冒険者対峙
真夜中、月明かりの中を四足でのんびりと歩いていく。
森から出て数日がたったが……予想していた以上に食糧となりうるものがないな。数週間は耐えれるほどの食糧はあれど、尽きたらどうしようか……。
というか、この世界の人々は長距離移動の際にはどうやって食糧を運んでいるのだろうか。馬車を使えば出費がかさむし小回りが利かなくなるだろうから、多分奴隷を使っているのだろうけど、やはり知りたいというのは大きな欲求だな。
「む、大熊か?」
「オオオオオオオ……」
だが、それ以上に厄介な事になってしまったな。
道を歩いていると前から屈強な男が剣を携えてやってくる。
男は俺を見つけると剣を抜き肩に乗せ足を半歩下げてニヤリと笑う。
なるべく人間と戦いたくないが……まあま、別に構わないか。だが、この男の気配は森の中の魔物たちよりも遥かに強い。
それに……
「ザルツ、バニィ、手出し無用だ」
「了解だぜ、グリムの旦那」
「わ、分かりました!」
男の背後には軽薄そうにナイフを腰の鞘に納める若い男、ザルツと白いローブを着け鈴のついた杖を持つウサミミの少女、バニィがいる。
嘗められてる……のだろうか。だが、二人も相手にするのは面倒だし助かる。
それに、俺はステータスを見れるしな。
==========
=====
名称:グリム・テスタロッサ 種族:ヒューマン
Lv.四四
攻撃力:二五〇(+一一〇〇)
防御力:二六〇(+一〇〇)
素早さ:一六〇
魔力:八四
通常アクティブスキル:【気配遮断】【阿吽】
魔力アクティブスキル:【強化】
通常パッシブスキル:【剣術】【短剣術】【体術】【気配察知】【暗視】【環境適応】【アガート聖王国隠密】【Bランク冒険者】【免許皆伝】
耐性パッシブスキル:【痛覚耐性】【毒耐性】【魔力耐性】
=====
==========
純粋な剣士より斥候とかの方が得意なのでは?
ていうか【アガート聖王国隠密】って……向こうの人間かよ。帝国の警備能力ガバガバじゃねぇか。
だがまぁ……ステータスそのものは俺とほぼ同じだが相手には剣という得物がある。それは警戒すべきところだな。
地味に【痛覚耐性】があるのは凄いな。これ、俺は【逸脱種】故に簡単に入手できたが普通はそうはいかないだろうに。どんな訓練を受けたら手に入れれるんだ?
だが……こいつは敵だ。なら、それに答えないといけないな。勝てそうになかったら逃げるけど。
二足で立ち上がると拳を正中線に合わせるように構える。
「ほう……!くくっ、久方ぶりに歯ごたえがありそうだ!」
「オオオオオオオオオオ!」
グリムが地面を蹴るのと同時に地面を蹴る。
グリムの剣の間合いに入った瞬間剣が振り下ろされる。
【硬化】させた左腕で剣を防ぎながら右の【硬拳】を突き出す。
グリムは拳をギリギリのところで避けつつ拳の間合いから抜け出す。
ヒットアンドアウェイか。基本中の基本だが俺のような物理技の間合いが狭い者に厄介だ。いや、そっちの方が良いか。
ジクジクと痛む腕を見てニヤリと笑い【硬拳】を解除し爪を出す。
「オオオオオオオ!!」
地面を蹴り接近し左の【硬斬】を縦に振り上げる。
グリムは剣で攻撃を防ぎながら間合いから抜けようとする。
そんなこと、させるわけないだろうが!
離脱するよりも速く踏み込み右手の【硬斬】を振り下ろす。
「くっ……!」
振り下ろされた爪の刃はグリムの頬を掠めグリムは苦痛に顔を歪めながら後ろに下がる。
「がっ!?」
だが、それはブラスだろ?同じスキルを持っている俺には分かるよ。
爪から垂らした糸を地面に接続、グリムの足下の地面から拳程度の直径の柱を打ち出す。
柱はグリムの顎を直撃しそのままグリムは地面に倒れる。
「グリムさん!?」
「グリムの旦那!?」
慌てるバニィとザルツにグリムは顎を擦り口内の血を地面に吐き捨てる。
まぁ、同じ【防御力:二〇〇】越えだし、そのくらいは耐えるだろうし戦闘にも影響はないだろう。
「あぁ……クソッ、予想していた以上にこいつは強いな。やっぱしヒットアンドアウェイなんて方法は隙が大きいか」
あんたのスキル構成を見れば奇襲とかの方が得意っぽいしな。
「それじゃあ……いきますか!!」
グリムが地面を蹴り接近すると共に剣を突き出す。
右手の【硬拳】で防ぎながら回転扉のように左の【硬拳】のボディブローを胸にに捉える。
生憎と、俺はカウンターの方が得意だからな。
「はああっ!」
歯を食い縛りながら剣の逆袈裟を飛び退いて回避するが僅かに掠めうっすらと血を流す。
今のを当てるか……それに、鎧も鎧だ、【硬拳】で凹みもしないとなればそれなりの硬度なのだろう。
鎧を破壊することは難しい、となれば顔面を狙う方が良いか。
思考を一度保留させ地面を蹴り右の【硬拳】でストレートを打ち出す。グリムはそれを剣の腹で防ぎ返す刀で剣を振り下ろす。
左手の肉球を【硬化】させ剣を受け止め右手の【硬拳】をアッパーを打ち上げるがそれをギリギリのところで回避される。
グリムは一度後ろに飛び退き剣を構え体勢を正常に戻し、俺も拳を元の位置へと戻す。
速度は俺もグリムもそう大差はない。なら、勝ち目があるのは手数!!
「アァァァァァァァァァァァ!!」
【咆哮】と共に駆け出し怯んだグリムの腹に左の【硬拳】でボディブローを打ち込む。
「ガハッ!?」
グリムはくの字に身体を曲げながらも剣を振り抜く。
俺は回避せず【硬化】させた横腹で歯を食い縛り受け止める
案外響くな……骨にまで達していやがるな。だが、これでこいつの一瞬だが得物を封じれた。
それだけあれば充分な隙になる。
致命的な隙をさらしたグリムの顔面に右の【硬拳】でジャブを打ち間髪いれずに左の【硬拳】のストレートを顔面に打ち込む。
そこから左のフックを顔面に打ち込み連続して角度を変えたフックとアッパーを顔面に捉えさせる。
耐えきれなくなったグリムは剣を捨て拳で対応する。
確かにスキルの中には【体術】もあるし素手でもそれなりに戦えるのだろう。
「ガアアッ!!」
だが、それは悪手だ。
俺の拳を受け止めようとしたグリムの右手は一撃で骨を折り威力を減衰させた拳が顔面に刺さる。
人間の手というのは熊よりも遥かに間接が多い。
これによって指先を器用に動かせるというメリットがある。
だが、その反面衝撃には弱くなる。
真っ直ぐな和傘と幾重にも折り畳める洋傘、どちらの方が壊れにくいかといえば和傘の方が折れにくい。それと同じだ。
グシャグシャに折れた手を押さえるグリムの顔面を俺の右のストレートが打ち込まれそのままグリムは真後ろに飛ばされる。
さて……久々に拳を打ち込めた。だから……ここで死ね。
「させるかぁ!!」
俺がグリムに近づくよりも速くザルツが両方のナイフを抜き取り一気に接近してくる。
っ!!速い!
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
ザルツの逆手に持ったナイフの一撃を右の【硬拳】で防ぐが左のナイフに胸を切られる。
更に後ろに回り込まれ背中をクロスに切られる。
痛みに耐えながら肘鉄を打つが避けられ距離を取られる。
ちっ……速い相手はそこまで好きじゃない。カウンターも決まらないと意味がないしな。
だが、丁度良い。魔法とスキルを戦闘に合わせるのを試すにはちょうど良い相手だ、強くなるためにも実験台になってもらうぞ。




