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喪血の刺客

金の光と轟音と共に雷の矢が魔物たちを刺し穿つ。それと同時に近づいてくる魔物を燃やす。


『憂鬱』はミラージュたちの警護に行ってしまったし、【テレパシー】は繋がらないしで今のところマイナスの傾向が強い。


爪で鳥の魔物を引き裂き、死体を右手で掴み盾にして魔物の突進を防ぐと【スルーズ】を発動させ左手てを硬化、金槌を振るうように頭に振り下ろす。


頭をかち割り、衝撃波で辺りの瓦礫が舞い散る中、俺は地面を蹴り空を舞う魔物たちを爪で引き裂く。


貴族街の方にも火の手が上がっているし、辺りは死体が転がっていやがる。これは向こうもかなりの状況だろう。


迫りくる蟹の魔物の殻を踏み潰し、地を這うように雷を流し感電させる。


【Lv.五からLv.六に上がりました】


お、レベルが上がった。……擬似神格を手に入れてからレベルが上がりにくくなったのか?


【擬似神格保有者の神化は共通して十に定められています】


そりゃどうも。分かりやすくて助かる。……ていうか、進化ではなく神化なんだな。


腕を振り下ろして風の刃を放ち、空から飛来するコンドルを両断する。それと同時に辺りの炎を操り迫りくる猪を焼き殺す。


魔力の糸を出して人と魚が混ざった魔物を切り刻むと辺りの気配を探る。


ふむ……魔物の気配がなくなったか?少なくとも、俺の知覚範囲には魔物がいなくなったか。まあ、範囲技ばかり使っていたから殺し尽くしたと考えて良いだろう。


そして、ミサが守っているであろう天宝宮や『憂鬱』が警護しているミラージュやマルトたちを除けば貴族街の人間の多くは死んでしまった。


元より、この帝都は兵士の数が足りてない。それに、魔物殺すことを商売している冒険者はギルドが北側にある関係でほぼ反対側にしかいない。貴族の守りはほぼ丸裸にされていたと考えて良いだろう。


そこにこの魔物の強襲。恐らく他の地区に比べても被害は甚大だろう。……前世の世界でも防災や防火設備が使い物にならなくて起きた人災は多かったし、これに関してはどうにもならないか。まあ、その原因の半分以上が俺だけど。


だが、こんな状況では治療院に戻ることもままならない。そうなれば、ツバキと合流するのも難しい。無論、影を移動すれば問題ないとは思うが……何か、嫌な予感がする。影の移動は今は避けた方が良いだろう。


「こっちとしては【テレパシー】が繋がらないのが嫌なところだ」


思念が入り交じっているのか、【テレパシー】がノイズだらけだ。これでは、連絡がつかないし現状がどうなっているのかさえ分からない。連絡網の分断はかなり厄介な事だ。


撹乱に分断、そこに魔物の物量でのごり押し……敵はかなり計画的にこの惨状を生み出した、と考えて良いだろう。


帝国がどうなろうと帝都がどうなろうと、どうでも良いし興味の欠片もないが、流石に降りかかる火の粉は払わないといけないとな。


「……あら、あたしの気配がバレていたようね」

「何故、という質問は無粋か。『大公』の刺客」


影から浮上する少女に俺は後ろを見ることなく察知する。


どうにも、影の中に入ることに嫌な予感を感じていたらこいつが先にいたからか。影の中に入る僅かなタイミングは影の内部はほぼがら空き、入っていたら確実に殺られてた。


「あの魔物どもが眷属化していたということから【精霊種】【悪魔種】【吸血種】の三つのどれかが関わっていたということは分かっていた。

蜘蛛の自作自演も考えたが俺と同じ秘境外生まれで秘境の連中の傘下に入るメリットがない。そもそも、俺と敵対する理由が頭を働かせれる外の魔物たちにはない。

となれば『大罪』の連中や『大聖霊』の連中かと言えばタイミング的におかしい。そもそも、『大罪』は例外を除けば眷属化に乗り気ではないからな。

そうなれば、残りは『神龍』、『大公』、『大聖霊』となる。まあ、ここからは運になるかな」

「へぇ……やっぱり、お父様から聞いた通り、中々面白いじゃない」


ふわふわと浮きながら俺の前に割り込んでくる少女はケラケラと笑う。


少女は喪服のようなドレスを身に纏い、頭に黒薔薇の造花を乗せた帽子を被っている。肌は日に当たってないのか色白。赤い瞳に背中から蝙蝠のような翼が生えている。


幼げな見た目に反して密度の濃い魔力が両手に集中しているし、見た目と実年齢は違うと見て良いだろう。


「それで、俺をどうするつもりだ?」

「うーん……『大聖霊』と手を組んでいるのはお父様だし、あたし個人は別にどーでも良いかな。まあ、最低限……殺させてもらうけどね!!」


少女が一瞬で間合いを詰めると同時に予備動作なしの拳が顔面目掛けて放たれる。


「よっと」


同じく予備動作なしで爪を振り下ろし、拳を弾く。


この感触……霊拳に近い技だ。霊拳が肉体の破壊を行うのなら、この拳はそれ以外を破壊させる事に長けている。だが、肉体に対しては別の手法をとっているな。


「くふふ……!」


拳と拳、爪と拳、脚と脚が交錯し辺りに波状の衝撃波が撒き散らされる。


円舞曲を踊るようなほぼゼロ距離の間合いの中で位置取り、そこからノーモーションの攻撃。……魔法の打ち合いよりもこっちの方が面倒だが、なるほど、俺好みだ。


風の砲弾を少女の背後から放つが当たり前のように半透明のバリアで防がれ、拳の横を拳で弾かれる。


だが、残念。


地面から突き出る刃が咄嗟に身体を逸らす少女の頬の肉を削ぐ。


「ッ!?」

「やはり、こういった戦い方は相手してこなかったか」


まあ、当然か。【マルチタスク】でも使わないとできないし。


頬に受けた傷に意識が裂かれると同時にアッパーを放つがギリギリのところで防がれる。その瞬間、雷が流れる。


「なっ!?」


咄嗟に翼を羽ばたかせ、距離をとる少女に肉薄すると拳をうち下ろす。


少女は拳を掌で受け止め、大きく威力を逸らす。

すかさず蹴りを鞭のように振るい、少女は受け止めて弾かれる。


「やっぱり、こと体術だけじゃ倒せないか」

「魔法を使えば良いのに」


それだけの魔力があれば、魔法を使ってもそれなりに戦えるだろう。


「……へぇ。良いわ。あたしも少しだけ、全力でやってあげる」

「そうか。なら」


こっちも少し全力でやってやる。


少女が接近してくると同時に狙いを定め、指を弾く。その瞬間放たれる音の衝撃波を少女はギリギリのところで回避しながら腕を振るう。


腕から車輪のような黒い刃が回転しながら飛んでくるため回避する。黒い刃は辺りの建物を切り飛ばし、崩壊させる。


……風ではない。土でもない。となれば、重力の刃か。面白い使い方をするな。


統合したスキルの中に含まれているかもしれないが、今は考えるのを止めておこう。


そんな事をしている余裕は、ない。


黒い鎖を振るい、少女が手に持つ黒い鞭を弾きながら苦し紛れに舌打ちをする。


衝撃で手首が痛い。重力以外にも何かに干渉しているのか。


「くふふ!!やはり、とても良いですね!!」


高揚した声色で鞭を手放し、辺りに広がる砂塵が一気に俺に目掛けて迫ってくる。


魔法で生み出した氷で砂塵を凍らせた瞬間、腹部が抉りとられる。


「がっ!?」


痛みに血を洩らすと同時に左手を傷口に当て、俺の血が付着した左手を地面に当てる。


その瞬間、地面に黒く禍々しい紋様が浮かび上がりそれを見た少女は慌てた様子で範囲外に飛び退く。


【ワラキア】に統合されたスキルの一つ……だろうな。規模は付着した血の量か傷が影響している、と考えて良いだろう。


【BS:血液系スキル

ブラッドサンクチュアリの略。

自らの血を代償に聖域を顕現させる。

聖域内は魔力の流れが変質する

【吸血種】以外は内部にいるだけで一分以上生存することはできない】


なるほどねぇ……これは使い勝手が悪い。て言うか、俺はこの中にいても問題ないのか?


飛来する黄金の鏃を拳で弾き、腕を遠擲の要領で振るう。風の刃は俺が思う通りに動き少女の身体を切り刻む。


ふむ……どうやら【サンダルフォン】を使う以上の精度で魔力の動きを制御できる、と言ったところか。肉体的な問題はないし、これは後回しにして良いな。


「くっ……!【BS】何て聞いてないわよ……!」

「そりゃあ、俺だって知らなかったし」


風の刃に加えて雷の矢を様々な角度から放ち少女の守りを躱し被弾させていく。


逆に、少女の攻撃は俺を避け瓦礫の山や地面、空にねじ曲がっていく。


なるほど、確かに【BS】を使った時に少女が驚いているのも納得がいく。反則なまでに強い。


【吸血種】なんだから範囲内に入っても問題ないだろうが……魔力の流れが歪められてしまうだろうし、入れないだろう。


……趣味ではないな。抵抗の通じない蹂躙なんてつまらない。


指を弾くと辺りに広がっていた紋様が無くなり、【BS】が解除される。


少女はその光景に唖然としながら、俺に手を向ける。


「……どういう了見なの?」

「趣味ではない。それだけだ」

「へぇ……」


少女は鋭い犬歯を見せながら好戦的に笑いながら向けていた手を握り、身体の表面から血色のオーラを放つ。


「【ブラッドパージ】……能力の八割を封じる事で【吸血衝動】を封じるスキル。それを解除した」

「…………」

「貴方も肉弾戦でやるのならスキルを全て発動させなさい。それが礼儀ってものでしょ?」


……仕方ない、か。


脂汗を滲ませ、血走り妖しい光が籠る瞳を向ける少女に呼応し、拳を握る。


確かに、俺は全てのスキルをフルで使用していない。何せ、どんな力が放出するか分からない以上被害がどうなるかも分からなかったからな。


だが……この少女にはそれは通じないだろう。あの気迫は『大罪』の連中に迫るものがある。


『暴食』や『嫉妬』が手加減した状態に匹敵するんだ、それを超えるためには自分でも知らない全ての力を振るわないといけない。


月が雲に覆われる中、俺と少女は高らかに名乗り、宣言をする。


「俺はエリラル。お前を潰す」


「ユースティア・ラファエル。貴方の血はどんな味がするのかしら」


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