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とある官の邂逅 sideマルク

もういい加減にしてくれよ!!


貴族街の瓦礫の撤去の指示をしながら私はイラつき、書類を書きなぐる。それもこれも、数日前に魔物たちによって引き起こされた惨劇のせいだ。


貴族街の壊滅、法衣貴族が死亡、高級奴隷たちの逃亡……魔物たちのせいで普通の人々にも被害が出てしまった。今は瓦礫の撤去と死体の除去を公民どちらも手を合わせて行っている。


唯一良かったのは他国から来ていた使者……『仮面ある者の品評会』の出席者たちは死んでいなかった事だ。もし死んでいたら確実に外交問題に発展していた。それだけは避けたかったから良かった。


「属国より物資が運搬されました。どうしましょうか」

「必要な情報を紙に纏めたら平民に回せ。ここに住まう貴族たちの多くは死んでいる以上、必要ない」

「しかし……それは流石に……」

「今は貴族のハリボテを造るよりも平民の家を造る方が先決だ」

「分かりました」


部下に指示を出し、クリップボードに挟んでおいた紙に貴族街の被害状況を記載していく。


貴族街はほぼ壊滅、オークション会場は倒壊しているし館も殆んどがここで戦った怪物の攻撃に巻き込まれていて殆んどが原型を留めてない。これなら、ここの瓦礫を撤去した後に学術街を造る方が良いかもしれない。


貴族の意向なんて知った事ではないしな。……とりあえず、今は兵士たちに指示を出さねば。こういった時に師団が残っていれば、人手をもっと増やせるのに。


「あら、マルク。頑張っているわね」


瓦礫を撤去した道に堂々と停車した馬車から降りてくる可憐なドレスを身に纏った妙齢の女性が私に話しかけてくる。


その顔を見た瞬間、資料を書く手が止まる。


「ティティトリア様ですか。何か用でしょうか」

「ええ、少しばかり話をしたいので」


ティティトリア様が天女のような美しい顔に笑顔を見せると、私は少しため息をついてティティトリア様の後ろをついていく。


ティティトリア様は公務以外は基本的に穏やかで平民たちにも好評の人物だ。だけど、今は少し殺気立ってる。流石に帝都がこんな状況なのだ、仕方のないことだろう。


「……本当に酷い有り様ね。魔物の襲撃によってこの有り様になったのですわよね?」

「はい。半魚人系の魔物――『大聖霊』傘下と鳥の魔物が帝都にてぶつかり合い、このような有り様になってしまわれました」

「『大聖霊』の庇護にお蔭でこの程度の惨状になった……とも言えますわね」


貴族街を抜け、平民街に入る。平民街は平民たちの手で瓦礫の撤去や怪我をした人たちの治療等々を行っている。無論、無報酬だ。


それもこれも、謎の支援者たちが平民たちの復旧を支援しているらしい。……こちらからしたら、支援の状況を報告してくれないのは困る。


「おや、ティティトリア様か。どうかしたか?」

「あら、ナラク。久しぶりですわね」


リクルートスーツを着てサングラスを装着した猫の獣人が友人と接するように気安げにティティトリア様に話しかけてくる。


う、胡散臭い……。見た目やら纏っている雰囲気があまりにも胡散臭すぎる。


「ティティトリア様、その方は……」

「ああ、知りませんでしたわね。この方はナラク、この街で奴隷専門の治療院を運営している人物ですわ」

「まあ、その説明であってるか」


奴隷専門の治療院……ある意味有名な『シュトレーゼ治療院』の院長か。あそこはエルフや獣人といった普通の治療院では門前払いされる人や治療を受けさせて貰えない奴隷たちに格安で高品質の治療が受けれる治療院だ。


また、普通の出生ではない人物の治療も受けいれているし、数日前に学舎としての運営もできる孤児院まで設立している。


治療院に勤務している人物の腕は【治癒魔法】や【回復魔法】のレベルが皇帝お抱えの医者や治癒魔法師と変わらない程に高い。また、製薬技術も他の治療院より頭一つ飛び抜けて高い。


結論からすれば、かなり異質な治療院なのだ。


……そういえば、この帝都に侵入した魔物であるエリラルもここに勤めている筈だ。何か計り知れないものがあるかもしれない。


「そういえば、今は属国のお姫様たちも保護しているんでしたわね。……私からすれば、返して貰いたいのですけど?」

「いえいえ、彼女たちは本人の意思でここにいますので、流石に無理矢理返せませんよ」

「あら、そうですか。……まあ、こちらからアクションを起こすつもりはありませんからご安心下さいませ」


……属国の姫?いや、今は気にする必要はないか。もしいたとしても今は兵士を動かす理由がない。


「ぬおー!?これ、美味しいのだ!」

「……すみません、少し席を外します」


子供達の中から聞こえた聞き馴染みのある声に私は眉間に皺を寄せ、そちらの方に向かう。


孤児院の子供達に紛れて食事を貰っていた中から目的の少女を見つけ出す。


「……何をしている、アンジェルネ」

「あー!マルクー!どうかしたのー?」

「どうかしたの、ではない。さっさと仕事に戻れ」

「えー?少しくらい良いでしょー?」

「駄目だ。お前の仕事は平民たちを守るために必要な事だからな」


アンジェルネには平民街の治安維持を任せてある。部下が有能なのは分かるが、流石に上が堂々とサボるのは駄目だろ。


「あの……どうかなさいましたか?」


いきなり現れた私に美しい獣人の女性が話しかけてくる。極東の服で、所謂割烹着というに身を包んだティティトリア様とは違った美女だ。


正直、好みの見た目をしている。手を出す事はないが。


「いえ、少しこの馬鹿に用がありまして。食事を取ったら仕事に戻れよ?」

「分かったー!」


そう言うと、アンジェルネは具沢山のスープを食べ始める。


やれやれ……暫くはアンジェルネは動く気配が無さそうだ。他の『七魔将』に連絡を入れておこうか?


「そういえば、貴女は孤児院の人ですか?」

「いえ、私は治療院の方に勤めてまして。孤児院の方は時折世話をしています」

「ツバキおねーちゃんの料理、とても美味しいんだよー!」

「へぇ、そうなのかい」


子供達も口々に孤児院での暮らしを伝えてくれる。聞いた感じ、不自由はないらしい。


「そういえば、君たちは誰に連れてこられたの?」

「熊のおじさん!」

「熊のおじさんが連れてきてくれたの!」

「ぼくも!」


熊の……おじさん?


「エリラルさんの事です。治療院に勤めている凄腕の回復魔法師で、今は街の方を見回りに……」

「いや、今帰った」


なっ!?


背後から鋭い声が聞こえ咄嗟に振り返ると、背後に白髪の熊の獣人が立っていた。アンジェルネが描いた絵の通り中性的な顔立ちをしている。


これが……エリラルか……!なるほど、圧倒的や雰囲気は皇帝陛下とそう変わらない。凄まじい男だ。


「ん……?お前、文官か?」

「え、ええ。そうですが何か用でしょうか」


一目見ただけで職業を言い当てられた……!?洞察力も高いか……!


「富国強兵は大いに結構だが……あの異形と人の意思をねじ曲げ、身体を作り替えるのは止めろ。でなければ、こんどは大いなる罪が国を落とす」


それだけ言ってエリラルは奥にある簡易ベッドに寝転がり眠り始める。


今のは……まさか、警告か?「『キメラ』や『ネームレス』を生み出すのは止めろ、でなければ『大罪』が国を落とす」ということか?


国落としの逸話に事欠かない『大罪』だ、この帝国ですら落とすのは容易なのだろう。


……まあ、流石に止めた方が良いだろうし皇帝に提言しておくか。


「エーリーラールー!!」

「うっさい」


立ち去ろうとした時、大きな声が聞こえたと思い振り返ると狼の獣人の少女がハクアに頭を掴まれて握られていた。


あれは……まさか、シンシア姫か!?あのお転婆姫、ここに住んでいたとは。ていうか、扱いが雑だ。


「イテテテテテテテテテテテテ!?」

「あの……流石にやりすぎではないですか?」

「まあ、自業自得では?」


あれは……マルト姫にグローリー姫か。グローリー様は『ネームレス』に作り替えて筈だから……やはり、魔法が解かれていたか。


「元奴隷の皆様がエリラルさんに感謝したいと……」

「俺がやったのは適材適所の職業の斡旋を任せただけだ」

「ほかにも、兵士たちからの感謝状が……」

「後で渡せ」

「あと、ミサさんから『元奴隷たちの指揮を頼む』との要請が」

「突っぱねろ。一応の本業に差し支えが出かねない」

「それと『徹夜続きで眠い。少し仕事かわって』と」

「ユースティアにでも押し付けろ」


何だろう……エリラルとマルト姫が上司と秘書の関係に見えてくる。何て言うか、苦労人の臭いがする。


だが、周りの対応から色々と分かった。あの男はこちらの完全な敵ではない。手を出さなければ動くことはない、眠れる怪物と言ったところか。


さて、私もティティトリア様の元に戻らなければ。



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