ラスティアからの懇願
「すぅ……すぅ……」
「んごー……」
暗く静かな森の中で寝息だけが辺りから聞こえてる。
血によってきたブラックウルフやベビーベアー、赤毛で腕だけが異様に筋肉質な猿の魔物:レッドモンキー、腐敗臭のする動くキノコ:ハトリッドマッシュルームと言った魔物たちを殺して殺して殺しまくった。
最終的にはここら辺をドーム状に囲んで安全圏を確保したが、それまでの間にLvが二も上がり四〇になった。
久方ぶりにステータスでも見るか。
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名称:エリラル 種族:幻想死熊
Lv.四〇
攻撃力:一八〇 防御力:二一四
素早さ:一五五 魔力:一六二
通常アクティブスキル:【収束】【放出】【探知・嗅覚】【忍耐】【血液陶酔】【殺戮魔拳】【戦乱狂演】【幻術】【幻視】【罪禍の虚眼】【虚ろ瞳】【他心通】【五業堕とし】
魔法アクティブスキル:【硬化】【硬斬】【土属性魔法】【不血魔爪】【吸血魔爪】【幻術】【幻夢の魔霧】【召喚術】【追放術】
通常パッシブスキル:【転生者】【逸脱種】【押し潰し】【ランナー】【剛力】【拳打】【毒耐性】【魔力操作】【自然治癒】【殺戮】【狂戦士】【百頭狩り】【狩人】【悪食】【悪魔種】【悪辣】【非道の獣】【悪魔信仰】【暗視】
耐性パッシブスキル:【痛覚耐性】【熱帯性】【火属性耐性】
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お、名称のところに名前がついてる。これで俺がエリラルである事の証明になるな。
それにしても、攻撃力と防御力の上がり幅より素早さや魔力の方が大きくなったな。まぁ接近からの肉弾戦でのラッシュや魔法や魔力を消費するスキルを結構使っていたしそれが原因かな。
「すぅ……すぅ……」
それにしても、こいつは本当に俺に懐いてるんだな。
地面に這いつくばっている俺の腹を枕に眠ているラスティアの方を首だけを動かして見る。
もう少し成長すれば絶世の美女になるだろうな。元より、エルフという種族がかなり美形が多い印象もあるしな。
【エルフ:種族の一つ。
精霊種と人間の半分のところに分類される。
魔法種族で生まれつき魔力が二〇〇を越えている。また、魔法適正が高く生まれつき最低でも一つの属性の魔法が使用できる。
長命であり平均年齢は二〇〇歳程度。
その反面性欲は低く個体数は多くはない。
美形が多いためヒューマンの国、特に帝国では奴隷として身売りがされやすい。
比較的アガート聖王国では地位が確立している】
説明文が長い。これ書いているやつ絶対にエルフ押しだろ。
だがまぁ……これでエルフの置かれている環境がよく分かった。これじゃあ、どこにいってもこいつらの居場所はない……か。だが、アガート聖王国なら暮らしやすい……かもしれない。ていうか、何故こんな事がエルフの説明欄に……いや、そんな事はどうだって良い。こいつらが少しでも暮らしやすい場所ならどこでも良いか。
それじゃあ、ラスティアの種族であるロストエルフというのはなんだ?
【ロストエルフ:エルフの起源種。
生まれついての精霊種であり存在そのものが世界の魔力と深く結び付いる。
魔力のステータスが極めて高く、Lv.一の状態で一〇〇〇を越え、成長株すれば天変地異を自在に操れる。
平均寿命はエルフ以上に長く少なくとも一〇〇〇〇年は生きる。
世界が生まれて数億年が経過しておりその個体数は僅か数名程度しかいない。
エルフたちにとっては自分達の始祖であり信仰の対象にされている】
……俺は自分の事を十分に反則クラスだと思っていたが上には上がいたんだな……。
もし戦えば勝ち目はほぼゼロだったし平和的に事が進んで助かった。ラスティアの性格が純粋そのものだったからだな。
そういえば、今日よく見たり聞いたりする帝国というのは一体なんなんだ?
【帝国:アルビニア帝国の略】
それじゃあアルビニア帝国は?
【アルビニア帝国:国の一つ。世界で二番目に大きな国。
五十年前大規模な戦争が起きそれを鎮めた傭兵が建国。
王となった傭兵がヒューマン至上主義のアガート教異同派だったこともありアガート教聖堂派とは仲が悪い。
主要産業は奴隷販売と傭兵の斡旋。
薬物、兵器、魔法の開発が盛んであり他国から買い付けがあるほど。
支配者層と非支配者層との差は歴然で支配者層が非支配者層に起こした犯罪は基本的に無罪とはるほど。
ヒューマン以外の種族を排斥しておりヒューマン以外の種族がトップを務める国と定期的に戦争を行っている。
多くの国がアルビニア帝国によって滅ぼされ、宗派を変えられ、多くの難民と非ヒューマンの奴隷化が横行している】
短命国家の典型例みたいな国だな。
支配者層と非支配者層との差、無理矢理な宗教の鞍替え、ヒューマン以外の種族の排斥……恐らく、汚職や賄賂、非合法な事もあるだろうし叩けばかなりの埃が舞うような国だろうな。
その上、そんな国を他国も毛嫌いしているだろうから他国との戦争も絶えないどころか進んで行っている、内憂外患という言葉しかこの国には見つからないな。
まぁ、俺にとって実害がなければこんな国はさっさと通り抜けるのが吉だな。
「ん……」
おや、ラスティアが起きてしまったか。
「ああ、もう夜に……大熊様、申し訳ございません」
「オオオオオン。オオオン(別に構わないよ。もう少し寝てて良いよ)」
「はい……」
目を開け擦りながらこちらを向いてくるラスティアに静かに語りかけるとラスティアは再び俺の腹に頭を乗せて目蓋を閉じる。
「大熊様はこれからどちらに向かうのですか?」
「ガウ(帝国だ)」
小さな声で語りかけてきたラスティアに俺も静かに答える。
ラスティアたちは帝国ではなく聖王国に向かわせるせるからこれでお別れになるだろうな。
「そうですか……それでしたら、頼みたい事があるのですが」
「オオン(内容は?)」
「姫殿下を……助けて貰いたいのです」
姫?……あぁ、向こうの王族か。だが、向こうのお姫様の一人は使い物にならなくなってもう一人は囚われ……まさか、囚われたお姫様を助けてといっているのか?
「クローリア王国には長女のマルト、次女のグローリー、三女のアダプタの三人の姫がいました。長女のマルト様、次女のグローリー様は帝城に幽閉されており、三女のアダプタ様は帝都の地下におります」
「オオオオン(随分と詳しい場所をしっているんだな)」
「お三方と常にテレパシーを繋いでいるのです。今は会話をすることは出来ませんが居場所や生死は分かるのです」
なるほどねぇ……俺との会話の際に使わないのは常にチャンネルを開けているせいで脳に負荷がかかっているからか。
【並列思考】を持ってない状態で三つも常に使っているとなれば、脳に対する負荷も大きいだろうに、無茶をするものだ。
「大熊様にとってはとるに足らないかもしれません。ですが、私たちにとってはとても大切な方たちなのです。ですから……」
心の底から懇願する声音に俺は深く考える。
もし、俺が帝国の中心を攻めるとなれば勝率は低い。そもそも、侵入する方法も脱出する方法も、敵の戦力も実力も何も分からない。そんな状態で戦うとなればそれは無謀にも程がある。
だが……なぁ。
目蓋を閉じているラスティアの顔を気づかれないようにチラリと見る。
あんなにも穏やかな少女の願いを無下にするのは気が引けるんだよなぁ……。自分に害がなければ大体の事をスルーする俺でも流石にそれは出来ないし……打算的に考えれば助けた方がメリットがあるし……でも命の危険があるし……。
ううーん、どうしたものか……。
「……グルル、オオオン《……分かった、助けよう》」
迷いに迷った挙げ句、俺は答えをラスティアに告げる。
メリットを得るにはデメリットがあるのは必然。毒を呑む覚悟が必要になる。覚悟なら生き足掻くと決めた時に決めている。
それに、ラスティアは俺にとって友のような存在であり名付け親のような存在でもある。そんな彼女の頼みを無下にすることは……出来るわけがない。
……案外、俺は抱え込みやすい性格をしているのだろうか。
自分の好きに生きようとしているのに頼み事には弱いし目の前で苦しむ人や地獄に落とされそうになる人を見過ごすことは出来ない。
そのくせ敵対者には徹底的に許さず殺す事を躊躇わないし悪逆無道すら平然と行える。
自分でいうのもなんだが、俺は善人か悪人かがハッキリしないな……。そこら辺はハッキリさせておいた方が良いかな。
「ありがとうございます、大熊様……!」
ラスティアの感謝が滲み出る声音を聞きながら俺は目蓋を閉じる。
俺は俺のために生きているだけだがな……まぁ、感謝されるのは嫌いではないな。
【パッシブスキル:精霊刻印を入手しました】
……何かしら変なスキルを入手してしまったな。時間もあるし見てみるか。
【精霊刻印:精霊種に愛された者の証。
魔力の成長率に高い補正がかかる。
進化先に影響する。
極めて稀少で数百年前この精霊刻印を巡り戦争が起きたほど。
ヒューマンの文明が発展していく中でヒューマンには発現することは無くなっていった】
ふうん……まぁ、精霊種というのはラスティアの事だろうし、別に悪いスキルじゃない。
進化先に影響するらしいが……まぁ、【逸脱種】や【殺戮】よりはましな進化先になるだろうから別に気にしなくていいか。