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閑話 国王崩御 sideタリス

「ふぅん、試練は達成されたのね」


【虚ろ瞳】を閉じ目蓋を開け面白そうに笑う。


私は今、とある男と会うために王城に来ている。


そしたらテリトから「宴が開催されます」と連絡が来たため【虚ろ瞳】を飛ばしてみたけど……うん、良いものが見れたわ。


それにしても、あいつはよく考えたわね……私だったらこんな手法思い付かないわよ。


あいつが熊さんに仕掛けた試練は『【魔曲】を入手する』こと。【魔曲】シリーズと呼ばれるスキルはそれぞれ固有の特性と進化先に大きな影響を与える。希少価値は極めて高く、人間で言うところ『レアスキル』に該当するわ。


入手条件は人間側では不明……でも、私たちは私たち自身が保有しており情報の照らし合わせれた結果、その入手条件も明らかになっている。


その入手条件とは、『反転した魔力を長時間取り込む』こと。ここでいう長時間というのは数時間だったり数年だったりとまちまちだけどね。


そして、『反転した魔力』と言うのはその生物の本質……どんなに歪んでも絶対に変えれない特性と対になる特性を秘めた魔力のこと。


私の場合は『退廃』こそが本質。けれど忌々しい『健全』な生活を強要され続けた結果、【魔曲】シリーズのスキルを入手するに至ってしまった。


それと同じように、『生命の尊厳』を本質とする熊さんにとって『生命の冒涜』そのものと言える『農場』の魔力はまさに対になる。あいつはそれを織り込んだ上で熊さんを向かわせたのだ。


結果、熊さんは【魔曲】シリーズのスキルを入手するに至った。


「でも、少しおかしなことがあるのよねぇ……」


それは熊さんが入手した二つのスキル【比翼摂理】と【神魔の瞳】。この二つはあいつにも予想外でしょうね。何せ、この二つに関しては私たちも知らない、正真正銘の『レアスキル』だもの。

入手したタイミングで何かが起こった……そう考えて良さそうね。


「でも、それもそれで面白いわ」


応接室であの男を待ちながら紅茶を啜る。


私たちの予想を越える。それは幾年もの歳月を生きてきた私たちですら見通せない未来があるということの証明。


その果てに何が残るのか……それはそれで楽しみで仕方ないわ。


っと、そろそろ『儂』も仮面を着けるか。あやつの魔力を感じたしそろそろだからの。


「来たか、イノティウス」


両開きの扉が開き、マントに身を包んだ老年の男が応接室に入ってくる。


イノティウスは儂の同年代の総帥、つまりはかつて儂の上司であり、今はこの国の国王を務めておる。国王としての名はアルゴ二四世。建国王アルゴよりとった名だ。


「久しいな、メリースノー。それとも、タリス嬢と呼んだ方がよいか?」

「嬢は止せ、イノティウス。儂らはほぼ同年代だろうが」

「ほっほっほっ!現役を退き、肩を並べて戦った戦友は多くが死に、残ったのはエルフの少女のみ。つい昔のようにからかってみてしもうたわい!」


笑うイノティウスに呆れながら紅茶を啜る。


確かに、儂とこやつが隣に立てば老人と孫にしか見えないだろう。それに、イノティウスは昔から儂の事をチンチクリンだの小娘だの言ってきおった。今思い返しても腸が煮え繰り返るわ。


だが……長い顎髭を生やし黒かった髪を真っ白に、筋肉がよくついた肉体をスリムになる程にこやつにとっては時間を経ってしまった。かつての戦友も儂以外全員失い、五年ぶりに儂と会えたのだ、少しくらい羽目を外させても良いだろう。


「おや、昔のように怒るかと思ったがの」

「儂とて歳をとった。心の趣が変わるのも当然だろう」


実際には歳をとっておらんが……まぁそこら辺は言わないのがご愛嬌じゃろう。


「そのくせ見た目は変わってないがのぅ」

「ふん、儂はエルフ、お主らとは生きる歳が違うのよ」

「ほっほっ、昔のお主はどこか落ち着きがなかったからの」

「そちらこそ、昔のお主は戦闘訓練が生き甲斐だったようなものだったろうに。歳をとったものだの」

「ほっほっ、歳をとるとかつての熱も冷める。無論、今とて剣をとっておるがの」


昔の事を回顧するように話をしながらメイドが淹れてきた紅茶を嗜む。


こやつにとって、儂と会話すること自体が楽しみなのじゃろう。なら、少しばかり付き合うのも酔狂だろうかの。


「……して、本題に入ろうかの」


会話を初めて十数分、イノティウスがカップをテーブルに置き、真剣な眼差しで儂を見つめてくる。


「儂の孫のためにお主の養子を学園へ入れるための推薦を承諾してくれて、ありがとう」


深々と礼をするイノティウスに数日前の事を思い返す。


数日前に国王からの使者が来てアリスとラスティアの学園への入学の案内を渡してきた。元より情報を眷属から聞いておった儂にとっては知っていたことだが二人は狂喜乱舞しておったわい。


「何、あやつらが自らが願ったこと。儂とて良い行いだと思っておる。して、何故儂に話を振った」

「孫娘は些か剣術に傾倒してしまっておる故に学舎にて知識を身につけて貰いたいがの……エルフと獣人がいなければ嫌だと喚くものでの。そこで白羽の矢が立ったのがお主ということだ」

「……まぁ、それは良かろう。儂とてあの学園の閉鎖しきった空気には嫌気が差しておった。ちょうど良い機会ではないか?」

「ほっほっ、確かにの。今年は例年よりも上位貴族の子息が多い。次代に繋ぐのは良いことだの」


紅茶を啜りのんびりと話すイノティウスは少しばかり優しい笑顔を浮かべる。


「して……一つ聞いてよいかの?」

「……何じゃい?」

「お主、何時から化物になった?」


その瞬間、応接室の扉が開かれ十人近くの兵士が儂を取り囲む。


兵士に護られながら、イノティウスは静かに告げる。


「昔の儂では気づかなかったが、今の儂なら分かる。……お主の魔力は人間のものではない」

「――まさか、【察知・魔力】の上位互換か」


察知系のスキルの上位互換はより広く、より緻密に察知する事ができる。それをイノティウスは保持しておったか。


それなら、『私』も仮面を外しますか。


「【魔力探知】。儂の持つ探知系のスキルじゃ。……して、お主は何者だ」

「何……君の友人だよ、イノティウス。私は表の歴史にそこまで関与するつもりはない。兵を引かせ、私の正体を黙るのであれば命だけは助ける」

「ならん。お主のような化物を逃がしておけぬ」

「……そうね、貴方は昔からそういう人だったわね」


昔から酒癖は悪く、訓練も厳しかったけど正義感はとても強かった。イノティウスとはそういう存在だったわ。


「儂とてお主を殺したくない。最後の戦友を、儂の初恋の相手を儂の手で葬ることはしたくない。だが……儂はお主を殺さなくてならない……!!」


私との会話は、心残りとも言うべきものだったのね。


「殺れ!」

「……無駄よ」


兵士がイノティウスの号令と共に突撃しようとする。その瞬間、兵士たちは自分の持った剣で首を突き刺し自害する。


「なっ!?」

「私の前で武器を持つことがダメなの。あらゆる殺傷性のあるものを操る、それが私の【魔曲】。名を【魔曲・姫狩歌】」


モチーフとなったものは私が子供の時に読んだ童話。狩りが趣味だった姫が獣たちに襲われ、最後は喰われるという悲劇。


昔の環境のせいで男と女の関係かと誤解してしまった私は童話を大好きになってしまった。本当に、滑稽な過去ね。


その瞬間、私の身体は変成する。


幼き身体が泥のように融け元の身体へと戻っていく。


最後に、イノティウスには見せたいもの。


「タリス……お主は、何者だ」


背中から黒い蝙蝠の羽が、臀部からは先がハート型の細い尾が、こめかみには二本の捻れた黒い角が生える。


身長も大きくなり髪も腰の辺りにまで伸びる。ローブから胸元の露出多いドレスへと変わり豊満な胸を見せつけるように立つ。


「サキュバス……【悪魔種】の一種。人より変生した魔物よ」

「……魔物、だったのか」

「ええ、そうよ。あの日、私の人生は歪んだ。故に、私は『衰退』の旅をもって興衰を見てきた」


あの日の事は今でも思い出せる。今でもあの時の快感を思い出せる。


故に、私は衰退させる。退廃的な絶望こそが私にとって究極のご馳走だから。


「そして、貴方はここで死ぬ。……何か言い残すことはないかしら」

「……孫に伝えてくれ。これより混迷の時代が訪れる。振り返らずに前へと歩け、と」

「分かったわ。伝えといてあげるわ」


諦めたようにソファに座ったイノティウスを見て近くに落ちていた剣を手に取る。


そして、心臓に深く突き刺す。胸を貫通した剣は後ろの背凭れを刺し、イノティウスは笑顔を浮かべ血を吐き項垂れる。


もう、イノティウスは動くことがなくなった。


国王の突然の崩御。それはこの国、いいや、この大陸を巻き込む争乱となるだろう。その果てに何があるのか……イノティウスを殺した私には見なければならない、理由がある。


「……さようなら、私の戦友」


剣を引き抜き抱き締めた後、剣を握らせ幼女の姿へと戻り虚空に穴を空ける。


最後に戦友の死に姿を見て頭を下げ、穴の奥に進み家に戻る。


アリスたちがついている頃には大騒ぎになっておるだろうな。さて、私も裏で画策しますか。


帝国、聖王国、それすらも序章となる絶対的な争乱を。


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― 新着の感想 ―
[一言] 個人的には人間じゃなきゃ殺さなきゃって王様が早まったのが残念だな。
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