応できると思うな』

「【魔力操作】……!?魔法の発動に詠唱が必要なくなるスキル……!」

『守るのなら、最低限このスキルを入手しろ』


魔法主体で戦うのなら最低限これを手に入れなければあっさりと殺される。ソースは俺。


「そんなの……無理だ。ヒューマンである僕には人間だとエルフ以外に入手できないスキル何だ」

『無理?……お前の気持ちはその程度か。お前の守りたい者たちへの気持ちはその程度か』

「くっ……!そんな訳……!」

『ならば、その気持ちに見合うだけの実力をつけろ。方向性は示した、お前が進むか引くかは自分で決めろ』


血を垂れ流しながら俺を睨み付ける青年に方向性を示したところで俺は背中を向ける。


これは絶対にお前には殺されないという意思だ。


この意思は青年にも伝わり、より一層怒りを内包した視線を向けてくる。


そうだ、それで良い。その怒りは自身の弱さに対する怒り。その屈辱はお前自身がよく知っているだろう。なら、その屈辱を払う行動をしなければならない。


どの道を歩んでも俺はどうでも良い。俺にとってはどうでも良い。


だが、この生存競争を、弱肉強食の残酷な世界で弱者を守るのなら不可能を可能にしなければならない。食われる弱者から食らう強者にならなければならない。


それこそが、誰かを守ると言うことだ。


『ああ、そうだ』


ふと思いだし青年の方を向く。


怒りに満ちた良い面だ。その怒りをどうするか、それはお前が決めることだ。


『お前の名を聞いておこう』

「……シリウスだ」


『そうか、覚えておこう。……這い上がれ、弱者。それだけが残酷な世界で誰かを守れるのだ』


青年――シリウスの名を聞いたところで森の中に入り、川の方からゆっくりと去っていく。


傷を回復させておいた方が良かったかな……?まぁ、それぐらいどうにかなるだろう

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