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閑話 少し前の村にて

「ふんふんふ~ん」


鼻歌交じりで洗濯物を洗濯板で洗う。


この村で生活し始めて数日が経ち、生活にも慣れ始めた。今はタリスさんの手伝いをしながら生活している。


タリスさん、仕事は上手なのに生活はズボラそのもので洗い物が苦手で洗濯物を部屋の中に山にしていた。私が洗っているのはその一つだ。


「あ、アリスおねえちゃん!」

「ひゃあ!?」


洗濯物を洗っていると尻尾を掴まれて悲鳴をあげる。


涙目で振り返ると私よりも三歳近く幼い少年少女たちがいたずらっ子の笑顔で逃げていくのが見える。


あの子たちは私が村に来てからよくちょっかいをかけてくる。タリスさんの話だと彼らは私を同い年だと思っているらしい。


そりゃあ、私は童顔で低身長だけど……一応一三歳なんだよ?少しは気にするよ……。


「洗っておるか、アリス」

「あ、タリスさん。どうかしましたか?」

「いや、少し用があっての」


へぇ、珍しい……。


紫を基調とした複雑な模様が縫われたローブを着こんだタリスさんが少し微笑みながら見つめてくる。


タリスさんは仕事の間柄森に行くことはあれど村の中心に来ることはそこまで多くない。更に、早起きは致命的なまでに嫌っていていくら起こしても起きないほど。


そんなタリスさんが朝早くから外に出ている何てよっぽどの事だろう。


「何かあるのですか?」

「うむ。少し古き友が……【アクアシールド】」


突然飛来した風の刃にタリスさんは右手を向け右手に水の盾を生み出して見ることなく防ぐ。


えっ……?魔法の技量がとても凄い……。普通、守るなら見ることが普通だと思うけど、それを見ることなく防ぐ何てかなりの高度なテクニックだ。


いや、今はそんな事は考えない。今のは明確にタリスさんを狙った攻撃だ。


「タリスさん、大丈夫ですか!?」

「うむ。この程度、さして問題でもあるまい。……来たようだな、クソガキ」


水の魔法を解除すると修理された村の門から馬に乗った恰幅の良い鬣のような髪をした騎士がやってくる。


……強い。タリスさんと同じか、それ以上に。私がやりあってもまず勝ち目はない。


「って、タリスさん!?何で喧嘩売ってるんでふか!?」

「うむ?クソガキをクソガキと呼んで何が悪い」

「はっはっはっ!やはりお師匠に敵いません!」

「えっ……師匠?」


驚く私の前で騎士は馬から降りて直立する。


「私はアガート聖王国第八師団団長、マルスだ」

「だ、第八師団!?」


マルスさんの言葉に私は驚愕しながらたじろいでしまう。


アガート聖王国の第八師団といえば魔物討伐のエキスパートじゃないですか!?何でそこの団長が!?


いや、それ以上に


「何でタリスさんが師匠と呼ばれてるんですか?」

「儂は元々第五師団の団長だった。縁あってこやつがガキの頃に儂が教育係をしておったのだ」

「だ、第五師団!?」


第五師団は魔法使い主軸の師団だと聞いたことが……タリスさんはそんなに有名な人だったんですね……。


でも、村に残っていた魔法の跡から考えてもかなりの実力者だとは思っていましたし、納得は出来ますね。


「にしても……お師匠は見た目が変わらんな。ガキの頃と変わらずちっさいな」

「そういうお主はえらくデカくなったものだ」

「まあな」

「……【アクアショット】」

「おっとぉ!?」


不機嫌そうな顔をしたタリスさんが水の弾丸を放つ。それをマルスさんが顔を傾けてギリギリのところで回避する。


えっ……は、速すぎて見ることしか出来なかった……。


「な、何するんですかお師匠!?」

「そこに直れ!成敗してくれる!」


杖を振り回すタリスさんをマルスさんが走り回って逃げる。


ほ、本当に第八師団の団長さんなんでしょうか……。あまりにも威厳がないと言うか……。タリスさんに頭が上がらないと言うか……。


「そ、そちらのお嬢さんは誰ですか?お孫さんですか?」


捕まって頭をゲシゲシと蹴られながらマルスさんは私の方を指差して質問してくる。


「あ、私はアリスです。今はタリスさんの家に居候しています」

「アリスは気立てが良く儂の身の回りを世話しておる」

「お師匠は昔からズボラだったですから痛い痛い痛い、変な性癖になって目覚めちゃう!」


マルスさんの尻の穴に杖の先端を入れてグリグリと回すタリスさんを何とか引き剥がす。


マルスさんが変な性癖に目覚めたら師団の恥でしかないじゃないですか。


「今日はヤングメタルベアーの討伐のために来させたが……他の者たちは?」

「ああ、今回は一八大隊を来させた。既に森の方に向かって貰っている。新人三、熟練一の割合で七五班を作ってある」

「ふむ……戯け!!」

「がっ!?」


杖による殴打でマルスさんは地面を転がる。


起き上がる間も無く男の頭を杖の先端でグリグリと擦り付ける。


「な、何故ですかお師匠!?」

「お主はあれの実力を理解しておらん。あれを確実に倒すのなら大隊を五つは必要だ!」

「し、しかし……お師匠の情報では相手はヤングメタルベアーの【逸脱種】としか」

「だからだ!【逸脱種】は普通の常識が通じん。元師団長である儂と戦い、生き残れる程の化け物である以上油断できん!」

「しかし……」

「それに、あれはまだランクD-だったからどうにかなったのだ。あれがCやBの魔法特化の種族だったら確実に負けておった!」

「なっ!?」


タリスさんの剣幕にたじろくマルスさんも事のヤバさに気づいたのか顔を青ざめる。


私は【逸脱種】という単語を知らないけど……あの様子からだと、かなり危険な感じがする。


「分かったのならさっさと行け!」

「あ、ああ!」


尻を蹴飛ばされたマルスさん急いで馬に跨がり森の方に向かい、私たちそれを見送る。


「あの……【逸脱種】ってなんですか?」

「普通の魔物ではない存在だ。多くが特殊なスキルを持っておる」

「マルスさんは、勝てますか?」

「……あの熊は面での攻撃を苦手としておった。もし、面での攻撃が弱点として機能しなくなったら……勝つのは骨が折れるかもしれん。最悪、あの森に入った大隊は……全滅する」

「そこまで……強いんですね」

「ああ。もし、あやつが【精霊種】や【悪魔種】に至っていたのなら……いや、なんでもない。儂は先に戻っておる」


家に戻るタリスさんを見送ると洗濯物を持って庭の物干し竿を干す。


……何だろう、凄くざわざわする。何か、とんでもない事が起こっているような気がする。


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