幻毒決着
『【ポイズンランス】！』
突き出した女の右手から紫色の液体でできた槍が生み出される。
槍は螺旋を刻みながら射出され地面を抉りながら俺に向かってくる。
魔法で土の中から鉄分だけを取り出し鉄の槍を錬成し射出。互いにぶつけあい時間を稼いでその場から離脱する。
女は木々に手を掛け幹を蹴り肉薄し掌底を胸に打ち込む。
だがそれは幻。打ち込まれた瞬間幻の俺は霧散しその一つ上にいる本物の俺が【硬化】させた手を組み女の頭めがけた振り下ろす。
俺の幻を使っての回避に女は咄嗟に左足を呼ばし木の枝に引っかけ身体を引き寄せることで回避し俺は地面に着地する。
『今のは危なかった……！』
『今のを回避するか……！』
互いに【テレパシー】で驚愕を露にしながら【硬拳】と踵落としをぶつけ合う。
女の踵落としの威力に耐えきれずよろめき大きく開いた腹に女の蹴りが炸裂する。
「グアッ！？」
威力の上がった攻撃に驚きながら俺は何度もバウンドしながら地面を転がり木に叩きつけられる。
ちっ……威力が上がっている。恐らく【硬化】の派生技を入手しやがったのか。
「グッ……今の一瞬……で……！」
だが、俺だってただで殺られると思うな。
俺が立ち上がるとほぼ同時に幾つもの木々をへし折られた先の地面で転がる女は忌々しそうに白い血――樹液を流しながら立ち上がる。
攻撃の瞬間できる絶対の隙、その僅かな隙を利用して腹に向け【収束】させておいた空気の弾を【放出】した。
これでも殺せないのかよ……。今ので殺れると思ったんだが。
「グルルルルルルルルルル……」
「【ポイズンノクターン】も解除されちゃったし……どうやら耐久レースは貴方の方に軍配が上がったようね」
うん……？ああ、確かに解除されているな。戦いに集中するあまり気がつかなかった。
だが、その間にかなりの量の毒素が体内に溜まっているだろう。事実、身体は今も激痛が走っているし足は今にも崩れ落ちそうだ。
だが、ここで勝たなければミストを一人残してしまう。それだけは回避しなければならない。
だが、これが最後になるだろう。
「けど、それで勝ち負けを決まった訳じゃないわよね！」
「グルアアアアアアアアアアアアアアアア！！」
最後の激突が、始まる。
【加速】使ったであろう女の全速力の蹴りをギリギリ見切り右の【硬拳】でクロスカウンターを顔面に決める。
女は逆に突き出された腕を掴み地面を蹴って逆上がりの要領で勢いを無理矢理減速させ後方に跳ぶ。着地した瞬間一〇〇に近い風の矢が飛来する。
矢を土の魔法で作り上げ地面から射出して全てを打ち落とし肉薄する女の左回転の回し蹴りを右肘で落とし右肩を噛みつく。
「くっ……！」
女は直ぐ様俺の腹に向けて風の鎚を放ち俺を吹き飛ばし白い血が流れる肩を左手で押さえる。
空中で体勢を整え着地すると間髪いれずに地面を蹴り女に肉薄し左の【硬拳】のストレートを打つ。
女は手をクロスさせ防ぐ。相手が守りを解くよりも速く右の【硬拳】で左脇腹に目掛けてボディブローをかます。
僅かに後退しながら槍の形状をとった頭目掛けて放たれる左手の突きが入るよりも速く左の【硬拳】でカウンターで顔面に殴る。
「くっ……！」
よろめきながら距離をとる女の間合いを詰めるために直ぐ様足を踏み込み左のジョブで顔面を捉えながら右のストレートに繋げる。
右のストレートを女は身体をのけ反らせて回避し空を切る。逆に女のバク転による蹴り上げを顎に食らう。
こちらが僅かに後退したところで女の左手に纏った風の刃で右肩から逆袈裟に切り裂かれ鮮血が舞う。
返す刀の追撃を魔法で土の泥に変換させ足をとり僅かに遅らせて回避し距離をとる。そのまま泥の範囲を広げる。
『【泥下埋葬】！！』
泥を持ち上げ回避できなかった女を泥の中に沈める。内側から荒れ狂う力を全力で抑え込もうとするが泥を全て弾き跳ばして女が肉薄する。
流れるような跳び蹴りを左の【硬拳】で防ぎ右の【硬斬】を突き出す。女は【硬斬】を【硬化】させた額の頭突きで弾き着地と共に刃脚で切り上げる。
回避できずに左肩を切り裂かれながら魔法で地面から杭を出して女の脚を穿つ。痛みを我慢する隙を与えずに女に突進し木々に叩きつける。
「オオオオオオオオオオオオオオオオ！！」
雄叫びを上げながら女を地面に押し倒し腹を蹴りつける。女は地面を転がり何とか起き上がった瞬間一気に最高速で女が肉薄する。
女の右回転の回し蹴りを【硬化】させた左腕で防ぐが追撃の蹴り上げを回避できずに脇腹に直撃させる。
後ろに後退する俺に目掛けて刃脚の踵落としを頭目掛けて振り下ろし頭を捉えた瞬間俺は霞と消える。
幻を見せた女の背後に回り込んだ俺の【硬拳】による裏拳を脇腹にしっかりと捉え真横に薙ぎ払う。
「ごほっ！？」
女は受け身をとることなく何度もバウンドしながら転がり完全に止まってところで脚を震わせながら起き上がる。
……チェックメイト、だな。こっちも最後の駒を動かすか。……それまでに完全に倒しておきたかったが。
「オオ、オオン（殺れ、ミスト）」
「了承」
ミストが木の上から回転しながら落ちていき真下にいた女の胸を水の剣で大きく切り落とす。
「がっ！？……まさ、か。これを狙っていた
の……！？」
『奥の手だったがな』
ミストを弾き跳ばすがミストは空中で回転しながら体勢を整えて俺の前に立つ。
白い血を流し傷口を右手で押さえながらこっちを睨みながら話してくる女に【テレパシー】で肯定する。
毒の瘴気が出された際に木の上にミストを上げたのは回避のためだけではない。確実に女を仕留めるための布石でもあった。
というのも、女の純粋なステータスは俺以上。一人では相討ちには持っていけても勝ち目はかなり低く致命傷を与えるのは難しかった。
だが、ミストの魔力――恐らく魔法の威力に直結しているであろうステータスは女の防御力を優に越えている。だからこそ致命傷を与えれると思ったのだ。
そのために伯仲した戦闘を行い女の頭からミストの事を抜け落とさせた。結果、女はミストの手で切り裂かれたのだ。
「くっ……」
「ガァ……」
だが、俺も女も限界だったようだ。
女が地面に倒れるとほぼ同時に俺も地面に倒れてしまう。
毒素が全身に回りきってしまった……これは確実にヤバいかもしれない。
「主人！？しっかり！！」
「ガア……（これはヤバい……）」
「傷、治癒完了済み。仮定、毒？なら、不可。自分、解毒、不可……！！」
倒れた俺を揺すりながら状況を把握する少女の声を聞きながら女の方を見る。
女には【毒素生成】のスキルがある。毒と薬は表裏一体。故に女になら毒を解毒する手段を持っているかもしれない。
ここは……賭けに出るか。
『熊……取引しない？このままだと私も貴方も遠からず死んでしまう。私は【治癒魔法】が使えない、けど貴方なら使えるでしょ。貴方しか、助けれる相手はいない』
『はっ……どうやら俺と同じ事を考えていたようだな。俺には毒を解毒する手段がない。だが、あらゆる毒を作れ、あらゆる毒の解毒剤を作れるだろうお前なら俺を助けれる』
……利害は一致しているか。
『交渉成立だな』
『交渉成立ね』
俺は手を伸ばし糸を繋げ女は一本の蔓を俺の皮膚から差し込む。女の胸の傷は直ぐ様癒え俺の体内の毒は解毒されていく。
「主人……？」
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン。……オオオオオオン（女と交渉して回復する代わり解毒してもらった。……だが少し寝させてもらう）」
「了承……！」
魔力を使いすぎ魔力消費率一〇〇パーセントに届いた俺はミストに伝言を告げ意識を落とす。
落とす直前、女の方を見ると女は既に意識を落としていた。
たく……これで痛み分けか。再戦……できたら良いな。
【Lv.四一からLv.四三になりました】
【通常アクティブスキル：影体を入手しました】
