表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/120

少女との別れ

「ふわぁ……」

「ガウ(起きたか)」

「はい……おはようございます、大熊様」


寝惚け眼を擦りながら俺の腹から離れる少女をハッキリとした目で見る。


まったく……もう太陽が出ているぞ。って、エルフたちもそんな目で見るな、何もしないって。


警戒心をマックスにしてこちらを睨み付けてくるエルフたちに向けて警戒していない事を示すために首を地面に下ろす。


全身に彫られた虹色の線が仄かに光り、寝惚け眼と言うことも相まって何時も以上に神秘的な雰囲気を纏っている。


少し暑かったのか寝汗をかいており薄い服が身体にぺったりと張り付き線をよりハッキリとさせている。肉付きは貧相だがそれがより美しいボディラインを際立たせ普通の人間なら襲いかかっても可笑しくない。


まぁ、俺は熊だしそういった感情はどうも湧いてこないが、だからそんな目で見ないで何もしないって。


「オオオオオオオオオン。オオオオオオオオオオン?(この森は形と味に無視すれば食糧は多い。魔物のランクは最高でもCだが倒せるか?)」

「はい、この人たちの中には魔法を扱う兵士だった者もいますので倒せると思います」

「ご命令があれば、我らがあなた様の敵を滅しましょう」


地面に膝をついてラスティアにかしずいているエルフたちが元兵士なのだろうな。


どいつもこいつも、その気配が普通のエルフよりも好戦的だからよく分かる。肢体も他のエルフよりも筋肉質だということもこいつらが戦士である事を分からせる。


「オン。オオオオオオオオオオオオオン。オオオオオオン(それは良い。このまま直進して森を抜ければ村がある。その村はアガート聖王国だから保護して貰え)」

「分かりました。……ついていって、くれないのですよね」

「オオン(当然だ)」


俺が首を縦に振るとラスティアは非常に残念そうな顔をする。


俺は向こうでかなりの人間を殺した。それに後悔はないし謝罪するつもりもない。故にもし行けば確実に殺られる。そんな場所には行くつもりはない。


それに、今後の事を考えればラスティアと俺が知り合いだということを隠していた方が都合が良い。


流石に一国でも極めて重要な立ち位置であり、種族としては信仰の対象にされても可笑しくない存在、そんな人物と魔物、更に【悪魔種】である俺が接していたなんて事があればラスティアがどうなるかなんて予想できない。


なら、俺と離れていた方がまだマシだろうよ。


「オオン、ガアアアアアアアアアアア(大丈夫、何時かまた会えるだろう)」


嘘だ。


俺はもう二度とラスティアと会うつもりはない。俺とラスティアは生きている世界が違い過ぎる。


ラスティアが俺の世界に来ないよう、逆に俺がラスティアの世界に行かないよう二度と会わない方が得策だ。


……やはり、どう取り繕っても心苦しい。嘘を突き通すというのは心に杭を打たれているようなものだ。軋むような痛みがある。


「はい……再び会えるのを楽しみにしています」


涙目ながら精一杯に笑うラスティアを見て更に心苦しくなる。


予想していた以上に純粋で良い子だから嘘がここまで心苦しくなるなんて予想外だった。


だが……あの目、俺の本音に気づいているよな。


何となく、そう感じれる。


それでいてその嘘を嘘だと告げずに俺の嘘に乗っかる……なんだよ、本当に優しいヤツだ。


内心穏やかにラスティアを見つめているとラスティアが近づき、そして優しく俺の鼻に口付けする。


「……オン?(えっ?)」

「それでは、またどこかで会いましょう、愛しきエリラル様」


呆然としている俺を置いてラスティアは森の奥に歩き始め、それに続くようにエルフたちもそのあとを追っていく。


キス……されたよな、今。……落ち着け、落ち着けよ、俺。流石にそういった方面はあり得ない。それだけはキチンと心の中で決めておかないと……!


「……オン?」


見られている?


身体を真上から見られているような異質な気配を感じとり悶えるのを止め空を見上げる。


このチクチクとした視線、それに真上からの視点……まさか【虚ろ瞳】か?となれば、【悪魔種】か?


まさか、ラスティアたちが目当てか?だが、それなら俺を見ている必要は……まさか、俺が目的か?


「……ガァ」


あ、消えた。気づかれたか。


だがまぁ、【虚ろ瞳】を使っている時点でここから距離があるのだろう。なら、別に相手取る必要もなし。


しかしまぁ……気になるところでもあるがな。流石に勝手に俺の生活を見られるのは気にくわない。


見つけたらシバくか。流石にこれをシバきに行かないと俺の沽券にも関わってくる。


そう心に決めながら四つの足で歩き始め、すぐに森の外に抜ける。


森の外は平原が広がっており地面には土が見える道が真っ直ぐに伸びている。


最低限の街道は作られている、と見て良いだろうな。となれば、ここを馬車が通るかもしれないし日中の行動は控えるか。


道から外れた草むらの中心で魔法を発動させ洞穴を作って中に入り目蓋を閉じる。


……熊は基本夜行性だから夜に行動する方が正しいよな。まぁ、そこら辺はどうでも良いかな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ