霧渦巻く森の惨劇
【Lv.一からLv.三〇になりました】
最後の一人を殺し終えると画面が現れて現在のレベルが表示される。
上がりやすい序盤だったためか、レベルの上がりが良いな。
画面を消して別の画面を開き、スキルの内容を確認する。
【幻視:相手に幻を見せる。
発動条件は相手の目を目視すること。
幻の内容は自分の考えによって決まる】
【罪禍の虚眼:相手に幻を見せる。
発動条件は相手の目を目視すること。相手の過去を知っていること。
幻の内容は罪の意識によって変動する
一定時間経過すると自然消滅する】
【幻夢の魔霧:『楔』を起点に魔力を消費し渦巻く霧を発生させる。
霧に入った者に幻を見せる。
幻の内容は自分の考えによって決まる】
【虚ろ瞳:視点を空へと移動させる。
見る地点が肉体よりも遠ければ遠いほど脳に負担が大きくなる】
【他心通:人の過去を見ることが出来る。
発動条件は相手を視認すること。
意識、自我を強固に持たなければ人格を失う】
【召喚術:魔力を消費し彼方にある物体をこの世に戻す。
物体に含まれる魔力の量によって消費する魔力は変動する】
【追放術:魔力を消費して物体を彼方に飛ばす。
物体に含まれる魔力の量によって消費する魔力は変動する】
【五業堕とし:視認した相手の罪悪感を外す。
発動条件は相手の過去を知っていること】
何も驚かないぞ……。絶ッッッ対に驚かないぞ。
てか、発動条件が普通ならキツいものばかりだが……【悪魔種】故か、難なく使えるようにはなっているな。
呆れと諦めを混じらせながら画面を閉じると血で覆い尽くさせれた地面に座り込む。
血生臭いが、この匂いは嫌いではない。まぁ流石に血や臓物が地面に転がっていることは少し嫌だが……。
これらは全て俺が裏で糸を引いている。
俺は新しく手に入ったスキルを駆使してこの惨劇を生み出した。
まず、情報収集のために【虚ろ瞳】を使用して自分の周囲にいる人間の数を数えた。結果、この森には大体四人で一班が七五個、三〇〇人近くの人間が来ていた事を判断した。
その上で【他心通】によって三〇〇人の過去を見る。この時に相手からこの国のことは勿論、宗教、政治体制、文化の情報もついでに盗み見る。まぁ、情報量がパンクし始めた結果アクティブスキル【並列思考】アクティブスキル【記録保存】が出来るようになったのはメリットかな。幾つもの事を考え、記録するのは便利だ。本体だけと付属品がついているもの、どちらの方が能力が高いかの違いのようなものだ。
全員分見終えた後、【幻夢の魔霧】を発動して洞窟内に設置する。このスキルは特殊で、地点を定めて『楔』を地面に打つことでそこを起点にスキルが散布される。
『楔』というのは、魔力で構成された物質で言うなればマーキングに近しい。これを設置することで設置場所からどれくらい離れたかが何となく分かるようになるし、遠方からスキルや魔法を使うこともできる。これを起点に使うものだから、防御用にしか使えない。まぁ、それでも十分な成果を貰えるが。
兎も角、【幻夢の魔霧】で敵全体を深い霧で覆い尽くした。霧の中では、進化前のヤングメタルベアーを自分以外の相手が見えるように定めたため相手は恐怖と困惑を覚えさせ殺しあわせた。この時に【五業堕とし】で罪悪感を消しとる。
そして生き残った者を集めてまとめて始末する。殺し合わせ、高まった経験値を簡単に奪う、ある種の蟲毒と言うべきだろうか。
だがまぁ……少し例外はあったが。
チラリと地面から突き出た土の杭に全身を受けて死んだ男の死体を見る。名前は……確か、マルスだったか。俺を討伐しにきた師団長だったか。
この男だけ最初の杭で痛みに狼狽えることがなかった。その上、霧が晴れたタイミングで俺に気付き攻撃してきた。
その後、確実に仕留めたが……最後の最後まで俺を殺そうとした精神は認めるしかない。
それに、マルスの部下のダリア……だったか。あいつは俺の幻覚を自力で解除して霧の外に逃げた。
その後、マルスが霧に入ったタイミングで頭を【硬拳】で潰したが逃げるという判断を俺は称賛に値すると考える。そもそも、霧に入れば問答無用で幻に囚われる訳だから脱出も難しくなるだろうな。
「ブモォ」
だが、感傷に浸っている場合ではない。
こいつらを殺したことで色々と厄介な事になった。
三〇〇人の記憶のお陰で様々な情報を手に入れれたし重要な情報は保存してあるが、その中に俺にとって厄介なものがあった。
どうやら、この世界には俺のような【悪魔種】を滅するための集団がいるらしい。それも、俺よりも遥かに高ランクを殺しているらしい。
詳細な内容は無かったがマイナスの事だろうと『事実』なら行動指針にする事はできるし対策に動くこともできる。
行動指針は……逃げの一手。すなわち逃げるのだ。
俺は勝ち目のない相手に好き好んで戦いを挑む戦闘狂ではない。なら、相手が俺がこの森にいると思っている間にさっさと抜け出す事の方が生存率は高くなる筈だ。
皮肉な事に、エネルギーとなりうるものを保管してあるし、それらを体内で貯蔵できるスキルも持っている。動くのなら今しかない。
「「「「グルルルル……」」」」
だが、洞穴に戻る前にやっておかなければならない事がある。
立ち上がると同時に辺りの茂みからブラックウルフの群れが現れる。それを見ながら、拳を構える。
どうやら、血の匂いに釣られてきたようだな。まぁ、構わない。今の俺は一〇〇頭でも問題ない。
「グルルァ!!」
遅い。それに、動きが単調。
ブラックウルフが動くよりも速く二足歩行で接近し【硬拳】で顔面を殴る。殴られたブラックウルフは木にへばりついた。
反応されるよりも速く【硬拳】から【硬斬】に切り替え切り上げて八頭のブラックウルフの頭を左右の一振りで切り飛ばす。
噛みつこうと走ってきたブラックウルフと【幻視】を発動させ視線を合わせるとブラックウルフは自分の味方に噛みつく。その隙に肉薄し一気に二人をタックルで木に押し付ける。
周りから襲ってくるブラックウルフに爪から垂れる魔力の糸を上げた瞬間地面から杭が幾つも放たれる。
放たれた杭は腹を穿ちブラックウルフたちはもがき苦しむがすぐに動きを止める。
「オ、オオーーーーン!!」
指揮官が怯えながら吠えた瞬間、ブラックウルフたちは回れ右して全速力で走り始める。
逃げるつもりか。……逃がさない。
口から【収束】させた空気を放ち直線上のブラックウルフを消し飛ばし逸れた個体の真下から杭を放つ。
辺りから生き物の気配がなくなり臭いもなくなった事を確かめると四足歩行に戻す。
……群れの規模は前よりも小さいとはいえ、ここまで一方的な展開になるか。それにしても、攻撃の範囲が広がっていた。八頭を切った時なんて、爪の範囲外の木々まで切れていた。
まさか、これが【殺戮】か。なるほど、これは長期戦向けすぎるな。どれくらいの時間でどれくらい範囲が広がるか、考える必要があるな。そうじゃないととてもじゃないが使いこなせる保証がない。
だが、それは今は気にする暇はない。さっさと洞穴に戻って食糧をエネルギーに変換して旅立とう。




