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 百鬼先輩と別れて家に帰り、翌日に先輩に呼び出されて十字路に連れてこられました。

 百鬼先輩に手を引かれるままに歩いていけば、ふと気づいた時には辺りには誰もいなかった。


「樒」


 十字路の片隅へと迷いなく歩いていく百鬼先輩は、まるで当たり前のように呼んだ。


「いらっしゃい。きみも、どうもねぇ」


 いらっしゃいと百鬼先輩に向けて、そうして後半は私に向けて。紙袋を被った樒さんが、からころと下駄を鳴らして登場した。急に出てきたように思うけど、もう驚かないぞ。


「きみにぴったりの商品があってねぇ。連れてきてもらったんですよ」


 そう言って、樒さんは何か……なんだろうこれ、よくわからない物を百鬼先輩へと向かって差し出した。

 手のひらサイズの不思議な形の物体、それから何か敷物のようなもの、としか私には分からない。

 先輩は私の手は繋いだままに、片手で差し出された物を受け取っている。


「……これ、死返玉(まかるがえしのたま)と……もしかして品物之比礼(くさぐさのもののひれ)? 驚いた、十種神宝(とくさのかんだから)まで取り扱ってるのか」

「よく出来たレプリカですけどねぇ。でもレプリカといえど効果はあるものをお持ちしましたので、この子にお使いになると良いかと思いまして」


 十種神宝、知ってる、それ日本神話の草薙剣とか興津鏡の宝物をまとめた名前……!

 密かに驚いていた私を他所に、百鬼先輩と樒さんは何かを話し合っている。

 あたり姫に十種神宝が出てきた描写は、なかったはずだ。ゲームにはオリジナルアイテムはあっても現実にあるオカルトアイテムはほぼ出てこなかった。

 死返玉は聞いたことがある。そのまま名前の通りの効果を持つものだ。

 品物之比礼は初めて聞いた。そもそも私は有名どころの名前と、あたり姫とは別の日本神話をモチーフにした乙女ゲームに登場したものの名前しか知らない。


「……対価は?」

「結構なオオモノですから、そこそこの対価をいただく形になります。もちろんきみからも」


 話が私にも向いた。

 私のためのもの、ということだから、私が対価を払うのは当然なのだけれど。なぜか百鬼先輩が難色を示した。なぜ。払えるものであれば、私がはらいますけれども。

 こほん、と咳払いした樒さんが、これは真面目な取引ですから、と言った。


「ハルカからも?」

「ええ、そうした方が後々良いかと思いますよ、私はね」


 黙ってしまった百鬼先輩の後ろから、私はそっと先輩の手に渡されたものを見る。

 近くで見てもよくわかんないな、が感想としてまず出てきた。不思議な形の玉のようなものと、不思議な文様の布だ。 


「きみは……そうですねぇ……その髪と、それから記憶の一部を。きみからも同じように髪と記憶の一部を貰いましょうか」


 髪はいいとして、記憶の一部、とは。

 そもそもどうやって、そして何の記憶を。

 混乱した私がそれらを問う前に、百鬼先輩の姿がゆらりと霞む。


「……それはこの子を……どんなものであれ損なうと……そういうことかな、樒」


 俺がどれほど、と続いた先輩の声にかぶさるように、樒さんが「待った待った、違いますよ、ええもちろんきみがどれほどの執着でもってこの子を囲っているか存じておりますとも。まずは私の話を聞いてください」と先輩の額を指先でとんと突いた。


「……内容によっては、俺は別の対価を要求するよ」


 ぞろろ、と伸びた髪がゆらゆらと揺れている。

 百鬼先輩の姿が、瞬きの間に怪異としての姿に変わっている。


「良いですよ。対価は釣り合ってないといけませんから、別のものにしたところできっと彼女は何かを損なうはずです」


 それよりは記憶の方がいいだろう、というような声音だった。

 多分私の話なのだけれど、全く話についていけない。話に入るまえに別の話が始まってしまった。


「まず、私が貰いたいのはきみたちが今まで出会った怪異の記憶です。これは私が貰ったところで、彼女のなかから消えるという訳では無く、私に共有する、と思っていただくのがよろしいかと思いますねぇ」

「……なるほど?」


 相槌を打ったが、よくわからない。共有する、というのは、どういうふうにするのだろう。


「ええと、きみたちに分かりやすくとなると、そうですねぇ……。記憶をコピペして私が貰う、という感じです」

「コピペ」

「はい。ですからきみたちから記憶は消えないし、正確な記憶を私は得られる。これだけでは弱いので、ほんの少しだけ髪の毛をいただきたい」


 コピペ、なるほど、なんとなくわかった。どうやるのかは樒さんに任せて良いのだろうから、私としては全然問題ない対価だ。髪だって、また伸ばせば良いのだし。


「……髪は何に使う?」

「中から魔力を拝借して私のおやつになる予定です」

「悪用はしないと?」

「もちろん。契約書をご用意しましょうか」


 それなら、と先輩が頷いた。

 契約成立ですね、と言った樒さんの手に、契約書であろう紙とペンがいつの間にか用意されている。


「さァさ、ここに名前を。ちゃんと隅々まで読まなきゃダメですからね」


 難しい言い回しで書かれたそれを必死に読むと、百鬼先輩が回りくどく書かれた内容のあらましを教えてくれた。すみません、前世込みでこういうのが苦手で……。


「受け取りました。では髪と記憶を貰いましょう。まずはきみから」


 私へと向き直った樒さんが目を閉じるよう促すので、ちらりと百鬼先輩を見上げて、先輩が軽く頷いたのを見てから目を閉じる。

 数秒、不思議な言語でなにか喋っている樒さんの声を聞きながら目を閉じていたら、ぱちんと音が鳴った。


「目を開けても大丈夫ですよ……ああ、凄いなァ、これは中々にお目にかかれない」


 ちょっと怖いような声音で樒さんが言った。なにが凄かったんですか。怖いんですけど、なにが中々お目にかかれないやつなんですか。

 樒さんがすっと手を私に伸ばす。

 シャキ、と音がしたと思ったら、髪がひと房ほど切れた。


「はい、確かに。きみからの対価はいただきました」


 そうして、私の頭を軽く撫でる。なにごとかと思ったら、どうやら髪を整えてくれたらしい。


「はい次はきみ」


 どうぞ、と目を閉じた百鬼先輩の額あたりに指先を伸ばした樒さんが、私の時と同じようになにか呪文のようなものを口ずさむ。


「ああ、姿はそのままで」

「なるほど、俺の髪はこっちか」

「こちらも私のおやつですから、心配しないでくださいねぇ」


 シャキンと音が鳴って、怪異の姿のままの百鬼先輩の髪が、ひと房樒さんの手に握られた。

今のUIめちゃくちゃやりにくいですね……?

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