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閑話 少女の願い

目が覚めると、見慣れない天井が見えた。


部屋の中には薬草の匂いが充満していて、どこか落ち着かない。……あれ?何で、私は部屋にいるんだろう。


それに、何でベッドに寝てるの。主たちなら私がベッドで寝ようものなら蹴り飛ばして罵倒と共に殴るだろう。


「やっと起きたか、小童」


急いでベッドから起き上がると扉の方から小柄な少女がやってくる。


尖った耳に幼いながらに整った顔立ち。そして翡翠色の瞳。典型的なエルフ少女だ。でも、エルフは見た目と歳が合わないことはよくあるからこの少女もかなり歳がいっている可能性がある。


「あの……ここは……」

「ここはベリン村だ」


ベリン村。主たちが目指していた村だ。それなら主たちがいる筈だ。


「あの……主たちは……」

「ふむ……それは主の契約者のことかい?」

「はい」

「あやつらなら死んでおったわ」


……え?


あまりにも当たりまえのように答える少女を呆然と見ながら少女は続ける。


「村の若いのが小川で死に絶えていた男女を見つけた。一人は全身の骨がバキバキに折れ、もう一人は首が曲がってはならない方向に曲がっておった」

「そんな……」


それじゃあ、どうやって生きていけば良いの。


私は、幼い頃に顔も忘れた母親に売られてからずっと奴隷として過ごしてきた。


痛みには慣れた、罵倒にも慣れた。でも、私は奴隷としての生き方しか知らない。


奴隷だったら主に従っていれば良かった。どんなに貶されても、罵倒されても、殴られても、主の命令に従っていればよかった。


でも、その主はもう、いない。


私は、どうやって生きていけば良いの?


「どうやって生きていけば良いのか……そんな事を思っておるのか?」

「……はい」

「全く……そんなもん、誰にも分からん。だが、奴隷として生きていた時よりも遥かに良いはずだ」


私の考えを読んだ少女は呆れながら茶をカップに注ぎ、私に渡す。


私はカップに入ったお茶を静かに飲んで静かに「美味しい」と呟く。


主たちから与えられた食事はこのお茶よりも遥かに不味かった。でも、食事にありつけるだけまだ良かった。ひどい時は食べるものがなくて木の枝や根っこを食べていた。


それと比べれば、このお茶は美味しい。暖かみがある。


「そうか」


少女は嬉しそうに目を歪めて自分のカップに茶を注いで飲む。


「にしても、お主はよく生きとったな」

「……え?」


思い出したかのように少女は天井の方を少し見ながら呟く。


それは、どういう事だろう。


「お主はヤングメタルベアーにこの村に連れてこられたのだ」

「ヤングメタルベアー……」


防御力が高い熊の魔物だった筈だ。主たちは何度も遭遇して簡単に討伐していたからあまり強い印象に残っていなかったけど……。


「その熊はどうなったのですか?」

「この村に侵入し、儂と対決した。……あれは危険だ。少なくとも、儂がいなければ村は血の海に変わっておった程だ」

「そんなに強かったでしたっけ、その熊は」


確か、主の話だと「村人十数人が一斉に戦えば犠牲は出るが勝てるのによ」と言って依頼を突っ返していたような気が……。


それに、エルフは魔法に特化した種族だった筈。エルフの魔法なら一撃で倒せると言った話は聞いたことがある。


「確かに、本来はそこまで強くない。村の若いの十人程おれば確実に狩れる。儂だったら片手間で狩れる。だが、あれは儂の魔法を避けた。避けたどころか反撃してきおった」

「えっ……?」


あり得ない。魔法の発動を見切らないと魔法を避けるのは難しい。


『守ること、回避することより易し』って言葉が冒険者たちの中では言われてる程で上級クラスの冒険者や騎士ですら回避することは難しいのだ。


それなのに、その熊は魔法を避けた?普通じゃない。


「魔法を避けるのは至難の技。故に途中から少し本気を出した。そしたらさっさと森に帰ったわ」

「でも、何でそんな熊は私を生かしたのでしょうか……」


そのヤングメタルベアーは恐らく主たちを殺した。それなのに、私は生かした。私と主たちとの差が分からない。


「さあ、儂には分からん。ひょっとすると……お主を助けるためではないか?」

「えっ……?」


あり得ない。


そう言おうとしたが少女の真面目な瞳にそんな言葉を言うことは出来なかった。


魔物は本能的に私たちを襲う。だから危険だだから主たちのような冒険者がいる。だから、そんな理性的な事をすることはあり得ない。


「まぁ、儂の憶測だ。聞き流してくれて構わんよ」


そうだよね。魔物に理性があるなんてあり得ないよね。


でも、もし本当なら……。


あの朧気な記憶にある暖かい背中が誰なのか、その真実を知りたい。


でも、それは不可能に近い。


それでも知りたいのだ。


「あぁ、それと」


私が窓から外を見ていると部屋を出ようとした少女が話しかけてくる。


「この部屋は好きに使って構わんよ」

「分かりました。それと、貴女の名前は……」

「儂か?儂はタリス・メリースノーだ。お主は?」

「私はアリス・ホワイトです」

「そうか。それじゃあ、今日はゆっくりしてゆけよ」


そう言ってタリスさんは部屋から出ていき、私はベッドに倒れる。


まだ少し身体が重い……もう少し寝ようかな。


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