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拳士

「かかれぇ!!」


掛け声と共に取り囲んでいた冒険者たちが一斉に動き出す。


遅いな。その程度じゃ……俺を止めれない。


拳の一振りで冒険者を凪払い、地面に手をつくと瓦礫が杭となり周りの冒険者を串刺しにする。


立ち上がりながら振り下ろされる剣を拳で受けて弾く。一回転しながら拳で肉体を破壊し、【スルーズ】を発動させ魔力の糸で冒険者たちを切り裂く。


「くっ……!化物め……!」

「注意しろ、あの蜘蛛以上に強いぞ!」


何人もの冒険者が殺されるが直ぐ様奥から次々と冒険者たちがやってくる。


なるほど……範囲攻撃の手段が限られているミサにとってはこの状況は不利以外の何物でもない。

だが、【四元素魔法】等の範囲攻撃の手段が豊富な俺には良い状況だ。……かつては範囲攻撃の手段が殆んどなかった俺がここまで範囲攻撃の手段を持つなんて以外も良いところだ。


杭を戻して死体を地面に落とす。そして目に力を込める。


「「「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」」」


その瞬間、辺りにいた冒険者たちから絶叫が鳴り響く。


地面を悶える冒険者たちに他の冒険者たちが近づく。だが、ミイラ取りがミイラになるように悶える者が増えていく。


「く、来るな!!来ないでぇ!!」

「か、母さん!何で……!?」

「殺してくれ……!殺してくれぇ……!」


【神眼】は複数の目に由来するスキルが統合されて生み出されたスキル。その中に一部の魔物しか覚えれない【斑の目】というスキルがある。


このスキルは『全方位に目に由来のスキルを向ける事ができる』というもので通常なら俺の進化先の【白滅聖熊】や【崩天熊】、【ギカントベア】、【サウザンドベア】が持つスキルだ。


……【ギカントベア】や【サウザンドベア】はどうやって進化するのか検討もつかない。恐らく【精霊種】や【悪魔種】にならなかった場合にのみ進化できる、と考えて良いかもしれない。


閑話休題、このスキルに【罪禍の虚眼】を合わせることで相手に自分のトラウマ、若しくは罪の記憶を徹底的に見続けさせている。範囲は狭いが良い具合に効いている。


というか、みんなトラウマ持ちすぎ……まあ、帝都の冒険者の多くが貴族が飽きた罪のない奴隷たちの処分もしているようだし、それが心の傷となっているな。


「近づくな!あの魔物は【悪魔種】だ、砲撃で目を解除させろ!」


ちっ……気づいたか。


冒険者たちの魔法が俺の肌に刺さる。【神眼】を解除して幻覚を解除し腕を振るう。地面を抉りながら吹き荒れる突風に地面に倒れる冒険者たちは上空に吹き飛ばされる。


地面に落ち潰れる音を聞きながら風の砲弾を拳で叩き落とし、腕をアンダースローで振るう。


【ロビンフッド】で伸びた間合いに入った冒険者たちの鎧を切り裂き血飛沫が舞う。


やはり、人間というのは魔物や思考が均一化されたネームレスとは違った強み、『作戦』がある。だからこそ、強い。


人間の強み、弱みは嫌という程知っている。数で攻めているように見せかけて奥の方ではどう対応するべきか見て指示を出しているブレーンがいる。こいつがいる以上俺のスキルを部分的にだが見抜いていく。


その上、それが弱点と気づいているためかなり守られているし、高ランクの冒険者が来ていないところから考えると確実に潰せる状況になったところで一斉に投入し押し潰す、と言ったところか。


作戦としては機能している。事実、こいつらにはまだ余裕があるし被弾する回数も増えている。これでは全員を倒すよりも速くスタミナの方が切れ、物量に押し潰される。


それまでに術者を倒す。それ以外に勝ち目はない!!


「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」


肺に貯めた空気を使い吼える。咆哮は【魔】によって衝撃となり冒険者たちを吹き飛ばす。


撒き散る冒険者たちに風の鞭で殴打し壁や地面に叩きつけ開いた道に向け一気に疾走する。

ぶっ潰れろ!!


術者に向け【スルーズ】と【エインヘリアル】を連結させた拳を放つ。全力の拳で衝撃が撒き散らされ建物が吹き飛ばされる。


……どうやら、高ランクの冒険者、いや人間というのは未知の塊のようだ。


剣の腹で拳を受け止められ返す刀で振り下ろされる剣を回避する。その瞬間、背後に鈍痛が走る。

衝撃で弾き飛ばされるが風を操り身体を浮かせ凪払われる剣をギリギリのところで回避する。


滞空している間に風の弾を放つ。だが二つの大楯によって防がれる。


地面に着地し土埃の中から現れる人間に向け拳を構える。


「ッ……予想していた以上にダメージが響いてる」


一人は稲穂のような黄金色の髪を持つヒューマンの青年。軽装だが重要なところを守る鎧を着込み白い剣を地面に刺している。


「タルミアにダメージを与えてる。かなり強い」

一人は無表情で青年の隣に立つ白髪のエルフの少女。風で白髪が靡き、黒いドレスと鎧が合体したような珍妙な服装に蛇が巻き付くような装飾がされた黒い杖を持っている。


「うーん……かなりの威力で殴ったのに骨に皹も入れられなかった。かなり防御力が高いよ、あれ」


一人は明るい笑顔が印象的な灰色髪の猫の獣人の少女。髪の毛は尻尾のように束ねられ、軽装の鎧が腹をさらけ出し両手には重厚で巨大で無骨な籠手を嵌めており拳を構えている。


「…………」


一人は重厚なフルプレートの鎧に身を包んだヒューマン(多分)。鎧の形状から女だと分かるが、それ以外は不明。だが身の丈以上もある大楯を二つも装備できるためかなりの膂力がある。


「……どんな感じ、タルミア」


一人は先ほどまで指揮をとっていた黒髪のエルフの少女。黒を基調に金色の華が描かれた着物を着ており手には無骨な鉄扇を持っている。


……どいつもこいつも、とんでもない化物だ。Aランク冒険者と戦った事があるが、それよりも数段階上だ。恐らく、Sランク。まともに殺りあえば負ける。


「うん、強い。タイマンだと結構厳しい。その上、範囲技多いし搦め手も使うし技の使い方も独特。連携は簡単に崩されてしまう。連携が崩されて危険が及ぶくらいならタイマンの方が勝機があるかな」

「なら、ウチが相手する」


そう言って獣人の少女がタルミアと呼ばれた剣士の前に立つ。


……どうやら、決まったようだな。


相手の行動が決まると俺は手を軽く引く。その瞬間、術者吐血し地面に倒れる。


術者と接続させていた魔力の糸を手繰り心臓を切り裂いた。【スルーズ】の糸を操り接続が完了する隙がなかったから出来なかったが、出来たのならやらない手はない。


「……どうやら、最初から手の中だったと言うことね」

「ミンレイ……」

「ええ、こっちの方が良いわよね。何せ、邪魔にならないもの。タルミアたちは他の冒険者を連れて逃げて。……本気でやる」


背後で崩れ落ちた術者を見下ろし、俺の方に敵意の眼差しを向ける。


「……わかった。総員、撤退!!このままだと巻き込まれるよ!」


着物の女の号令で冒険者たちは一斉に退散する。

着物の女はこの少女が勝つと疑ってない。だからこそ、出来るのだろう。


「それじゃあ、ちょっと待ってね」


そう言うと少女は巨大な籠手を外し装着していた鎧を外しタンクトップに短パンのような服にする。


「私はあんたに打撃だけ何てつまらない真似をしてほしくないの。だから他を下げさせた」

『……本当か?』

「ええ、本当よ。ウチは何でこうなったか何て関係ない。純粋に戦いを楽しみたいだけよ」

『……そうか』


なら、これも文句ないよな。


徐に手を上げ、合わせる。その瞬間瓦礫が浮かび上がりドーム状の壁となる。


「用心深いのね」

『生憎と迷惑をかけたくない連中がいるからな』


そう言って【人化】を発動し人の姿をとる。


……まさか、こっちの姿での戦いをご所望とはな。変わり者だな。


「あ、治療院の無愛想魔法師」

「……誰にも言うなよ?」

「分かってる。ウチはあんたの正体何て興味もない。それに、あそこの治療院にはよく通ってたから恩もある。何より」


少女は足を地面に力強く踏み込む。


振動で辺りの瓦礫が揺れ、崩れかかった建物が崩れる。


「戦いだもの、相手に敬意を払うのは当然でしょ?」

「……まあ、そいつの人生全否定することはしないな。だが、死んでも恨むなよ?」

「分かってる。死んでも恨みっこなし、そっちの方がさっぱりしてるもの」


そう言うと少女は拳と掌を合わせ満面の笑顔を向ける。


「ウチの名はミンレイ・ハク。東方の大国にして『秘境』が一つ『霊峰』出身の拳士。いざ、尋常に勝負!」


名乗るのなら、名乗らないのは無作法か。少なくとも、ミンレイのルールに従おう。


「俺はエリラル。大熊。潰してやるよ、絶対にな」


それにしても……『霊峰』って国名だったのか。てっきり山の名前かと思ってた。




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