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46:花火大会

いつも短いんですけど今回輪をかけて少し短めです。

 百鬼先輩の歌ったバラードで涙腺を崩壊させた私、ずっと泣いてしまっていたため推しの目の前で自分が歌うことは回避できたのですが、花火大会は浴衣参戦することが決定していました。


「そんなに泣かなくても……」

「ご、ごめ……ひっく、うう、涙止まん、ない……」


 こんなにも涙が止まらないとは自分でも思わず、隣に座った百鬼先輩が笑っているのにも何故か泣けてしまって、自分でもドン引きだったのだけれど。

 呆れ顔というか苦笑したカナリアに宥められつつ、あまりにもうつくしすぎる歌声にやられていた私は、百鬼先輩の言うことを完全肯定するbotと化していたのだ。

 というか百鬼先輩、歌ってくださった曲がズルすぎる。孤独の中でどうか誰かに届いてくれと祈る歌……そんなのイメソン待ったなしじゃないか……解釈がド一致ですありがとうございます涙が止まらない。


「大丈夫?」

「はい……ぐす、めちゃくちゃ、すてき、でした……!」

「ふふ、ありがと。そんなに俺の歌は良かった?」

「とっても! とっても、すてき、でした……! 音源欲しいくらいで……っ、ひっ、うう……」

「ハルカが欲しいんだったら、今度録音しようか」

「ぜひ、欲しいです……!」

「その代わりきみの歌の音源が欲しいな」

「百鬼先輩が望むのでしたらそんなのいくらでも……!」


 私の声は半分くらい濁点付きで濁って聞き取りづらかっただろうに、受け答えしてくださっている百鬼先輩はめちゃくちゃご機嫌だった。

 さりげに歌うことも決定してしまった気がするのだけど、百鬼先輩に望まれたのなら仕方ない。いやそんなもの欲しがる先輩はどうしたって話ではあるんですけども。録音してお渡しするなら、目の前で歌うよりまだマシというもの。

 例え後から羞恥に震えることになろうとも、百鬼先輩が欲しがったなら、そしてそれが私に用意できるものなら用意したいではないか。


「そういえば、そろそろ花火大会だね。六時に家に迎えに行くからね。ハルカはまた浴衣着てくれるの?」

「はい……あ、えっ?」

「あ、私花火大会は家族で行くことになってるんで、悠と二人で行ってくださーい」


 うんうん頷きながら答えていたら、いつの間にか花火大会に百鬼先輩と二人で行くことになっていた。先んじて流れるようにカナリアはこちらには不参加だと宣言をしてくれたので、誘うことも出来ない。

 え、え、と言葉を探しているうちに、待ち合わせ時間も二人で行くことも決定していた。ちなみにカナリア以外に仲のいい友達は居ないので、他に誘える子は皆無だ。

 私にだけ見えるように綺麗なサムズアップをしたカナリアが、ほら誘われたでしょ、と言わんばかりの笑顔でそっと向かいのソファに移る。

 驚きと困惑で涙は止まったが、にこにこと「お守りも忘れたらダメだよ。この髪飾りも、ちゃんとつけてきてね」と数日後にある花火大会の予定を立てている百鬼先輩に、嫌とは絶対に言えない。

 実際嫌ではないのだ。さっきカナリアが言った「キス未遂ありの恋人デートイベ」という言葉が頭にひっかかって離れないだけで。

 いやいやありえないそれはない、キス未遂とかないないない、と考えながら、どうしても意識してしまっていけない。

 首を振ると、拭いきれていなかった涙が落ちた。

 花火大会は花火を見るのであってキス未遂だのなんだのはあたり姫の攻略対象の話だ。私には関係ない。そう、ないったらない。百鬼先輩に失礼だぞ私。


「ハルカ?」

「はっ、いえ、はい、六時ですねわかりました、準備、しておきます。あっ百鬼先輩も浴衣……」


 ひとまず、六時に迎えに来てくれるということはわかった。しかし浴衣は直視できる気がしない……でも目に焼き付けておきたい気持ちはある。だって推しの浴衣である。四季折々の特別な衣装は全て見たい。


「ああ、うん。浴衣で行くけど……悠、次は目を逸らさないでね」


 にこり、と。笑っていたけど、百鬼先輩の目はちっとも笑っているように見えなかった。もしかして祭りで私があからさまに視線を逸らしていたの、怒ってらっしゃるのでは。

 確かに大変失礼であった。反省である。先輩が逸らすなと言うのなら私の答えは一つだ。


「逸らしません逸らさないように頑張ります」


 逸らしたくなる気はするし直視できる気は正直しないけれど、逸らしたら駄目な気がするので頑張るしかない。

 当日の私、死ぬ気で頑張って前回ほとんど見ることの出来なかった浴衣姿の推しを目に焼き付けてきて欲しい。


「ふふ……うん、泣き止んだみたいだし、次は何歌おうか」

「ナキリ先輩ちょっと加減してあげてください」


 にまにましたカナリアが百鬼先輩と話しているのを聞きながら、私は泣きすぎて腫れぼったい目を今更ながらにハンカチで押さえたのだった。

  

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