騎士襲来
ふぅ……かなり集まったな。
最初に戻ってきてから四時間が経過し、倉庫の中に籠を置く。
倉庫の中に敷き詰められた壺の中に入っている果物や食べれるキノコ、あくを抜いたハーブを別個の壺に移す。
種類も分別すれば食べれるものと食べれないものを判断しやすい。それに、捨てるときも一回で済む。
今回の食糧調達でそれなりの量が稼げたし、少しずつちびちびと食べてるか。
倉庫から出て土属性魔法で入り口を塞ぎその上に寝転がる。
とりあえず、久々に有意義に身体を使えたしちょっと疲れた。移動に支障が出る程ではないにしろ少しくらい寝てもいいよね……。
「……ガゥ」
……誰かいるな。
手を枕に寝ながら鼻をひくひくと動かして臭いを嗅ぎとる。そこからおおよその数を推定する。
人数は三……いや四かな。
周りに鉄のような臭いがする。だけど血の臭いというよりも金属の臭いだ。それに身を包んでいるということは……恐らく金属製の甲冑でも着込んでいるのだろう。
だが、少し不自然だな……。
あの村の防御から考えて、金属製の武器を持っている人はいても金属製の防具を持っている人はいなかった。武器よりも防具の方が素材を多く使っているからだ。
となれば、この巣を囲んでいる三人は……恐らく村の外部の人間か。しかも、金属製の防具を装着できる程の資金を保有している。どう考えても狩りではなく俺目当てだろうな。
……仕方ない。少し眠いが相手してやる。監視されていたらおちおち眠ることもできやしない。
のっそりと起き上がり立つと自然体で洞穴から出て臭いを嗅ぎとる。
左右の茂みに二人。前方の茂みに二人か。腐葉土の臭いの中に鉄の臭いがあって位置も分かりやすい。
「ガアッ」
魔力の糸を地面に接続させる。
そして指を全て上に上げる。
「ガッ!?」
「グッ!?」
「なっ!?」
たったそれだけで戦闘は終わる。
いいや、戦闘ですらないか。これは奇襲でしかない。
茂みの中に足を進めてすぐのところに金属の杭に真下から真っ直ぐに穿たれた死体があった。
少しばかり時間をかければ地中にある金属を合成させることもできる。やり方次第では金属以外の原子や分子までも合成可能だ。
これもそうだ。地中の金属を合成させ杭を生み出しそれを相手の真下から刺し穿った。
それにしても……土属性の魔法というのはかなり応用の幅が大きい。発想次第ではそれなりの効力を発揮するだろう。
それにしても……やはり、あの村の者ではないな。
死んだ男が身に纏っていた金属の鎧や男をつぶさに観察して思う。
これだけの硬い鎧、村人が買えるかと思ったが普通はしない。魔物狩りなら革鎧で十分だからな。
その上、鎧の胸辺りに十字と四つ隅にユニコーン、狼、山羊、竜が描かれた盾状の紋様が嵌め込まれている。
これは……恐らくどこかの貴族の家紋か何かだろうか。
だが、今はそれを考えている暇はないな。
背後からの攻撃の剣の突きを平然と【硬化】した左腕で防ぐ。
腕を薙ぎ振り払い敵を見定める。敵は鉄の杭に穿たれた死体と同じ鎧を着たまだ若い男だった。
まぁ、さっきの奇襲を回避していたし奇襲は仕掛けてくる事は読めていた。
風上に立たれれば臭いで大体分かる。もう少し熊の能力を理解しておいた方が良いぜ。
「はああ!」
剣の振り下ろしをバックステップで回避し拳で殴りかかる。男はそれを剣で受け流しカウンターを加えてくる。それを身をよじり回避する。
数日前に戦ったマリスよりも理性的な剣の振り方をするな。
この男のステータスを見せろ。
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名称:グロス・ダンバルト 種族:ヒューマン
攻撃力:三四(+一〇)
防御力:三三(+一八)
素早さ:二四(-一〇)
魔力:一五
アクティブスキル:【強化】【回復魔法】
パッシブスキル:【男爵】【アガート聖王国騎士】【剣術】【槍術】【弓術】【投擲術】
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ステータスそのものはそこまで高くない。だが、こうまで受け流されているということは経験の差か。
技術の差もあるだろうし、ちょうど良い。少しばかりサンドバッグになって貰うか。
「ガアアッ!!」
連続の右手のジャブで相手に少し距離を取らせる。そのまま少し踏み込み更にフックをかます。
剣で防ぎ反撃に転じようとしたところで身体を引いて間合いから出る。
男は無理に踏み込み間合いを詰めてくる。だが、予想通り。
そこに右手のストレートを顔面に軽く打ち込む。
「グッ!?」
手加減はしている以上殺してはいない。だが、鼻の骨が折れたのか男はおびただしい量の血を鼻から流している。
【硬拳】ならあの一撃で確実に殺れた。だが、サンドバッグである以上そう簡単に死んで貰ったら困る。
まぁ、かなり手加減してこれだからアリスの防御力はかなり高かっただろう。
「嘗めやがって……!」
男は荒々しく踏み込み剣を振り上げる。それを【硬拳】で防ぎ間合いから出る。
再び間合いに入ろうとする男の腹を下から軽く殴る。
怯み少し後ろに引き下がったところでラッシュをかける。だが、何度も男は剣の腹で防いでくる。
ちっ……これでも防いでくるか……。なら、これならどうだ。
拳の角度を一つひとつ変えつつ殴り始める。ストレートからフック、フックからストレート。幾つもの殴り方を織り混ぜ、さながら嵐とも呼べる連打を男に打ち続ける。
その瞬間から、男の防御はあっさりと瓦解する。
一つを剣で防げばすぐにもうひとつの拳が防御が難しい軌道で迫る。それを回避しようとしてもより速く踏み込まれ間合いを詰めれる。
成る程、この殴り方の方が良いようだ。
生憎と相手の予備動作で次の行動を予測、判断することは難しいことではない。特に剣に関してはマリスとの戦いで観察できたからな。
「化け物め……!」
剣を地面に刺して杖のようにして片膝を地面についた男を冷徹に見下ろす。
鎧は凸凹になり男の身体の骨という骨が皹が入ったり折れたりしているのか左腕はだらりと垂れている。
あのラッシュを俺の体内時間で三分、隙も回避も許さずに徹底的に行っていたからな、こうなるだろうな。
「私が死のうとも、貴様は必ず私たちが殺す。我らの団長がいるか」
御託は結構。
勝ち誇ったような不敵な笑みを浮かべて話す男の頭に【硬拳】を振り下ろす。
男の頭は地面に打ち付けられ潰れた果実のように血と脳、頭蓋骨の破片が地面にぶちまけられる。
……ある程度のところで逃がして【殺戮】の間合いを把握すれば良かった。まぁ、終わったものは諦めるしかないか。
【Lv.三三からLv.三五になりました】
【進化可能になりました】
あ、進化可能になったのか。となればさっさと進化しよう。
元の洞穴に戻りふと入り口の立ち止まり天井を見上げる。
少し不安だな。仕方あるまい。
魔力の糸を天井に接続。指を下ろすと天井の土が落ち視界をブラックアウトさせる。
……こいつの言葉が真実か負け惜しみか分からないが念には念をいれてから進化しよう。