7
眼目かなめは、ファンディスクでルート解放されたサポートキャラだ。百目鬼の家系、という設定がある。その力でいろいろとヒロインをサポートしてくれる頼もしいキャラだった。
一度懐に入れた相手に対して人懐こくて可愛い枠ではあるのだが、如何せん言葉が若干鋭い。それもショタ系ボイスを得意としている中の人のお声のおかげで鋭さは半減しているのだけれど、初対面ですぱっと言葉のナイフで切られるのはなかなか衝撃である。
彼の家系のルーツであるという百目鬼は文字通り百の目をもつ鬼、なのだが、あたり姫では名前の語感から「見ることに特化した」という特殊設定を付けられていたりする。
彼の場合は未来視、過去視、透視と、物事を「視る」ということに大変長けていて、ヒロインの危機を垣間見ては先んじてヒントや情報を与え、ヒロインを遠いところから守ってくれていたひとだ。ただ、彼には祓う力がない。故にできる限りのことをしてヒロインをバックアップしてくれていた。
「……入学式で、生徒代表の挨拶をしてた……してましたよね?」
知っている理由のひとつをあげて、彼を見上げる。
成績優秀な彼は、入試でトップの成績をぽんと出して入学式の挨拶をしていた。だから知っている、と説明すれば、彼は納得したというように頷いた。
「ああうん、そうだよ。それで、渡り廊下を調べてた危機管理能力皆無の君は?」
「……小山悠、です」
この人結構ずけずけと言うな、と思うが、それが彼だと私は知っている。
視えすぎる目を持つ故に、幼少期に色々とあったらしいのだ。それはファンディスクでほんの少しだけ語られた。
「小山さんね。君、渡り廊下の怪異を調べてたみたいだけど」
誤魔化そうかと一瞬考えたが、そもそも画面を閉じる時に彼は恐らく私の入力した「渡り廊下 声 柊希学園」という検索ワードも見ているはずなので、無意味かなと素直に頷いた。
彼はぎゅっと眉をひそめた顔になり、重々しくため息を吐く。
「それは死者も出ている怪異だ。調べるのはそこまでにしてやめときなよ。君くらいの生徒ならいくらでも殺せるんだから」
眼目かなめに調べるのをやめろ、と再三言われてしまえば、それ以上意地を張ることも出来なければ、強行することもできない。
あたり姫攻略において、視える目を持つ彼の助言に背くことはイコールで死に直結である。基本的に彼の言うことは信頼出来る。
彼のルートで、どうしてそこまでヒロインを助けるのか、と少しだけ語られていたのだけれど。
彼はかつて自分の言葉足らずな説明のせいで、救えるはずだった人を死なせてしまった、と言っていた。怪異に呑まれる未来が見えていたのに、それをうまく説明出来なくて不信感を買い、結果的にその人を死なせてしまったのだと。
だから怪異に異様に巻き込まれる未来が見えてしまったヒロインに対して、なんと言われようが助言をすることをやめなかったのだと少しだけ寂しそうに笑って話してくれた。
このずけずけと言う言葉が、救えなかったという生徒が眼目さんを遠ざけた理由の一つだと資料集にもあった。本人は無自覚らしいけど。
でも私は彼を一方的に知っていて、信頼できる人であることも知っている。
「……わかりました」
「なんで調べてたかとか、聞かないけど。怪異なんて興味本位で首を突っ込むものじゃないよ」
調べることも出来なくなってしまったので、本格的に私が百鬼先輩に出来ることが無くなった。……まあモブだし、分かっていたことではあるけれど。
眼目さんは私の返答に良しと頷いて、じゃあねとサラリと帰っていった。
もしかして、私関連で何かが視えたのだろうか。それか渡り廊下関連で。それなら第一図書室なんて広い場所で一直線に私のところに来た理由もうなずける。
(ていうか調べるのもアウトとか怪異さんつよすぎでは)
昼休みはまだ残っている。
調べ物してもいいけど、怪異は調べたらアウト。渡り廊下はこの第一図書室から近い場所にはあるが、現場なんて怖くていけない。そしてここの本は難しくて私には読めない。
パソコンをシャットダウンして立ち上がる。
とりあえず、教室に戻ろうかな。まだ返せていない絵本を読んでてもいいのだし。
そうして図書室から出た私は、すぐ目の前に現れた渡り廊下に首を傾げることになる。
「こっちよ」
知らない声が私を呼んだ。