砂上の蛇
夜、俺とミラージュは土を盛り上げて作ったかまくらみたいな洞穴の中で暖を取る。
砂漠地帯の夜は以外と冷えるからな……。まあ、俺はそこまで寒さを感じなかったが。
「……すみません、人が通った形跡は何もありませんでした」
「ま、そこら辺は最初から気にしてない。場所が分かればよかったが……そこら辺は分かったか?」
「いえ……それも分かりませんでした」
「そうか……」
こっちも、魔物の気配を索敵したが殆んど無かったからな……おおよそ、この砂漠地帯には生物が殆んど生息していないのだろう。
たく……あまりにも急展開過ぎるだろ。なんてところに飛ばしているくれたんだ、あの野郎。
「とりあえず、この大砂漠について教えてくれないか」
「分かりました」
そういってミラージュは喋り始める。
「この大砂漠はその名前の通り、極めて広大な砂漠地帯。それでいて、すべての魔物が【悪魔種】である危険地帯です」
「全員が【悪魔種】ねぇ……笑えん冗談だ」
俺も【悪魔種】だし、その力の厄介さは理解できる。そして、今まで戦ってきた【悪魔種】の傾向から普通の魔物より頭の回転が速い。相手取るとなれば厄介な事この上ない。
それが全ての魔物となれば、厄介を通り越して危険だ。
「そのため、人間はオアシスに造り上げた都市とその近辺で集団で生活しています。ここでは、個体としての人間は殆んどヒエラルキーの最下層に位置していると言っていいです」
「人間と接触するにはどうすれば良いと思う?」
個人的にはなるべく速い段階でここに住む人間に接触したい。ミラージュの安全の確保という面もあるからな。
「そうですね……とりあえず、砂上船と接触しましょう」
「砂上船?」
「はい。砂の上を走る巨大な船の形をした魔道具です。船底にストックされた奴隷から魔力を供給し砂の上を走ります」
「なるほどな……」
少なくとも、自分の欲望を満たすために奴隷を使う連中たちよりはまだマシだ。この極限の環境で手段を選んでいる余裕があるとは思えないしな。
……まあ、元々奴隷制度自体は否定的ではないしな。というか、そこら辺は人間の勝手だ。魔物である俺は不干渉でいきたい。
「主に砂上船にも二つの種類があり、一つが移動船、もう一つが商業船です。なるべく、移動船に乗り合わせたいところです」
「そのこころは?」
「商業船は商人が乗ってます。基本的にぼったくられます」
なるほど、商人らしいな。
「了解した。……明日の事もあるし、今日はさっさと寝ろ」
「ですが……」
口答えするよりも早く視線を合わせ、ミラージュの意識を落とす。
【魅了眼】……あのアスモディアが魅了や精神支配に長けているのなら、このスキルを持っていても可笑しくない。
だが、普通に便利なスキルだな、これ。こっちの都合を押し付けれる。まあ、俺の趣味ではないが。
ミラージュの身体に異空間から取り出したマントを被せると外に出る。
「シュルルルルルルルルル……」
「やっぱし、狙われるか」
砂の中から現れた二十メートルはある巨大な蛇を確認し、かまくらの周囲に【拒絶】による結界を張る。
『ミラージュは寝てなければならない』という法則を設置した結界だ。これで俺の戦闘は見られないだろう。
蛇は野性的な美しさを持っている。砂に擬態するためか砂のような茶色の身体をしており、頭から背にかけて布のような膜がくっついている。月明かりによって膜は様々な色を見せる。
さて、と。久方ぶりに相手のステータスを見るとするか。
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名称:なし 種族:『零落天女』サンドウォー
Lv.二五
攻撃力:二四五二
防御力:九五二
素早さ:二三四二
魔力:0
スキル:【悪魔種】【天獄】【オーバーイート】【未来視】【ファクトリー】【魔曲・一滴】【天麟】
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スキル少なっ!?五つしかないぞ!?
あまりのスキルの少なさに驚いていると蛇が高速で突進してくる。咄嗟に避けると同時に尻尾を叩きつけられ凪払われる。
いや、スキルと実力は関係ないか。実際昔の俺もそんな感じだったし。
【人化】を解き、元の姿に戻ると蛇は嬉しそうに鳴く。
それと同時に身体に焦点を合わせ、発火させる。
「シュル!?」
蛇は咄嗟に砂の中に潜る。それと同時に地面を踏みつける。
「シャアっ!?」
砂の刃によって切られた蛇は地面の中から飛び上がって地上に出てくる。しかし、蛇の戦意は衰えてない。
視線を合わせると同時に毒液を吐き出す。
飛来する毒液を後ろに飛んで回避する。地面に付着した毒液がシュウシュウと音を立てて砂を溶かす。
酸性の毒液か……!
尻尾による凪払いを左腕で防ぎながら風の砲弾を放つ。蛇は身体をくねらせて砲弾を躱け毒液を放つ。
毒液を黒い障壁で防ぐと尾が鞭のように振り下ろされる。障壁が当たり前のように砕かれ、紫の煙を上げる身体に叩きつけられる。
ちっ……!かなり強い……!
「グルアッ!!」
尾を弾き、砂の刃を幾本も生み出して蛇の身体を切り裂く。蛇は痛みで引き、すぐに突進とともに腮を開ける。
噛みつき攻撃を身体を折って避け、顎に向けて拳を打ち上げる。
蛇は大きくのけ反るが頭をこちらに向け毒液を針のように飛ばす。左腕で防ぐが貫通し脇腹を穿つ。
ちっ……!体が痺れてきていやがる。酸性から神経毒まで様々な毒を調合できるのか……!俺の耐性を突破しているし、どう考えてもあのニンフよりも強い!
「グルルルル…」
「シュルルルルルルルルル……」
俺と蛇は互いに唸りあいながら、視線を交わす。
あいつには【未来視】がある。数手先まで読まれているのだろう。俺も似たような事が出きるし、おあいこか。
やってやるよ、蛇。……いや、砂の戦。久方ぶりにこの姿でな。




