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盗み聞き

「フゥ……フゥ……」


代わり映えのしない森の中をひたすら歩く。


七日間も似たような景色ばかり見てると飽きる。普通に飽きる。自分と同等の魔物がいれば良いんだが……期待できないんだよな。


大体の魔物はビビっているのかどっかに逃げてしまうし狼系の魔物以外は襲ってこない。同ランク程度の魔物は本能で襲ってくるものばかりで駆け引きが成立せず秒殺ばかり。


戦闘に面白さを求めるのもどうかと思うが、これでは味の変わらないジャンクフードを食べているようなものだ。あのヤングアースベアーのような実力があるヤツがいれば話は別なんだが……。


「……ヴォ?」


草むらの方から僅かに違う匂いを嗅ぎとり咄嗟に魔法で穴を開けて薄く土を被せて隠れ地面と被せた土の境界の隙間から外を見る。


って、何で俺は隠れてんだよ。別にこそこそする必要はない筈だが……。


それでも隠れ続けていると前から一〇数人の兵士がやってくる。


何人かの兵士たちはロープを持ちそのロープにはエルフたちが縛られたまま歩かされていた。


ざっと数えて三〇人、どいつもこいつもみすぼらしい手術衣のような簡素な服を着ていやがる。あれは奴隷か?まぁこの世界では合法らしいしアリスのような件でなければ別段関わるつもりはないが。


だがこの森をどうやって抜けるつもりだ?抜けてきた俺が言うのもなんだが、これだけの大人数を警護しながら通るのは少し骨が折れるぞ。


「休憩!」


兵士の一人が号令するとエルフたちは地面に座り込む。エルフたちは汗ばんだ額を腕で拭ったり身体を横にしたりして休んでいる。


少なくともエルフたちはアリスよりはマシな生活を送っていると考えていいかもしれないな。


「あー、あんなに美人がいるんだから一人くらいヤりてぇよなぁ」

「まったくだ」


少なくとも……だがな。


俺の隠れている場所の近くに腰かけている兵士たちの話を密かに聞きながら呆れるように手から力を抜く。


自分の性欲の事しか考えていないのだろうか……。そういえば、戦争地では兵士による婦女子の暴行事件というのが多発していると前世の記憶にある。


それに、聖王国の兵士たちの記憶からこの世界の文化が中世に近い事が分かっている。中世まだ国際法も成立していないから戦後処理も適当なところが多い。その他色々な理由が重なって婦女暴行が起きやすいのだろう。


その点、この兵士の言葉から察するにまだこの集団では起きてないのだろう。まぁ仮定にしか過ぎないがな。最悪、【他心通】でも使って調べようかな。


「そういえば、あのエルフたちはどうなるんだ?」

「ああ、お前は新入りだったな。それじゃあ少し説明してやるか」

お、説明してくれるのか。それは助かる。

「あいつらは一度帝都に連れていって検査の後オークションにかける。オークションはⅠ、Ⅱ、Ⅲと分かれていて検査の結果でどこのオークションにかけられるか決まるんだ」

「検査の内容はどうなんだ?」

「確か、バストやヒップを見たり魔力の量を調べたりするな。他にも色々とあるらしいが……まぁそこは置いておこう。買い手が決まったら次は色々と肉体やら精神を弄るんだと。まぁ個体よっては向き不向きがあるらしいが」

「うっへぇ……予想していた以上にエグいことをするんだな」

「お前も知らなかっただろ。各国の金持ち連中に売っていてその技術は秘中の秘だからな」

「ま、それで俺らの酒の足しになるのなら別に構わないが」

「ま、そうだよな」

「「はははははははははははははははは!!」」


……気に食わない。心底気にくわない。


兵士たちの高笑いを聞きながら明確な怒りを覚える。


奴隷貿易自体は問題ない。この世界では合法。罪に問われることはない。


だが、それでも肉体や精神を弄くり買い手にとって都合の良い存在にすることは間違っている。


肉体とは精神の器であると同時に自分が自分であるということの確固たる証拠である。


精神とは肉体の器に収まる物であると同時に自分が自分であることを実証する証拠である。


それは生まれ育った環境や遺伝子によって大きく左右される。だが、それは第三者が意図して調整したものではない。そこから悪人が生まれたり善人が生まれたりするのは当然の事である。


だが、それを誰かが自分達の都合によって調整するのは許しがたいことであり、自然の摂理に反する行いだ。


その最悪とも言うべき未来を知ってしまった以上彼女らを見過ごすことは出来ない。


「まったく、クーロリア王国様々だよ。エルフとかいう下等種族が国を作るなんてどれだけ不遜なことだか」

「そのうえ、向こうのお姫様を拐って使い物にならなくしただけであっさりと食って掛かって宣戦布告したんだぜ。チョロすぎ」

「しかもよぉ、俺らが交渉のテーブルを用意したらあっさりと乗ってきやがった。マジであれは傑作だった」

「そこを俺らがガツンと王様を殺して姫君を捕まえたらあっさりと降伏しやがった。まったくお笑いものだよ」

「そんな劣等種族どもが帝国の役にたってるんだ、こいつらだって本望だろうさ」


……外道が。


男たちの下品な笑みが思い浮かべれるような声を聞き、吐き捨てながら殺意以上に憎悪が膨れ上がれる。


騙し討ちは別に良い。戦いにおいて騙された方が悪いのだから部外者である俺は文句を言わない。

だが、エルフのことを下等種族といった事、そして戦争の起こし方が許しがたいものがある。


俺は基本的にはどんな種族だろうと気にしないし興味がない。その人となりが最も重要だと考えているからだ。敵対すれば誰だろうと同じだからな。


だが、奴らは平然と見た目だけでしか判断していなかった。その人がどんな人物なのかを知らずに石を投げつけるのはどう考えてもおかしい。そもそも、石を投げつけること自体が可笑しいのだが、それはそれだ。


そして、戦争の起こし方は故意に相手に喧嘩を吹っ掛けるようなやり方だ。この世界では貴族や王族が自分の血族を大切に思うらしく、その者が受けた苦しみは血族全員の苦しみとして捉えられる。


一国の姫を拐い、汚し、送り返す。向こうから宣戦布告しているようなものだ。それを私たちは何も悪くありません、だなんて面を平然としているのは明らかに可笑しい。


どのみち、この二つは反吐が出るほどの邪悪としか言えない。それを見過ごすのは今後の夢見が悪い。故にこいつらは潰しておこう。


「ガアッ!!」


手始めに、近くの二人を殺しておこうかな。


穴から飛び出すと同時に二人の首に向けて【硬斬】を振り上げる。


爪は反応できなかった二人の頭蓋骨を切り裂きそのまま脳を切り裂く。何が起きたのか分からなかった二人はそのまま地面に倒れる。


「なっ!?どうやって!?」

「い、いつの間に近づかれた!?」


最初からだよ。てか、お前らが俺の隠れた場所で休憩していたんだろうが。


血の付いた左手を首に当て首の骨を押して音をだし、手の甲をそれぞれの手で音をだしながら拳を構える。


それとほぼ同時に兵士たちが剣を向けて散開する。


まったく、俺が人間とあうとろくな事にならないな。首を突っ込み過ぎるのが悪いのか?まぁ、そんなことは別に構わないか。


俺は俺が生きたいように生きる。生き足掻くだけだからな。

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