一拳破壊
マリスが振るう刃を硬化させた身体で受け止める。
鮮血が飛び散るがそれでも反撃する事はない。
まだだ。まだ反撃するタイミングではない。確実に当てれる瞬間を狙わないと反撃の意味がない。
「はああ!!」
大振りの袈裟斬りの剣筋に合わせて皮を【硬化】させ薄皮一枚だけを切らせる。
更に続く攻撃もピンポイントに【硬化】させる。
その次も、その次も、その次も。全てを【硬化】で最小限のダメージに抑える。
攻撃があまりにも読みやすい。だから、全身を【硬化】させなくても剣筋に合わせて【硬化】させれば魔力の消費率も低く抑えれる。
==========
=====
魔力消費率:三四
=====
==========
これにも反応するのかよ……。だが、余裕が出てきたしちょうど良いタイミングか。
それにしても……予想していた以上に魔力の消費率が少ないな。進化したから魔力の量が多くなったのだろうか。
まぁ、【硬化】自体がそこまで魔力を消費しない部類のスキルだったと言うのもありそうだが。それを検証するのは後にしよう。
「どうなってやがる……!」
マリスの顔から既に余裕は消え、剣の振りも遅くなってくる。
【強化】は発動しているだろうが、靄の密度が低い。恐らく、【強化】は魔力を消費するタイプのスキルで、消費していき魔力が枯渇しかけているのだろう。
魔力配分を考えろ……て言っても、俺はステータスが見れるから配分を考えれるだけだったな。
「ま、マリス。大丈夫?」
「大丈夫……だ!」
ミーティアの呼びかけに苦しそうに剣を振りながら答える。
それを見ながら俺は無慈悲に口角を上げる。
さて、そろそろ反撃といくか。
「ちっ……!」
突きを身をよじり腹を掠らせる。
前のめり体勢が崩れた瞬間よじりを戻す。それとと同時に掌の肉球を【硬化】させ顔を押す。
「なっ!?」
体勢崩したところに身体が不自然な方向にねじまがりそのまま背中から地面に倒れる。
起き上がる間は与えずに軽く蹴りを入れる。
「ゴホッ!?」
腹を蹴られマリスの身体は何度もバウンドする。
だが、それでもマリスは立ち上がる。
剣を杖の代わりにしているし、足もガタガタに震えている。額には大粒の汗が滝のように流れ落ち呼吸も荒い。
やはり、あれだけの動きをすれば体力の限界に達しているだろう。
「グルル……」
「バケモノがぁ……!!」
だが、それでも俺には関係ない。
マリスが睨み付けてくるが意に返さずに近づく。
熊は体力に優れている。少なくとも、人間よりは。
長期戦に持ち込まれた時点でこいつらの敗北は確約していた。何せ、全力で戦えば戦う程種族的な能力の差が明確になっていくのだから。
種族の差とは理不尽だとは思うが……人間には鋭い牙も爪もない代わりに知恵があり、物作りに適した手がある。俺からしたらそっちの方が羨ましいよ。
「させない!【アクアジャベリング】!」
マリスの前に立ち悲壮な表情をしたミーティアが杖を向ける。
その瞬間、水の投擲槍が俺に向かって飛来する。
さっきの魔法か。もう、無効化の仕方は判明しているんだ。
投擲槍の軌道に左手の【硬拳】の手の甲を合わせ触れて力を籠める。たったそれだけで魔法は霧散する。
「えっ……?」
あまりにもあっさり防がれて呆然とするミーティアを俺の間合いに入れる。
あの魔法は貫通力がある反面効果範囲が狭く、その上速度も目で追えないほどの速さではないから軌道も読みやすい。
それなら高い硬度を持つ【硬拳】を合わせれば防げる。……まぁ、骨に皹が入っただろうが、そこは問題ではない。【自然治癒】で数時間もすれば治るだろう。
「グルルルルルル……」
「ミーティア!!」
【硬拳】を振り上げて振り下ろした瞬間ミーティアを後ろに押してマリスが出てくる。
マリスの胸に触れた瞬間【放出】を発動させる。
「ガッ―――」
痛みに驚くような声が、マリスの口から漏れる。
そして、それがマリス最後の言葉それとなった。
束ねていたダメージを【放出】した瞬間、辺りに凄まじい衝撃波が真っ直ぐ放たれる。
ゼロ距離で受けたマリスの身体はベキバキボキバキッ!!と凄まじい音を立てて吹き飛ばされ川岸の木に直撃し木をへし折る。
地面に落ちたマリスの身体は全身の骨が折れ筋肉が断裂し中身を全て水に変えたような無惨な死体になった。
「ボア?」
我に返った俺はとてつもなく混乱する。
いやいやいや!ここまでの威力だとは思ってもいなかったんだが!?てか、威力が頭おかしいだろ!?
まさか【忍耐】か?あれの特性も【放出】の中に組み込まれてとんでもない威力になっているのか?いくらオンオフできるとは言えチートクラスじゃねぇか!
とりあえず、【忍耐】は格上以外には使わないようにしよう。格下にやれば被害がとんでもない事になる。いくらなんでも、無駄にあんな死体を大量生産したくない。
「えっ……マリス……?」
後ろに押され尻餅をついていたミーティアの目の前に立つ。
友の無惨な死に様に頭が理解が追い付かず呆然と死体を見ていた。
「いやあァァァァァァァァァァァァァ!!」
理解が追い付いた瞬間、ミーティアは絶叫した。
声を枯らすことも声帯がはち切れることも躊躇わない絶叫と凄まじい量の涙が地面を濡らす。
それを俺は冷酷な瞳で見下ろしながら【硬拳】を横に薙ぐ。ゴキッと音が鳴りミーティアの首が曲がってはならない方向に曲がった。
……何故、誰かを思う心をアリスに向けれなかったのか。本当に気になるが……いいや、それを伝える手段はないから尋ねれないか。
それにしても……やはり、か。蛇を殴り殺すのと人間を殴り殺す。どっちも手の感覚は変わらなかった。もしかしたら、人間を殺したときには躊躇いを覚えるかも……そんな期待があった。だが、結果は何も感じなかった。
考えてみれば当然か。俺は熊、それ以上でもそれ以下でもないか。
【Lv.一からLv.八になりました】
無慈悲に現れた画面の情報を読み画面を消すと四つん這いになってアリスの方に向かう。
うん、死んでない。俺よりも高い防御力を頼らせてもらったが……今までの地獄だったであろう生活がアリスを生かす事になるとはな。皮肉なものだ。
さて……とりあえず村に運ぶか。村に運べばどうにかなるかもしれないしな。
アリスの服を軽く噛んで上に持ち上げて背中に乗せると落とさないように注意しながら走り始める。
日も頂上を過ぎた。夜は夜行性の魔物が活発に活動するしさっさと行かないとな。夜はいくらなんでも守りきれない。