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忌むべき再会 sideツバキ

「邪魔を……するなあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


駆けながら黒い刀を縦横無尽に振るい、魔物たちを切り裂いていく。


飛び掛かる水色の毛皮をした狼を刀を持たない左手で掴み地面に叩きつけ、魔法で生み出した火の玉を内部に叩き込み爆発させる。


肌の焼ける痛みを耐え、頬に付着した血を拭い刀を水平に払い突進してきた藻が付着したような毛皮をした馬を両断する。


旦那様は今、貴族街の方にいるとラートニグと名乗る少年から聞きましたが、この状況では行くことが出来ない……!!


火の手が上がり、悲鳴と絶叫に包まれる帝都の中を私は再び走り出す。


帝都は今、湖から突如として現れた魔物たちによって襲撃を受けていた。また、空から飛来した鳥系の魔物たちが湖から出てきた魔物と交戦を開始したため、より混乱が深まってしまった。


治療院と孤児院の方はナラクさんたちに任せていますが、大丈夫なのでしょうか。


「お母さん!しっかりして!」


瓦礫に挟まれた母親を引っ張る少女を見かけ、私はすぐさま瓦礫を退かして少女の母親を助ける。


本来ならこんな方法でやってはいけませんが、現状に賭けるのなら、こっちの方が遥かに生存率は高い。


少女の母親に【治癒魔法】をかけて傷を塞いて立ち上がると身の丈ほどの大きさの隼の突進を刀で横に叩いて流す。


そして、辺りにある炎を操り隼を一瞬で燃やし黒焦げにする。


「くっ……」


その瞬間、腕に血走るようか傷が浮かび上がり、痛みに歯を食い縛る。


今、この身体と魔力の出力が見合ってない。魔力が身体を蝕み、中から溢れてる。


「大丈夫?お姉ちゃん」

「ええ、大丈夫です」


傷を着物の袖を引き裂いて塞ぐと心配する少女の頭を撫で、別れを告げて一気に駆け出す。


魔物の被害が大きすぎる……!鳥の魔物と湖の魔物がぶつかり合っているからそれだけ多くの人たちが傷ついている。


一刻も早く、この事態を収集しないと……!


「見つけた」

「ッ!?」


咄嗟に地面を蹴って後ろに飛び退くと同時に足元に水の針が幾つも突き刺さる。


この声……まさか!!


水の針を放った男の顔立ちは精悍だがどこか焦燥し、目には欲望がドロドロと底無し沼のように詰まっている。背格好は西洋風で得物という得物を持っていない。


そして、この男の名前は――ツメシロ。ココノエ家における絶対の汚点。


「やっと見つけたぞ、愚妹」

「ッ……!お兄様……!」


水の針を携え近づく中年の狐の獣人の男――自分の兄に私は刀を震えながら向ける。


兄はどこかおどけたような声音で、


「おいおい、血の繋がりがある者にそれを向けるか?」


と嘲笑する。それに対し、私は怒りを滲ませながら兄に歯向かう。


「何を、その口で言うんですか……!!貴方のせいで、お父様も、お母様も、お兄様たちもお姉様たちも……!全員、死んでしまったではないですか!!」

「当たり前だ。あのような愚物どもはこの俺を当主にする事なく、貴様を当主にしようとしていた。そんな事、許される訳がない」


当たり前……ですって!?


その瞬間、私は兄の何でもない、様当たり前のように語る言葉に怒りが頂点に達する。


ココノエ家は、既に『ヤマト』に存在していない。私と、目の前にいるお兄様以外は、皆殺しにされてしまった。


一重に……お兄様のせいで。


お兄様は幼い頃からとても自信家だった。他のお兄様たちやお姉様たちよりも遥かに勉学が得意で剣術や弓術、槍術、魔法の才に溢れ、軍略にも長けていた。


その自信はすぐに傲慢に変わった。


家の中で最も幼かった私は兄によって常に暴力を振るわれていた。常に建物の物陰で、お父様たちに分からないよう、服で隠れるような場所ばかりだった。


けど、運命が決定づけられたのは私が七歳の時だった。


七歳の誕生日、私はお父様に連れられ『不死山』を登る事となった。一般に公開されている場所を抜け、正真正銘の神域を抜け、『憂鬱の大罪』と直接顔を会わせる事となった。


それは、ココノエ家における次期当主を確定させる神聖儀式だった。そして、それを聞いたお兄様は……怒り狂った。当たり前だ、自分が追い求めていたものを最も幼く弱い私が手に入ると知ったのだから。


そして、私が十二歳、ヤマトでは一人の大人として迎えられる歳。屋敷は突如水性の魔物によって襲われた。


「『大聖霊』と手を組み、お父様たちを殺した罪を……許すわけにはいかない」


震えが収めると、私は兄に向けて刀の切っ先を真っ直ぐに向ける。


燃える屋敷から逃げ、奴隷商に捕まれた時はずっと憎んでいた。けど、奴隷だったから敬愛すべき旦那様に出逢う事ができた。


もし、時を戻せるとしたら私は確実に同じ道を進むでしょう。


それでも、兄だけは生かしておくつもりはない。


兄は私の眼差しに胸糞悪そうに舌打ちをする。


「ちっ。この俺に……【精霊種】であるこの俺に勝てると思うのか?愚妹」

「分かりません。ですが、ここで勝たなければならない事は分かります」


自分の運命を決定させるのは自分自身だけだ。その機会を教え、与えてくれたのは、他ならない旦那様であり、旦那様は何よりもそれを尊んでいる。


なら、私は旦那様の従者としてそれを全うするだけ。


「なら……死ね」


氷のような冷徹な瞳になると同時に兄の周りに浮かんでいた水の針が弧を描きながらこちらに向かってくる。


炎を身に纏い、地面を蹴り、瓦礫の山を駆けながら水の針を打ち落とす。水の針は地面と落ちると同時に溶け、周りの火に炙られ蒸発する。


足を止めると同時に放たれた水の砲弾を両断する。続く兄の蹴りを左手で上に押し上げて体勢を崩させると身に纏った炎を鞭のように操る。


体勢を崩したところの鞭には流石に避けれなかった兄の胸にしっかりと叩きつけられた。


「くっ……!」


兄の服を焼き肌を焦げさせながらたじろく兄の身体を弾くと一気に詰めいる。


間を置かずに突きを放つが手を添えられて逸らされ、問答無用で水の針が肌を刺す。その瞬間、兄の身体は水に変わる。


液体となったのと同時に過ぎるを南東となる。


「うっ……!」


飛び退ききょりをとると同時に纏った炎を羽衣のような形状に変え左手に持つと勢いよく兄に向けて振るう。


兄は身体さばきだけで羽衣を避けると腕を垂直に振るい水の刃を放つ。


着地と同時に真横に飛び退き、水の刃を躱す。


「おれよっと」

「がっ!?」


だが、肉薄した兄の足から放たれる蹴りを腹に直接叩き込まれる。バウンドしながら腹から込み上がってくるものを耐え、立ち上がる。


やはり、私は戦い慣れていない。あの日から少なくともそれなりの時間が経っている以上、お兄様も実力は上がっている。私の実力はナラクさんと比べればそこまで高くない以上、兄との実力はそれなりに開いている筈だ。


でも……私は彼を倒さなければならない。それこそが、ココノエ家に生まれてしまった者だがらこそ、この手で介錯しなければならない。


刀に炎が蛇のように纏わり付くと同時に刀の刃に火が宿る。


そのためなら、私だって力を振り絞る……!


血が滲むほどの力で刀を握りしめ、兄を見上げ、静かに告げる。


「勝負です、お兄様」


命を賭け、私は何としてでも……勝つ!!

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