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百鬼先輩が合流するためにカナリアがメッセージを送る。畳み掛ける感じになってあれかな、と思ったので私は送らないでおこうと思ったのだけれど、カナリアから「畳み掛けとこ!」と笑顔で言われて一応送る。
「ナキリ先輩にも言うけど、私も悠に付くのは決定だからね。一人で出歩かないようにね」
「うん……ごめんね、助かる……」
カナリアが前世の話を持ち出したのは、まず私に害意はないのだと分かってもらうため。そうして、私に危険があるかもしれないのだと教えるためだったらしい。
私も知らない本の情報から、カナリアは私を怪異から救いたいと思ってくれていたらしかった。百鬼先輩最推しの私とは違ってカナリアは鬼塚さん推しだったのだけれど、それでもやっぱり百鬼先輩を救いたいと思っていたらしいのだ。確かにあのゲームの彼の終わりを見てしまえば、そうなるのも分かる。そもそもプレイヤーから「攻略できないバグ」とまで言われたひとだ。
私の怪異との相性の良さ(悪さ?)を見て、本気で一人では危ないと思っているのだとカナリアは言った。
「でも、本当に二年まで上がれば大丈夫なのかな」
物語の開始時期がそこなのだけれど、カナリア的にはゲーム開始まで生き残れればとりあえず第一関門クリア、らしい。
「多分本当はゲームクリア時期まで生き残るのが正解だと思うけど。でもとりあえずゲーム開始時期まで生き残れば、まずナキリ先輩の前提が変わるの」
百鬼先輩の前提が変わるというのは、多分本で語られていた、そして百鬼先輩がいつか教えてくれると言っていた理由なのだろう。私はそれをカナリアから聞いていないし、カナリアも百鬼先輩が教えてくれると言ったのなら私が教えるべきじゃないから、と口を噤んでいる。
「さっきも言ったけどさ。本の中でもね、悠はナキリ先輩と図書室で絵本について話してたんだよ。……どうも描写の仕方が気になる感じではあったんだけど」
後半は口の中で呟くみたいにして言ったカナリアは、うーん、と眉を寄せて「確証はないから言わないでおくけどね」と苦笑する。
「それもね、ナキリ先輩の前提のひとつだったから」
口ぶりからして、ゲームの百鬼先輩が救えない理由の一つに私が入っているっぽい。でも本に描かれている小山悠と、今の私にそう相違点というものもないらしくて、それも不思議だ。ええ……気になりますとも……本当に読めなかったのが悔しすぎる。
「私は金糸雀が居るから、一緒に巻き込まれても少しの助けにはなると思うからさ。あっでも花火大会はさすがに邪魔しないからね。ちゃんと二人で行ってよ?」
にっこりと笑ってそう言ってくれたカナリアだって、怪異が怖くないはずない。それでも私を助けたいと言ってくれている。そこまでする理由はきっとカナリアにしか分からないけど、拒否をして怪異に巻き込まれて死んだりしたら、きっと彼女は気にする。
というか待って、花火大会を百鬼先輩と行くと疑ってないみたいだけど待って。
「えっとまって、花火大会行く予定ない……」
そもそもここまできたら絶対怪異出てくると思うので誘うつもりもない。
「……うーん。まあ、私から言うべきはひとつなんだけど、多分ナキリ先輩に誘われるよ?」
「それはどうだろう……さすがに先輩もあんまり怪異に巻き込まれるのは疲れるんじゃ」
「ないない。それは絶対ない。もし誘われなかったら学校始まったら購買限定かぼちゃプリン奢ってあげる」
先輩が誘ってくださったら、……それはお断りの選択肢はないので行く一択なんですけども。というか断ろうとしたときの先輩の「そっか……」という耳の垂れたわんちゃんみたいな表情を見たら誰も断れないと思うの。
カナリアの確信に満ちたセリフ群に「ええ……?」と困惑するも、確かに今までの先輩なら誘ってくださるような気はする……。
「ま、まあ、誘われるかわかんないし、誘われたら行く一択なのですけども」
「花火大会、キス未遂あるし実質恋人デートイベだもんねぇ」
「待って!! さすがにそれは本当にないと思う!!」
確かに花火大会には攻略対象キャラ全員がキス未遂の甘ったるいスチルがあるイベントなのだけれども!!
それはこの花火大会が一途プレイしていれば好感度が高くて両片想いみたいな関係になるからでして!!
今の私、絶対に顔赤くなってると思う。
「悠、さすがにあの夏祭りであれだけイチャついててそれはない」
「イっ、イチャついて……!?」
「いやーイチャついてたでしょ。抱きしめておでこチューして二人きりの世界でさ。私ほんとあれ何見させられてんだろって思ってたよ? あっ、でもでも私いま泰悠推しだからどんどんイチャついてもらっていいよ~?」
「~~~!!」
タイハル……タイハルってなんだ……あっ泰悠!? 急に推しカプ扱いされている……!?
いやもう本当に待って、とはくはくと口を開閉して、出てこない言葉に唸っていると。
「あれ、まだ歌ってないんだね。ハルカが歌ってるかなって楽しみにしてたのに」
遠慮なく開けられたドアの向こうに、微笑みを称えて立っている私の推しがいた。




