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『憂鬱』

殲滅は、ものの数分で終えた。


最後に残った狼の魔物の首を締め上げて骨を折り、絶命したのを確認すると投げ捨てる。


被害は……なし、と。殆んどの奴が相手にするよりもミラージュと俺で殲滅し回っていたからな、多少の傷はあれど、問題はないだろう。


「……見ないで貰えますか?」

「ああ、すまない」


無表情ではだけて服を直すミラージュに言われて目をそらす。その両手と両足は血で汚れていた。


こいつの体術はかなりレベルが高い。ミンレイの体術よりも相手の力を利用する投げ技が多かった。あの華奢を絵に描いたような細く小さな身体でよく身体以上の魔物を投げれるよ。


服を直したミラージュは手に着いたヒレのような布を舞うように動かし、俺の前に跪く。


「……何故跪いている?」

「助けて下さった恩がありますので、何なりとこの身体を使ってください」

「……そんなつもりないけどな」


女を侍らせて酒池肉林とか、俺の趣味ではない。


そもそも、基本的に人間を側に置くのはあまり好きではない。というか、その格好で跪かれると俺にそんな嗜好があると思われるじゃん。さっさと止めさせないと。


「……何をやらせているのですか?」

「あー……やっぱり誤解されちまったよ」


剣を抜き、ごみ屑を見るような目で見てくるマルトを見た瞬間、ため息をつく。


それと同時に魔法が雨あられと降り注いてくる。


回避は……必要ではないな。


「……とりあえず、話の邪魔をしないで貰えませんか?」


ミラージュが半透明のバリアを出して攻撃を防ぐとマルトは顔を真っ赤にして、


「な、何故そんな女の敵を庇うのですか!?」


と、問うてくる。


いや、そんなに大それた事はしてないが……。女の敵では断じてないぞ?


「……?この御仁は私たちを解放してくれました。ならば、感謝と礼を払わなければなりません」


いや、感謝はありがたく貰うけど礼はいらないぞ。そんな物を貰うためにこんなことをしている訳ではないしな。


ミラージュは嘲笑するような目付きで敵対する人たちを見回し、仏頂面で鼻で笑う。


「それとも、この国の人間は救ってくれた人間にも感謝も礼も伝えれないような愚かな人間ですか?世界有数の大国がお笑いですね」

「なっ――!?何て無礼な!」

「私としては礼を尽くしても尽くしきれない恩があると感じています。それこそ、一生涯遣えこの御仁の血筋に身を尽くすことすら許容できます」


いや、それは別に良い。基本的に一匹で生きていく方が都合が良いし。


こちらからすれば傍迷惑な口論が続いていると【テレパシー】が繋がり、疲れきったミサの声が頭に響く。


『おー……そっちは終わったか?』

『ああ、終わっている』


どうやら、ミサの方も終わったようだな。


『怪我人は?』

『擦り傷や打撲が少々。こっちで応急手当てはしとくから動ける人たちを連れて合流する』

『了解した』


【テレパシー】を切り、一触即発の空気の中を取り持つように間に立つ。


さて、さっさと場を取り持つしかないか。やれやれ、何でこんな事になるのやら。


「とりあえず、今のところの被害情報を確認しておきた――」


「そんな事、必要ない」


「ッ!?」


咄嗟に近くにいたミラージュ手を掴み身体を引き寄せ、抱えながら右手を突き出し赤黒い大楯を作り上げる。


その瞬間、熱波と同時に炎の奔流が噴き出される。


ちっ……!何て魔力だ……!威力が高過ぎて全力で作り上げた大楯が皹が入っていやがる……!


「ミラージュ!!さっきのバリアで後ろの連中を囲え!!」

「ッ!!了解しました!」


背後で身を屈めているマルトたちにバリアが張られ、俺はより一層の力を大楯に加える。


大楯は力を加えれば加えるほど大きくなり、何とか炎の奔流を防ぎきる。


ちっ……腕が火傷していやがる。【天の鎧】で上がっている筈の耐性が完全に貫通していやがる。もし、防げなかったら……確実に死んでいた。


火傷が癒えていく中、赤熱で焼ける床の上に放ったであろう女が降り立つ。


「大熊以外は全滅していると思ったが、生かしたか」


女のまさに巫女と呼ぶべき姿をしていた。


緋色の髪を踵ほどまで伸ばし、同色の瞳には穏やかさと暖かさがある。背中からは一対の緋色の翼が生え、そのどちらにも俺の両腕にあるような複雑怪奇な紋様が刻まれている。


服装もこっちとは違い前世の神道における神官の服装をしている。


極東にいる巫女……いや、そんなものではない。そんなものではあってはならない。こいつから溢れんばかりの炎には神気が宿っている。


「……何者だ」

「『憂鬱』。長きに渡り、命を生きながらえてきたことによって、生きる事に憂いだただの緋の鳥と言っておきましょう。そして――」


女は高らかに告げる。


「『大罪』の一柱、そう呼ばれています」


その瞬間、俺の脳裏に電流が流れる。


『憂鬱』。前世における七つの大罪の原型である八つの枢機罪に書かれている大罪。それもまた、『大罪』として分類されるか――!


そして、こんなのと対面していればこいつらは……!


「走れ!!」

「分かりました!!」


ミラージュたちを一斉に走らせると俺は微笑む緋の鳥に向けて拳を握る。


相手が『大罪』である以上、勝ち目は限りなくない。なら、話し合いに持っていきたい。万が一に備えて、あいつらは逃がしておく。


「逃がしましたか。やはり、貴方はどこか甘い」

「別に構わないだろ。これは気紛れなんだしな」

「それもそうですね」


そういうと、女は平然と俺の間合いに入ってくる。


攻撃するつもりはない……が、これは攻撃されても問題ないという自信そのものだ。恐らく、この女は生命力……回復や治癒と言った魔法やスキルを得意としているだろう。


俺とこの女はどちらも傷を無くしたり、減らしたりできる。どちらも決定打と呼べるものがないのが現状だ。


「それで、俺に何か用か?」

「ここに住まう『大聖霊』について」


目を細め、明らかな敵意と殺意を持った『憂鬱』に俺は少し怪訝そうに見つめる。


確かに、『大聖霊』は俺からしても色々と思うところはある。だが、向こう側からアクションがなければこっちも動くつもりは一切ない。


『憂鬱』がどんな目的を持っているか知ったことではない。だが、少しばかり聞いておこう。


「私に仕える十の家の血が覚醒するとき、私の意識を覚醒させるように設定してあった。それが数日前に起動した」


……間違いなく、ツバキの事だろう。ツバキのあの姿はある意味先祖帰りのようなものだと考え確かに方が良いか。『嫉妬』は許すつもりはないけど。


「そして、それは向こうも感知している筈です」

「感知?」

「ええ。何せ、ここに住まう『大聖霊』と私は仇敵同士、その力を覚醒させる要因が生まれたとなれば、向こうは放っておきません。確実に潰しにきます」

「俺を唆すつもりか?」

「ええ。あの女を許すつもりはない。それだけの話です。そのために、利用されて下さいな」


白々しく、図々しい。だが、ある意味真実しか話していない。協力を結ぶには、丁度良いか。


「良いだ――」


俺が答えようとしたその瞬間、


「なっ!?」


ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!と轟音が外から鳴り響く。


これは……爆発音か!?外で何かが起きているのか!?しかも、この方向……平民街の方じゃねぇか!


頭にツバキの笑顔が過った瞬間、俺は拳を握る。

……『大聖霊』と事を構えるつもりはないが、ねじ伏せてやるよ。


「……どうやら、向こうが動き始めました」

「そのようだな。タイミングが最悪だ」


とりあえず、今は動くことが先決だ。さっさと動こう。

……無事でいろよ、ツバキ……!

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