決着
「シイィィィィィィィィィア!!」
独特な呼吸と呼気、掛け声ともとれる声ととれる音を喉から振り絞りながらミンレイが接近する。
ゼロ距離から放たれる貫手をギリギリのところで二の腕で逸らす。
当たった腕の肉が抉られていやがる……!全身凶器とも言える以上、冒険者の得物や魔法以上に警戒が必要だな。
カウンターの拳を放つがミンレイの手で防がれ力業で真上に投げられる。真下にいるミンレイに向けて炎の球を放つ。ミンレイが後ろに跳ぶと同時に爆発し爆風でミンレイは大きく飛ばされる。
火の中を突っ込みミンレイに接近し踵を振り上げて勢いよく下ろす。
踵落としをミンレイは地面を転がって回避する。
不発した踵は地面に当たり地面が陥没し衝撃波が撒き散らされる。
衝撃波の中をミンレイは突貫し迫ると同時に拳を胸に叩き込んでくる。
「グッ……」
鋭い痛みに耐え、【スルーズ】で硬くした拳を打ち上げる。
「くっ……!」
カウンターの拳は顎を捉えミンレイは苦痛を洩らす。倒れながら放たれる蹴りが俺の頬を叩く。
腰の動きで威力を逸らし身体捌きで起き上がるミンレイに接近し掌底を放つ。ギリギリのところでミンレイは腕をクロスさせ防ぎ、後ろに跳んで距離をとる。
「シャッ!!」
短い呼気と共に腕を振るい風の刃を放つ。放たれた刃を空気の塊で防ぐ。
【風刃】か。遠当ての要領で使っているようだな。
再び接近し放たれるミンレイの拳を受け止め足を払い体勢を崩し大きく投げて地面に叩きつける。
「はあっ!!」
倒れながらミンレイの指先に石が装填されている事に気付き身を逸らす。それと同時に小石が弾かれる。
逸った際に崩れた体勢をミンレイは蹴り距離をとる。威力に耐え、俺は起き上がりミンレイを睨み付ける。
単純な技の精度なら向こうの方が上だ。小手先の技も躊躇いなく使うし一つひとつの動きに無駄がなくすぐに回避や距離を開ける動きに繋げれる。
ヒットアンドアウェイ、という訳でないが消極的に見えて堅実にダメージを与える戦い方をしている。
だが、力や耐久力はこっちの方が上だ。【エインヘリアル】の方は通じているしダメージも入っている。【硬化】や【強化】が発動しているようだがそれ以上のパワーで押し潰せる。
だが、相手もそれは重々承知している。それを覆す事ができる対策くらい立ててるだろう。
「さて、身体も温まってきたし……始めようか」
「ああ」
それに、これは肩慣らしだ。向こうも本気で来るだろう。
ミンレイが左足を半歩下げ、両手に拳を作り両腕をずらしつつ平行に構える。
「【霊拳一門】」
深く息を沈めたミンレイが言葉を呟く。
その瞬間、塞き止められた水が一気に流れるように少女の気配が、魔力の量が、流れが大きくなる。
【霊拳】というのは何だ。さっさと教えろ。
【霊拳:魔力を使った武術の一つ。
『風神龍ヴィザドーラ』が考案。
『霊峰』における武術の中でも最も強く使用者にとって危険な武術。
常時は魔力を塞き止め、戦闘時に解放することでより強大な力を生み出す。
暴走気味の魔力は相手の魔力を直接攻撃できる。そのため、肉体的な防御は一切通じない。
魔力が塞き止められる状態を長時間維持するため精神力が削られ、体調を崩しやすく病気にもなりやすい。
また、普段必要最低限の魔力しか流されていない道に膨大な魔力が流れるため肉体の負荷が甚大。
【一門】で五分、【二門】で三分、【三門】で一分、【四門】で三〇秒が限界。それ以上使えば肉体に後遺症が残り、最悪死に至る。
但し、これは人間基準であり【精霊種】【悪魔種】【吸血種】でも変わらない。だが、魔物、特にドラゴンはこれを無制限に、かつデメリット無しで使用可能。
人間の使用者の中で天寿を全うした人間は今まで一人もいない】
人間にとって命を捨てるのが基本の武術か。治療院に通っていたと言っていたがこれが原因か。
まあ、考案者が考案者だし、人間の耐久何て知った事ではないか。
身体から湯気が揺らめき、熱で地面が焼け足跡がこびりつきながら、ミンレイは笑う。
笑いながら先程より遥かに速い速度で肉薄する。
咄嗟に蹴りを振り下ろすが躱され放たれた拳が【スルーズ】を発動させた肩に直撃する。
「ぐうっ!?」
何て痛みだ……!魔力そのものにダメージを与えると聞いていたが、ここまで強力だとは予想外だ……!
咄嗟に虚空を蹴って上に跳び指を弾く。放たれた衝撃波をミンレイは魔力を宿した拳で弾く。
逸れた衝撃波で束ねられたミンレイの髪は弾け腰まである長髪が靡く。
踵を何度か地面に当てたかと思うと俺と同じく虚空を蹴り俺に接近してくる。
【マルチタスク】をフル稼働させ鈍化した世界で攻撃をギリギリのところで避ける。
防御貫通がある以上、回避は絶対に必要となってくる。魔力そのものにダメージを与える以上、魔力由来の防御は通じない。
「ちょこまかと……!」
「その拳に当たるのはかなりヤバいからな……正直、こっちもキツいんだよ」
【マルチタスク】のフル稼働のせいで頭の方が悲鳴を上げて意識が飛びそうになってやがる。
持って五分……いや、三分が限界か。これでも大きな見積りだから状況次第では時間が短くなるな。
風の球を蹴り、地面に落ちながら風の砲弾を放つ。ミンレイは何個か弾くが一発命中する。
「くっ……!」
「魔力を扱う武術にとって【魔力操作】は致命的に悪い」
何せ、魔法に使用した魔力を無理矢理捩じ込ませれる。自分の身体と合わない無理矢理捩じ込ませれればそれだけで負荷になる。【霊拳】の魔法版だ。
落ちた瓦礫から起き上がると同時に迫る蹴りを回避し雷の矢を真上から掃射する。
ミンレイは地面を蹴り距離をとって回避する。
「がっ!?」
それと同時に槍がミンレイの脇腹に直撃し壁に叩きつけられる。
冒険者の死体から適当な大きさの物を選んで【サルダルフォン】で異界に投げて雷の矢に気が逸れてる内に戻し、投げつける。【硬化】や【強化】も使ってないし、それなりに通るだろ。
「くっ……案外やるね」
槍を引き抜いて地面に転がしたミンレイは傷に手を当てる。すると傷がみるみるうちに癒えて塞がっていく。
【回復魔法】の類いか。まあ、魔力の流れが暴走気味らしいからそこまでの腕がある訳ではない。
だが、これで流れを変えれた。もう、【霊拳】の特徴は掴めたしミンレイが流れを掴むことは……ない。
軽くステップすると同時に瓦礫や空気を蹴り高速でミンレイに接近する。
「なっ!?」
三次元的な動きで近づく俺に驚きながらミンレイは跳び蹴りを回避し、それと同時に風の刃を放ってくる。
指先から魔力の糸を出して適当な瓦礫を引き寄せて防ぐと壊れた瓦礫から出てくるミンレイの拳を掌で弾き攻撃を逸らす。
魔力にダメージが入るが……まあ、まだ問題視する程度のものではない。これくらいならまだ何回かは受けれる。
そのまま手首を掴み風を纏った脚で蹴り上げる。
「がっ……!?」
上にあげられるミンレイに向け氷の剣を作り放つ。蹴り技で氷の剣を砕くミンレイに向けて水の散弾を放つ。
氷の剣で手一杯のミンレイは細かい水の散弾を回避しきれず左腕の肉の一部が消し飛ばされる。
「くうっ……!はあああ!」
痛みに耐えるミンレイは空気を蹴り俺の頭に踵を振り下ろす。直撃した瞬間、『土人形』の頭が弾ける。
生憎と、それはダミーだ。
「なっ!?」
偽物に刷りかわっていることに気づいたミンレイは地面を蹴る。
速いな、だが、もう既に遅い。
風による透明化を解除し鉄粉をミンレイの周りに散布する。
それと同時に『土人形』が爆ぜ、浮遊していた鉄粉に引火し爆発する。
乾燥、それに加え燃えやすい粉、そこに火の手があればそれだけで爆弾に変わる。所謂、粉塵爆破と言ったところか。
鉄粉?そんなの武器を魔法で分解して作った。
「はあっ……はあっ……!ごほっ!」
おや、生きていたか。流石にこの程度では死なないか。
腕から血を流し身体中に擦り傷や火傷の痕を付け、口から血を吐きながらミンレイはよろよろと立ち上がる。
起爆は魔力由来だがこの爆発は完全に火薬由来ではない。先程の槍と同じくダメージを与えれる。
「イージーだ、ミンレイ」
そのくらいじゃ、俺には届かない。
ミンレイに肉薄する軽く手を腹に当てて電気を流し気絶させる。
精霊のように何度殺しても甦る訳ではないし、身体が変化する訳ではない。こっちの方が遥かに戦い易い。
ミンレイを担ぎ上げ風を纏って透明になると土の壁を崩し外に出る。
さて……治療院に運ぶか。傷の手当てをしないといけないし……ついでに【回復魔法】をもう少し上手くなって貰おう。美人なのに脇腹に傷痕を残したまんま、何て俺には関係ないが、人間にとっては損失も良いところだろう。




