集落強襲
結局、夜になってしまった。
日が沈み暗い森の茂みに隠れながらゆっくりと音をたてないように歩く。
既に村の方は見えている。だが、村は掘りや柵に囲まれて内部に侵入することが出来ない。柵の近くには村人が弓や剣を持っているから近付けば攻撃してくる。俺は兎も角アリスは死んでしまう。
というか、アリスのやつ。何でまだ起きないんだ?
【魔力欠乏症について】
……病気か?アリスには持病があったのか?
【魔力欠乏症は生物の内部にある魔力消費率が一〇〇パーセントを越えた時に起こる病。
症状は失神、呼吸の乱れ、発熱等がある。が、個人差が大きいためこれら以外の症状もある。
発症から二四時間が経過すると魔力消費率が〇パーセントになり症状はなくなる】
この内容だと誰の身にも起こりうる病だな。そして、アリスは今それのせいで意識を取り戻していないのか。
だが、この情報を知ったところで意味は……いや、抵抗されないのなら一つだけこの状況をどうにかなるかもしれない。
だが、かなりの賭けになるな。それに、あいつらのこともあるし勝率は低い。
それでもやらなければ……アリスを保護してもらう事は出来ない。
やれやれ……今日は命を賭けることが多いな、本当に。
「ガゥ」
アリスを背中から下ろし怪我しないように口に加える。そして立ち上がる。
魔力を練り上げ、地面に広く深く浸透させる。
魔力の消費率は回復して満タンだし、かなりの量を消費する事になるが問題ないだろう。
さて……やりますか。
「ガアァァァァァァァァァァァ!!」
両手を村の門に向け加えながら吼える。
その瞬間、掌や指先から糸のようなものが地面に突き刺さり木々を巻き込んで一つの柱が生まれる。
糸を十数本引きちぎり両手で掴み引き倒す。その瞬間、柱は地面から持ち上がり門に突っ込む。
「へ……よ、避けろぉ!?」
門を警備していた村人は驚きながら飛び退く。
柱は門に激突し門を力任せに破壊する。
……やはり、魔法を使うのは少しコツがいるな。魔力を糸と考えて使ってみたが、やはり魔法は性に合わない。面倒だとか、そう意味ではなく純粋に下準備が必要で戦闘だと罠としてしか使えない。……まぁ、カウンター戦法なら使えなくもないか。
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魔力消費率:三〇パーセント
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しかも、たった一回でこれか。やはり【硬化】や【硬拳】、【硬斬】と比べて圧倒的に魔力消費率が高いな。
「な、何だ!?」
「一体だれが……」
立ち上がった村人たちは武器を構えながら周りを警戒する。
いきなりの襲撃だからな、仕方ない。というか構えない方が頭おかしい。
「グルルルルルル……」
さて、準備は整った。行くか。
森の茂みから唸り声をあげながらゆっくりと歩き村人たちの目の前に悠然と現れる。
「なっ……!?熊ぁ!?」
「いや、あの熊は……ヤングメタルベアーだ!Dランクの魔物だ!」
「うぇえええええん、お母さ~ん!」
「いい!絶対に私の前に立たないで!」
驚く男、恐怖する女性、泣きわめく子供、守る母親。
柵の奥から聞こえる騒ぎを聞き付けた村人たちはの騒然とした状況を俺は静かに聞きながら村の橋に近づく。残っていた糸を引き柱を破壊する。
壊れた門から何人もの村人が出てくる。そして、その全員が剣や弓、槍で武装していた。
流石に、ミーティアのような魔法使いはいないか……いや、一人いるな。
見た目はガキだが耳が尖っている。前世の知識ならエルフと言われる人物だ。
「グルル」
アリスの身体を地面に置いて土のドームを作る。
そして、ニヤリと笑いながら指先から糸を出して橋を作りあげる。
ドームは流れ矢が来ないようにするため。橋は流石に木の橋は乗ったら落ちそうで怖い。この程度ならそこまで魔力を消費しない。
「射て!!」
弓から放たれた矢を土の壁で防ぎながら一歩ずつ前進する。
「グルアァァァァァァァァァァァァァ!!」
矢の勢いが弱まった瞬間四つん這いになり【咆哮】と共に全身を【硬化】して土の壁を粉砕する。
「なっ!?」
「全員!避けろォ!!」
よし、避けてくれた!
「ガアァァァァァァァァァァァ!!」
避けて開けられた道を通り一気に村の中に侵入する。
これで俺を脅威として認識してくれるだろう。そして、アリスも『化物に捕らわれながらも生きていた少女』として保護してくれるだろう。
それじゃあ、退散す
「【フレイムジャベリング】!」
「ガアッ!?」
土の魔法を発動しようと魔力を練り上げようとした瞬間、一気に肩に火の投擲槍が突き刺さる。
痛みで吠えながら真後ろに転げながら火を払い放たれた方を睨み付ける。
さっきのガキか。この痛み……肩が貫通しているな。出血がないのがせめてもの救いか。
「主ら、家の中から出るな。儂一人であやつを倒す。橋の外に置かれていた娘は儂の家に運ぶ」
「しかし村長、あの熊は」
「分かっておる。だが、お主らがでは足手まといにしかならん」
「しかし……!」
「儂の言うことが分からんか!」
「……分かりました」
何かガキとリーダー格が口論しているな。そして、最終的にガキの方が勝ったか。アリスも保護されたな。
リーダー格は村人に指示を出して村人たちを連れていき、村の広場で俺はガキと対峙する。
ステータスを見せろ。
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名称:タリス・メリースノー 種族:エルフ
Lv.二二
攻撃力:十八
防御力:一五
素早さ:二四
魔力:八〇〇
アクティブスキル:【火属性魔法】【水属性魔法】【風属性魔法】
パッシブスキル:【魔導】【魔法調合】【薬師】【村人の長】【魔導戦士】【魔力回復】
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なんという魔法偏重のステータス。アクティブスキルに関しては魔法オンリーかよ。魔力は高いし魔力の総量も多い上に魔力も自動で回復するであろうパッシブスキルも持ってる。
勝てねー。絶対に勝てねー。
それじゃあ、さっさと逃げるか。魔力以外のステータスはそこまで高くないし、逃げようと思えば逃げれるか。
「【アクマショット】」
タリスの魔法が発動した瞬間俺は横に飛び退く。
杖から超速の水の弾丸が放たれたギリギリのところで回避する。
な、何て速度だ。あんなの当たったら【硬化】しても防ぎきれない!
「ガアァァァ!!」
吼え地面から土の槍を何本も生み出して放つ。
タリスは予見していたかのように杖を振るい土の槍を破壊していく。
だが、その隙に!
「ガアッ!」
杖を振り切ったタイミングで土の針をタリスの足下から射出する。
タイミングは見計らった。確実に腹を穿てる!
「【ウィンドブロウ】」
風の塊を掌から放ちタリスは上空に上げられ回避する。
マジかよ……!そんな避け方ありかよ!?
「【ウィンドショット】」
「ガゥ!!」
空中から放たれる空気の散弾を土の散弾で弾く。
その瞬間一気に走り出す。
こんな怪物と戦ってられるか。さっさと森に戻らせてもらう!
「させぬわ!【フレイムバースト】!」
着地したタリスは杖から炎の奔流を放ち橋を渡っていた俺の身体を巻き込む。
熱い、熱い熱い熱い!【硬化】のタイミングが僅にでも遅れてたら確実に焼け死んでいた……!
だが、この流れに逆らわずに一気に進めば……逃げきれる!
【パッシブスキル:熱耐性を獲得しました】
【パッシブスキル:火属性魔法耐性を獲得しました】
よし、【転生者】のおかげだ二つのスキルを入手できた。これでさっさと逃げさせてもらう!
森と村の間を全身全霊全速力で駆け抜けて森の中に駆け込む。
森の中には炎がきていなかった。あのガキも山火事は困る、ということだろうか。だが……はぁ、疲れた。
茂みの中で地面に座り込んだ俺は重い身体を持ち上げて歩きだす。
火傷のせいで全身が痛い。歩くのも諦めてさっさと横になりたい。
だが、あのガキがいるんだ。討伐隊が編成されても可笑しくない以上少しでも森の奥に潜らないと……確実に殺られる。
いやだ。そんなの、絶対に嫌だ。
俺は意地でも生きてやる。この弱肉強食の世界で生きて生きて生きて、生き足掻くと決めてるんだ。