【精霊種】ヤングアースベアー
「グルルルル……」
森に自生していた野イチゴを咀嚼しながら森の中を進む。
腹一杯に食事を取り込んで四日、俺は今も森の中を移動している。
途中で腹一杯になって食べきれなかったから【追放術】でどこかに飛ばしてしまった。必要になれば【召喚術】でこちらに戻せば良いか……。
俺は木々の木陰に座り込むと眼を瞑り【虚ろ瞳】を発動させ視点を上空に移動させる。
まるで人工衛星みたいだな……。だが、使い方自体は間違っていないだろう。
さて、俺の場所は……まだ村から近いな。あの洞穴は森の浅いところ、比較的村に近い場所にあった。今、森の中心部に向かってるから……森の中心まで行くのに三日、反対側に出るには一週間くらいかかるか。
富士の樹海やアマゾン程の馬鹿馬鹿しいほどの広さじゃない分まだ通ることはできる。……そう考えるとミーティアたちはこの森を突っ切ろうという考えはあながち間違いではない。
さて、動くとしようかな。
「グルルルルルル……」
……どうやら、すぐには動けなさそうだ。
【虚ろ瞳】を解除させて目を開けて立つと草むらの方から一頭の熊が二足歩行で現れる。
身長は俺と同じくらい。茶色い毛皮に筋肉質な肉体。両腕には俺のと似た紋様が刻まれ赤い瞳からは鋭い敵意を感じ取れる。
あー……多分こいつは……。
内心察しながら俺は相手のステータス画面を開く。
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名称:なし 種族:ヤングアースベアー
攻撃力:一〇〇
防御力:一〇八
素早さ:九四
魔力:二四五
通常アクティブスキル:【探知・嗅覚】【地殻振動】
魔力アクティブスキル:【硬化】【硬拳】【硬斬】【大地属性魔法】【魔法強奪】【治癒魔法】
通常パッシブスキル:【剛力】【押し潰し】【拳打】【精霊種】【精霊信仰】【自然治癒】
耐性スキル:【毒耐性】【飢餓耐性】
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やはり、ヤングアースベアー……俺が一度切り捨てた進化の系譜か。
ていうか、ステータス画面が少し変わっているな。俺の認識によってそこら辺は変えることが出来る……と言うことだろうか。
だが、それは今はどうでもいい。目の前の敵を潰すのが先決だ。
「オオオオッ!!」
「ガアアッ!!」
俺が地面を蹴るのと同時にヤングアースベアーも地面を蹴る。
互いの間合いに入った瞬間互いの【硬拳】を突き出し顔面にヒットさせる。
ヤングアースベアーは勢いで間合いの外に出て頭に響く衝撃に耐え俺は腰を落として拳を構える。
やはり、相手も相手だ。流石に今の一撃で殺すことは出来なかったか。ならば、こっちだって自分の得意な戦法で殺らせてもらう。
「ガアアッ!!」
ヤングアースベアーが地面を蹴って俺に接近し【硬拳】を俺の顔に打ち込む。
それとほぼ同じタイミング、カウンターの要領で回転扉のように左手の【硬拳】を胸に打ち込む。
「ガアッ!?」
流石にカウンターは効いたのか、ヤングアースベアーは間合いの外に飛ばされる。
ザザザザザッ!という音と共に地面に足を擦りつけて静止させ口元から血を垂らす。俺も口から垂れでた血を拭う。
ちっ……確実に殺るつもりで放ったが相手の一撃が効いたのかカウンターが上手く効かなかったか。だが、それでもダメージを与えれただけ上々か。
相手も自分の血を拭い取ると地面に手をつける。
「オオオオオッ!!」
やっぱり、そう来るよな!!
ヤングアースベアーが腕を軽く振るった瞬間地面から土の杭が幾つも放たれる。
それを見た瞬間【硬拳】から【硬斬】に切り替えて幾つか破壊しながら地面を蹴りヤングアースベアーに顔を近づけニヤリと笑う。
お前が魔法に長けている事は分かっている。それなら、こっちもこっちの土俵に上がらせて貰おうか!
【硬斬】による切り上げはヤングアースベアーの【硬化】した腕に防がれ腕を振るわれ弾かれる。
弾かれて体勢が崩れたところに飛んできた【硬斬】を【硬化】で防ぎ、間合いの外に出る。
その瞬間、右手を横に振るう。
それと同時にヤングアースベアーの胸に横に傷が刻まれ血が流れる。
「ガアッ!?」
突然の攻撃に驚くヤングアースベアーに再び接近し両手の【硬拳】でラッシュする。
よし、流石に自分が所有していないスキル【殺戮】は初見だったようだな。まぁ、【他心通】を使ってなかったから相手の過去も知らなかったから賭けだったが。
戦闘時間経過によってレンジを広げていくこのスキルは立派な初見殺しだが、まだ間合いがどれくらいなのか自分でも分かってないからあまり使いたくなかったが……十分な成果を得れた。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
ジャブ、ストレート、フック、アッパーを様々な角度、軌道で嵐の如くヤングアースベアーに向けて放つ。
体勢を持ち直したヤングアースベアーも【硬拳】と【硬化】で全力で防ぎ、弾いていく。
だが、それでも俺の拳ががヤングアースベアーの身体を捉え打ち込まれていき、鮮血を散らしていく。
それを見ながら俺はニヤリと笑う。
単純に、俺の方が拳の殴る速度が速いからだが、もしかして、素早さは殴る速度にも影響を与えてくるのだろうか。
だが、それは今は関係ない。ヤングアースベアーよりも速い事が重要だ。
「ガッ……アッ……」
血を身体中から流しながら後ろに後退するヤングアースベアーの間合いに踏み込み【硬斬】の突きを放つ。
この間合いなら、確実に殺れる!!
確信を持って突きを放った瞬間、ヤングアースベアーの口がニヤリと笑う。
その瞬間、背筋に冷たい水がいきなり流れるような悪寒に襲われ、戦慄を感じると共に自分のミスに気づく。
しまっ……!
「ガアアッ!!」
腕を引いた瞬間ヤングアースベアーが腕を逆クロスに振るった瞬間、真下の地面から杭がクロス状に放たれる。
後ろに飛んで回避しようとするが胸の肉を抉られ、そのまま帯びただしい量の血を胸から流し後ろに後退する。
あ……危なかった……。あのままだったら確実に殺られていた。咄嗟の判断に命拾いした。
だが、あの突きは幾らなんでも早計過ぎたか。相手が幾ら手負いでも間合いにはなるべく入らないようにしないとな。
「オオオッ!」
相手は唸った瞬間、傷がみるみるうちに癒えていく。
そういえばあいつは【治癒魔法】があったな。それで癒したか。こっちは【自然治癒】だからもう少ししないと止血もできないか。
だが、これでランクに関係なく大物殺しが頻発に起きる理由は何となく理解できた。どんな相手でも致命傷にできるだけの手段を保有しているのか。
持久戦となれば、相手の方が有利だと考えて良い。となれば、こっちは速攻しなければならないか。
「グルル……」
……仕方ない、か。
俺は血を流しながらも拳を構え相手を睨み付け、封印していた【忍耐】を発動させる。
確実に相手よりも攻撃を多く当たるだろう。そうなれば、こっちが負ける。それは死んでもごめんだ。
なら、こっちも本気でいかせて貰う。こっちも命がかかってるんだ、文句は無しだ。
「オオオオオオオオ!!」
お前はここで俺が潰してやる!!




