表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
115/120

水火決着 sideツバキ

爆ぜる。ほぼ同時に魔力が爆発し、音が一つに聞こえる。


「ぐっ……!化物め!!」


ええ、そうでしょうね。


放たれる水の針を刀で打ち落とし、接近する兄の刀を刀で受け止める。


私は怪物だ。あの女の力で怪物にされた。でも、そこに後悔はない。


炎を纏う刀で兄の刀を打ち払い、蹴り飛ばす。


「がっ!?」

「……なるほど、それこそが当主としての才能だったのでしょうね」


九尾の尾を持つ魔物であった初代。人ならざる者に生まれ変わった私。


過去と今。二つの伝承。その本質は――


「誰かを愛する事ができる者。それこそが当主としての才覚なのでしょう」


連続して振るわれる兄の刀を躱し、炎を交えながら反撃する。


幼い頃、母に読み聞かせて貰った昔話――初代の伝説を思い出した。


初代は女房として暮らしていた。暇潰しに朝廷を堕落と退廃に満たしていた。その時、たまたま正体を見てしまった一人の兵士がいた。


初代はその兵士を殺そうとした。肉体的にも、社会的にも。しかし、その兵士は初代を見て呟いたのだ。


何でそんな寂しそう何ですか、と。


それを聞いた初代は少し呆けて、そしてクスクスと笑い見逃した。


そこから初代と兵士の交流が始まった。最初は帝と同じように話していけば心が堕ちると思っていた。しかし、兵士は堕ちる事なく初代と交流を続けた。


初代は少し驚きながらも兵士に興味を持っていった。そして、気づいてしまった。


初代は自分の持っていた地位も名誉がとても価値のある宝石ではなく路肩に落ちている石である事を。


初代は兵士が持っている心と誇りが路肩に落ちている石ではなくとても価値のある宝石である事を。


そして、初代は女房の位を捨て兵士の妻となった。子を授かり貧しいながら幸せな日々を過ごしていた。


しかし、それを帝は良く思わなかった。兵士を無実の罪で捕らえ、処刑しようとしたのだ。初代はそれはそれは大層怒り狂った。


処刑当日、帝の願いを拒絶する夫の前で初代は本来の力を――『憂鬱』の直系の力を誇示した。


恐れ戦いた帝は他の兵士たちに討伐を命じた。しかし、『憂鬱』に比類する実力を持つ初代は圧倒的な実力を持ってねじ伏せた。


初代は縮こまる帝と一つの契約を結んだ。


我らに手を出すな。ならば、この国に安寧を与えん。


帝はそれを認め、初代は一人の女としての人生を捨て神を奉る神官となり山奥の中でひっそりと暮らす事となる。


偏愛と敬愛。どちらも同じ愛。それは正しき方向に向かなければ、闇へと堕ちる感情。


「本当に、滑稽な話ですよね」


受け身をとって起き上がりすぐさま肉薄する兄と刀を鍔迫り合いながら私は笑う。


人生を捧げて誰かを愛する。最も単純で最も難しい事こそが当主になるために必要な事だったのだ。


兄にはそれがなかった。私にはそれがあった。


「貴方に負けるつもりは――ない!!」


兄を力業で凪払い、目に力を込める。力の流れが兄の周りを渦巻いていく。


力の流れに刀の切っ先で触れる。それと同時に火花が飛び散る。


「【爆包】」


その瞬間、兄の周りが一斉に爆ぜる。轟音と共に熱波と衝撃が撒き散らされる。


黒煙の中からボロボロの身体で抜け出る兄は水の刃を振るう。水の刃を火の刃で打ち払う。


「愚妹がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


兄は吼えながら跳躍し刀を振るう。衝撃で吹き飛ばされる。空中で体勢を整え着地と同時に振るわれる兄の刀を刀を垂直にして防ぐ。


「【雪月火】」


空中に火の玉が現れ、熱波と共に辺りに火の粉が降っていく。後ろに跳んで距離を取りつつ刀を振るう。それと同時に流れるように火が放たれる。

火は火の粉を取り込み火力をより強くしていく。


「小癪な!!」


兄は刀を捨てると鎖に繋がれた短剣を取り出す。


それを縦横無尽に振り回し火を打ち払う。


水平に振るわれる短剣を跳んで回避する。


その瞬間、


「なっ!?」


脚に短剣が深々と突き刺さり一気に兄に引き寄せられる。


咄嗟に兄の肩を土台に後ろにバク転して突きだされる水の槍を回避し、脚に突き刺さった短剣を引き抜く。


引き抜かれた短剣は兄の手の中に戻る。その隙に火で傷口を炙り出血を止める。


「魔道具『アクアシャーク』。傷をつけた相手の魔力を喰らう魔道具。貴様の魔力を喰らい尽くせば、簡単に終えるだろ?」

「……それが出来るとでも」

「何?」


高慢な笑みを浮かべると兄に向けて不敵な笑みを浮かべる。


使い方は分かる。でも、反動も大きい。


「『壊れろ』」


それがどうかしたか!!


私の命令と共に血が付着した短剣が粉々に砕かれる。


「ごふっ……!」


それと同時に口から血が溢れる。咳き込むと血の塊が口の中から出てくる。


血液系スキル【血の統括】。私の血が付着した物を自由に命令を下す事ができる。その代償に内臓器官に大きなダメージを負う。しかも、ランダム。


ナラクさんからも「なるべく使うな。血液系スキルは【吸血種】を除いてデメリットが存在する。まあ、そのデメリットをプラスにしているのがお前の主だけどな」と言われている。


けど……兄の隠した獲物を壊せた。勝機が……見えてきた!!


兄は鎖を捨て、刀を持つ。それを見て私はニヤリと笑う。


「焔よ!!」

「水よ!!」


同時に魔法を放ち、中間でぶつかり合い衝撃と熱波が撒き散らされる。


それと同時に背後に回り込んだ水の針を反転しながら刀を振るい打ち払い、もう一度反転して兄の刀を受け止めて弾かれる。


兄はすぐさま刀を振るい水の刃を放つ。空中で刀を振るい、水の刃を弾いて着地と同時に地面を蹴り回し蹴りを水平に振るう。


「……嘗めるな!!」


兄は刀を持たない左手で足を掴む。それと同時に火と氷がぶつかり合い、互いに衝撃で弾き飛ばされる。


でも……これで、終わりにできる。


「【雪月火・落月】」


私が唱えると同時に宙を浮いていた火の玉が落下し始める。それに気づいた兄はすぐさま飛び退く。


「なっ!?」


それを見図らい、手に持った鎖を振るい脚を絡めとり一気に近づき刀を腹に突き刺す。


「この……!」

「お父様たちの元で……懺悔して下さい」


刀を順手から逆手に持ち変え肩に突き刺してくる。深々と刺さり肩を貫通すると同時に【治癒魔法】で傷を固定させる。


これで、もう……勝てる!!


その瞬間、火の玉が私たちの真上に落ちる。


地響きに等しい轟音と共に全身を炎が焼く。熱で服は焼け落ち肌を焼いていく。その中で【治癒魔法】を絶え間なく使い続ける。


熱い。身体が焼かれる感覚する。呼吸できない。でも――それでも、私は何としてでも。


勝つ!!


「はぁ……!はぁ……!」


爆心地の中心、半径十メートルから全てを燃やし尽くし消滅させた中、火に身を焦がしながら立ち上がる。


やっと……!勝てた……!お父様たちの仇を……とれた!!


「良く勝てたね。おめでとう。『怠惰の巫女』」

「ッ!?」


真後ろから声をかけられ咄嗟に飛び退く。真後ろには一人の栗鼠の獣人――ラートニグが笑顔で立っていた。


まさか……この炎の中を生き残ったの……!?無傷で……!?


「貴方……何者?」

「うん?僕は……そうだね。僕は『捕食者』。LLランクの『プレデター』だよ」

「……!!」


『プレデター』。『憂鬱』と同じ……『大罪』の怪物!!『樹海大陸』の頂点に位置する怪物が一体何故……!?


「君の事は『憂鬱』に頼まれているからね。でもまさか、あんな手法で倒すとは思ってもいなかったよ」

「『憂鬱』様が……!?」

「あ、それと」


そう言ってラートニグは虚空から青白い浴衣と帯を取り出して渡してくる。


ラートニグは目をそっぽに向けながら小さく呟く。


「いつまで全裸でいるつもり?僕は嫁さんを持ってるから良いけど……他の人に見られたくないでしょ?」

「あ……!」


すぐに顔に熱が籠り、ラートニグから浴衣を取って着替え始める。


その瞬間、腹部に強い衝撃が走る。


「え……?」

「すまないけど、君はもう限界だ。すぐにでも休ませた方が良い。僕はそういった目はある方だから」


吹き飛ばされる事なくそのまま私は地面に倒れる。


意識が明滅するなか、ラートニグは無邪気に笑いながら言葉を洩らす。


「あ、服は着替えさせておくか。流石に僕もエリラルに殺されたくないし」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ