合成獣の欠点
「ばらwfkめevuzんぁゆじfdjmかfyd,fもんfcNかだぃくhuxどじ!!」
間合いの外でキメラは拳を打ち出す。その瞬間腕が伸び拳が間合いの中に入る。
身を横にズラして回避した瞬間壁に拳が直撃しクレーター状に陥没させる。続く攻撃を裏拳で軌道を反らし背後の壁を破壊し通路に出る。
攻撃力は高く速度はそこそこ、防御力は殆どなし……と言ったところか。思考力は極めて低いし魔法をメインで戦う、というわけではないようだ。
「ぎびわしgrjnもわgxNtdmひもぶわgxnぎわhznさまはにあは!」
「グルアッ!!」
通路に出てきたキメラの顔面に目掛けて岩の弾丸を飛ばす。キメラは回避することなく受け止め頭を吹き飛ばされる。
だがキメラは止まることなく突進してくる。
ちっ、頭はさして重要ではないのか。コアとなる部分を破壊することで動きを止める、そういった感じか。
突進を影に潜り回避し再び出ると同時に土の槍を作り出し打ち出す。
反転したキメラは背中からミミズのような触手を伸ばして土の槍を叩き落とす。そのまま伸びる触手を魔法で壁を破壊して隣の通路に転がりこんで回避する。
目が多いから背後でも正確に攻撃してきやがる。それに、動きを止めるタイミングがないからステータスを見るタイミングが掴めない。また、相手の攻撃の手数が多すぎる。近付くのも難しい。
『ミスト!救出の方はどうなっている!』
『まだ三割。破壊が凄い、主人、戦闘中?』
『そうだ。お前の言っていた化物とだ。救出を急がせろ、じきに【幻夢の魔霧】が晴れる!』
それに、魔霧の方も薄れてきている。既にかなり切羽詰まった状況に……て良い方法がある!!
「オオオオオオオン!」
吼えると同時に壁を破壊しキメラの触手を回避し四足歩行で一気に走り出す。それに釣られキメラも足を増やして走り始める。
キメラの攻撃はステータスに偏った単純極まりない、虫のように本能に従ったものでしかない。なら動物の本能とも呼べるものを刺激すればあっさりと乗ってくる。今のように、逃げる俺を追ってくるように。
「ばんにrcnなのgkhーびゆしgzまfcnら!!」
キメラの触手を土の壁で防ぎながら壁を破壊して部屋に入り込む。部屋に入ってきたキメラの足下に穴を開け落とすと同時に壁を【硬拳】で破壊して別の区画にはいる。
ここは『宿舎区画』。『農場』は生殖のためにキメラの運用を行い、キメラが適切に運用できるように通路を大きくした。そのため、構造は単純化された。その結果、幾つかの壁を破壊すれば区画を移動することができる。
「な、熊!?」
「いたぞ、こっちだ!!」
そして、『運搬区画』には俺の事を追いかけていた兵士たちが集まっている。
突然の破壊音と共に現れた俺に驚く兵士の一人を開けた穴の中に押し込む。
「へ――ぎゃあァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!?」
その瞬間絶叫が通路に響く。
咀嚼する音と共に現れるキメラの口元には赤い血がこびりつき兵士がどうなったか、一目で分かる。
兵士が行動するよりも速く、俺は通路を走り始める。
【探知・嗅覚】で人が密集している場所は判明している。そしてあえて人は殺さない。殺すのはキメラで充分だ。
「おい、こっちだ!」
「こっちから悲鳴が聞こえたぞ!」
「あ、いたっ!」
「速くしろ!相手は想定以上の怪物だ!」
通路を駆け抜ける度に兵士たちが集まっていく。
俺の前に立つ兵士たちを突進して強引に突破していく。
兵士たち以上の素早さを持つ俺ならこの室内でも充分攻撃を防げる。それに、そろそろだな。
「ぎゃあァァァァァァァァァァァァァァァァ!?」
「な、何故『クロイノロイ』が……や、止めろオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
「や、止めろ!こっちにひぎゃあァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」
剣が打ち合う音、絶叫、そして咀嚼音。背後から後ろを追っていた兵士たちがどんな状態になっているか想像がつく。
ああ、そうさ。動物というのは弱い獲物から優先して襲いたくなるよな。速い俺よりも鈍い兵士、本能の赴くままに動くキメラがどっちを選ぶか何て予想がつく。何せ、こっちも獣だからな。
それにしても『クロイノロイ』か。あの生命を冒涜しているような見た目の化物には似合いの名前だな。
「グルルルルルルルルル……オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!」
宿舎区画の中央、大きな中庭の門を突き破り中庭に出ると同時に二足歩行に戻り天に向けて【咆哮】する。
空気ははっきりと揺らされ生えている草たちが空気の振動し俺を中心に靡く。【咆哮】を止めて目蓋を閉じて嗅覚に集中させる。
中庭の近くにいた兵士たちの臭いがこっちに向かってくるのが分かる。態々どこにもいなかった獲物が自分から呼び寄せているのだからな、当然の動きだ。
それに、殆どの人間が俺が人並みの知性があるとも思ってない。熊だからしょうがないが、あらゆる可能性を考慮すべきだと思うぞ。
そして、俺を追いかけているキメラは……よし、俺を追いかけてきた兵士たちを捕食しながらこっちに向かっているな。キツい臭いだから分かりやすい。
それじゃあ……少しばかり移動させて貰いますか。
建物の影に沈み潜り中庭に面した宿舎の一室に出る。日があるところに影がある。光さえ当たっていれば建物でも【影体】による影の移動で普通に移動が可能だ。
そしてここは二階、兵士でもここにいるとは思わない。そしてここから入口までの距離はギリギリ五メートル圏内、ステータスを見れる距離だ。
「ぐにtsもるesxみもぬeaめまゆきdhねこりhdvねぬめぬrdbnyごやぎehkきめりのrwcnぱぴぬやgjmんしwfkもゆtdnしぎ!」
「こっちだ、速くし――ガアッ!?」
さあ、悲劇の始まりだ。
キメラが中庭に入ったのと同時に反対方向の扉から兵士たちが現れる。先鋒の兵士は入った瞬間キメラの触手に脳天を穿たれそのままスナック菓子のように捕食される。
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名称:クロイノロイ 種族:キメラ
Lv.三
攻撃力:八〇〇
防御力:三〇〇
素早さ:二〇〇
魔力:三〇〇
通常アクティブスキル:【生物変化】【索敵・視覚】【索敵・嗅覚】【索敵・触覚】【索敵・聴覚】【毒胞】【毒液】【透視】【超多重並列思考】
魔法アクティブスキル:【硬化】【硬拳】【硬斬】【硬鞭】【硬脚】【硬牙】【加速】【物体加速】
通常パッシブスキル:【肉体改造】【混沌】【知力皆無】【本能覚醒】【暗視】【異形】【剛力】【拳打】【薬物汚染】【悪食】【狂戦士】【精力絶倫】【殺戮】【呪い憑き】【短命】【骨肉喰らい】【触手憑き】【冒涜】【禁忌】【導き・破滅】【非道の獣】【邪悪の種】【自然回復】【疑似不滅】【邪神触媒】【結界・禁断領域】
耐性パッシブスキル:【熱耐性】【痛覚無効】【毒無効】【睡眠無効】【薬物無効】【呪詛耐性】【火属性耐性】【水属性耐性】【風属性耐性】【魔力耐性】
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その間にスキルを写しとり保存する。
だが、これは……とんでもないステータス構成だな。調整された能力、絶対にろくでもない効果のスキル、高い範囲の耐性、しかも上位互換のスキルを幾つも保有している。
こんな化物を作り上げて……帝国は何をしたかったんだ?いや、これは恐らく聖王国を確実に滅ぼすための兵器だ。もしこれを戦争で何体も配備されれば……確実に一方的な蹂躙が始まるだろう。
だが、ここで勝たないと意味はないよな。
「グアッ!?」
触手が壁を貫いて俺の腹を掠める。
ちっ……下の方は……兵士どもの臭いがしない。全滅したか。なら殺るしかないか。
影に潜り中庭に勢いよく浮上する。その瞬間飛来する液体をギリギリのところで回避する。
今のは……【毒液】か。遠、中、近距離と全てを適応させれる以上間合いを詰めなければ勝てない、か。
なら、接近するしかない。攻撃力は遅いから物量さえどうにかなればいける。
「オオオオオオオオオオオ!!」
「さehまわRxnrすま!!」
【咆哮】と共に地面蹴り疾走する。キメラも触手を伸ばし鞭のように振るう。
当たりそうになる鞭を爪で切り落とす。その瞬間鞭の切れ目が大きな口に変わる。
「ガアッ!?」
咄嗟に地面を蹴り後ろに跳ぶ。その瞬間口が勢いよく噛みつく。脇腹の肉が喰われ勢いよく出血する。
間髪入れず、足下から鋭い触手が突き出す。腕を【硬化】で触手の突きを防ぐが二つ目の触手に対応が遅れ肩を貫かれる。
触手を足で押さえつけ【硬斬】で切り落とし距離を取る。その瞬間キメラは勢いよく突進してくる。
「グルッ!?」
急激な加速と共に迫るキメラの頭に咄嗟に【硬拳】のクロスカウンターを打ち込みそのままキメラは反対の壁に叩きつけられる。
えっ……?カウンターが決まった……?あいつのスキル、恐らく【混沌】影響で物理攻撃がほぼ効かない筈だが……試してみるか。
キメラが起き上がるまでの間に全身を【硬化】させて一気に突進、間合いに入った瞬間腹に目掛けて拳を振り下ろす。
腹に直撃し地面に少しばかりクレーターができる。そんな状況でもキメラは鋭い触手を腹から突き出す。触手は太腿を貫通するが目を踏み潰し触手を引きちぎり後ろに後退する。
「さまmdんrdけよめtdめん!!」
潰された頭から蠍の尾を伸ばす。甲殻ごと右の拳で粉砕し爪で引き裂く。
……やはりか。
【硬化】を解き傷が治りながらもこれ以上伸びない触手を見て確信する。
キメラの【混沌】は肉体を不定形の粘土のようなものにするスキル、入手条件はスキルの入手順から考えて『別の生命のデータを取り込み融合する』ことだろうが……それは今関係ない。
【混沌】の欠点、それは形を固定させられるとそれ以上変化させる事が出来ないこと。そう、例えば【硬化】のように。
何故キメラが攻撃の際に【硬化】を織り込まなかったのか、はっきりした。自分を【硬化】させれば最後、絶対的な防御力が失われるということを本能的に察知していたからだ。
恐らく、キメラを作った研究者もこの欠点は予想していなかっただろう。全く、様々なデータを押し込んで手に入れた【硬化】からの派生スキルが全て宝の持ち腐れになってしまったな。
だがまぁ……勝機は見えた。勝機が見えたのなら殺せる。
「グルルルルルルルルル」
さっさと潰して……旅の続きをさせて貰うぞ。




