5.そして迎えた朝
「ええーっ! 昨夜そんなことがあったのー!?」
朝、食事を準備してくれている母ダリアに怪物騒ぎの話をすると、物凄く驚いていた。
夜に騒ぎに気づき目覚めたところから、怪物が村を襲っていたこと、そしてその怪物をシュヴェーアが倒してくれたこと。ダリアが知らない一部始終を、私は包み隠さず話した。
「それは驚きねー、全然気づかなかったわ」
ダリアはスープを温めながらそんなことを言う。
もっとも、私からすればそれは今初めて知ったことではないけれど。
「知ってる。母さんはよく寝てたわ」
「もう! そういう時は起こしてくれて良かったのに!」
それにしても、シュヴェーアはいつになったら起きてくるのだろう。あの交戦の後、家に帰ってそれからまたすぐに寝たはずなのだが、彼はまだ眠り続けている。
「そういえば、今日はお店、営業日だったわよね? 母さん」
「えぇ」
「店番手伝うわ」
「あら! セリナったら、優しいのね!」
そんな風に言葉を交わしながら、ふと思う時がある。
私とダリアの話し方はかなり似ている、と。
なぜこんなに似たのかはよく分からない。ただ、気づいたら今のようになっていたのだ。家庭環境だろうか。とはいえ、姉はこんな感じではなかった。とすれば、単純に「家庭環境のせい」とも言いきれないかもしれない。
朝食が出来上がった頃、その匂いにつられてか、シュヴェーアが起きてきた。
片手の甲で目を擦っている彼はまだ眠そうだ。
「あ、おはようございます!」
「……おはよう」
私が挨拶すると、彼も小さな声で挨拶を返してくれた。
ちょうどそのタイミングで、ダリアが「朝ご飯、できてますよ」と告げる。すると、それまでは非常に眠そうだったシュヴェーアの顔つきが一変。彼は瞳を輝かせた。
「本当か……!」
シュヴェーアは相変わらず食べ物には弱かった。
その後、私とシュヴェーアは並んでダリアが作ってくれた朝ご飯を食べることとなる。
今日のメニューは、パンと野菜のスープ。パンは先日シュヴェーアに与えた安いものとは違って、私たちが日頃食している四角いもの。縁についた茶色い部分が香ばしくて地味に美味しいパン。そして、スープには村の畑で採れた野菜を刻んだものが入っている。塩がメインのシンプルな味付けだが、少々辛味のある茶葉を使用することで味に僅かな刺激が生まれていた。
シュヴェーアの果てしない食欲は今日も健在。彼は恐るべき勢いで朝食を平らげると、二回三回お代わりまでしていた。
「じゃあそろそろ、開店準備をしておくわねー」
私たちが朝食を終えるか否かの微妙なタイミングで、ダリアは開店のための支度を始める。
まずは服を着替え、接客用のエプロンをつけて、私と同じ茶色の髪を後頭部で一つのお団子にまとめる。それから、『茶葉専門店・カローリア』とデザインされた文字で描かれた木製の看板を、店の前まで運んでゆく。その看板が開店中の合図なのだ。
「……あれは、何をしている?」
そそくさと開店準備をするダリアを不思議そうな目で見ながら、シュヴェーアが尋ねてきた。
「お店の営業を始めるための準備ですよ」
「……何か店を、しているのか」
「はい。うちは昔から茶葉専門店をしているんです」
自慢するわけではないが、カローリア家が営む茶葉専門店は五十年以上の歴史がある。そこまで長くない、と言われればそれまでだが、生活に必要不可欠な品を売るのではない店にしては歴史が長い方だ。それに、そこそこな数の顧客を常連として持っている。それに、人気が噂となり、旅行者が買っていってくれることだってあった。
ちなみに、姉の結婚相手の商家は、うちの店に遠方で作られた品物を売ってくれている家でもある。
「ほう……」
そんな風に話しているうちに、準備は終わったみたいだ。
開店の時間である。
「……それなら、生活には困るまい。なのに……結婚する、つもりだったのか……?」
「え!?」
「……何か、おかしなことを……言ったか」
唐突に結婚の話を持ち出され、私は思わず大きな声を発してしまった。それを聞いたシュヴェーアは、困惑したような顔つきになっている。
「あ、すみません。つい……」
「……問題、は、なかったか」
「はい大丈夫です」
急に結婚の話が出てきたから驚いただけである。
「……そうか」
少し空けて、シュヴェーアは続ける。
「それと……普通に話してもらって構わん」
「え?」
「……丁寧な話し方をする必要はない」
と言われても、すぐに丁寧でない話し方をするよう変えることは簡単ではない。習慣というものがあるから。
「あ、はい。分かりました。努力します」
取り敢えず、努力だけはしてみよう。そんな風に考えていた時。
「……肉を、取ってくる」
シュヴェーアが突如立ち上がったのでどうしたのかと思ったら、そんなことを言い出した。理解が追いつかず、私はただ首を傾げることしかできない。
「どこかへ行かれるんですか?」
「山」
即答するシュヴェーア。
「え。や、山……?」
「そうだ」
これまた独創的なことを言い出したものだ。狩り、なんて、平凡な暮らしをしてきた私にはまったくもって理解できない。いや、もちろん、狩りという言葉自体は知っているし意味も分かるのだが。ただ、あまりに馴染みがなくて。
「……セリナの分も、取ってくる」
シュヴェーアは少し上へ視線を向けながら決意したように述べる。
「は、はぁ……。ありがとうございます」
最終的に、私は、一応お礼を言っておくことしかできなかった。