42:鳴瀬カナリアという少女
永遠の夏祭りから抜けて、現実の夏祭りに戻ってきた私たちは、怖いのを誤魔化すみたいに出店を回った。
鳥居をくぐる時にお面が落ちたのは、あのお面が異界のもので、境界を越えられないからなんだそうだ。よく分からないけれど、こちらの世界に持ち込めないもので外れて正解のようだったので、気にしないことにした。
現実に戻っての夏祭りは、大変賑やかだった。むしろあちらの世界の夏祭りが異様に静かだったんだなと抜けられた今なら思う。
綿菓子も食べたし、りんご飴も買い直して、あとたこ焼きと焼きそばも食べたし、ポテトフライも食べた。食べ物ばっかりである。というか食べきれなさそうかなと思ったけれど先輩が半分くらい食べてくれたので、普段は二、三個くらいしか食べられないから調子に乗ってしまった。
しかし先輩よく食べる……食べ盛り男子高校生って感じでそれも推せる。
輪投げとか射的とかの出店も回ったのだけど、百発百中で的に当てていく百鬼先輩が格好良すぎたので夏祭り大変心臓に負荷がかかるイベントだなと思いました。
取りにくいようにされているであろう最新ゲーム機まで当てて、しかも何故か私にくれようとしたのでそれは食い気味で断った。
そのゲーム機は持ってるので先輩がお持ちください、あっ協力プレイとか興味あればやってみませんか、と大慌てで先輩に押し付けてしまった。先輩が「ハルカがそう言うならやってみようかな」とにこやかに仰って、それ私も持ってるというカナリアとも動物の街づくりゲームで互いの街に行き来する約束をしたの大収穫である。ぼっちでやってたゲームに、先輩のおかげで友達が出来たうえに先輩とも一緒にやる約束をしてしまった。先輩に貢ぐアイテムを今から作成しておこうと思う。
先輩は苦手なものがないのかしら。
そういえば、こちらに戻ってきてから樒さんを探してみたら、既に撤収したあとのようで、屋台すら無くなっていた。
カナリアの両親がお迎えに来るまで祭りを満喫し、私はといえばいつも通りに百鬼先輩が家まで送ってくれた。
永遠の夏祭りに引き込まれたことを除けば、大変楽しいお祭りだった。
そうして次の日。
百鬼先輩が迎えに来るのを玄関先で待っていると、黒のシャツにジーンズというシンプルな、それでいてスタイルの良さを際立たせる私服姿の先輩がやってきた。
ちなみに今日はカラオケでカナリアの話を聞き、話が終わったら先輩も合流してフリータイムカラオケの予定です。個室って秘密の話がしやすくていいよね、あと歌えるのもいいよね、とカナリアが言うのでカラオケになりました。
推しの歌声、いまからソワソワしてしまう。結構色々グッズやらなにやらを出していたけれど、キャラソンは出ていないゲームだったので、先輩の歌は初めて聞く。もちろん中の人の歌は聞いたことがあるけれど、百鬼泰成という人の歌は正真正銘初めてだ。中の人はとても歌が上手だったけれど、先輩はどんな歌を歌うんだろう。
そして私の下手ではないと思うけれど上手くもない歌を推しに聞かせねばならない事実に、すこし凹んでいる。下手くそと思われたら泣ける。いや、優しい先輩は思っていてもそんな事言わないとは思うのだけれど。
「ハルカ、これ」
ソワソワしていたら、先輩から何か手渡された。
ラッピングしてある片手サイズの小包だ。
「……? なんですか、これ」
「きみにあげる」
唐突な推しからのプレゼントに、なぜ、と思考が止まる。
誕生日ではないし、なにかの記念日でもない。そもそも先輩と私に記念日などないので、理由がわからない。
「本当はもっと早く渡せれば良かったんだけど、改良してたら遅くなっちゃって」
開けてみて、と仰るので素直にリボンを解くと、中には髪飾りが入っていた。
あれ、これ、前にどこかで見たデザインのような。……あ、樒さんに対価で渡したペンダントトップに似てる。
「あ、やっぱりわかるか。それ、もとは樒からなんだ」
なんでも、樒さん特製の魔よけ特化型の髪飾りなんだそうだ。あまりにも怪異に巻き込まれる私に、あの対価を元に作ってくれたんだそうで。
「そこに俺がきみを怪異から隠す力を上に乗せてみたんだ。月や暦を見てしっかりやったから、効果はちゃんと出ると思うよ。樒にも確認してあるから、安心して。でもそのせいで少し遅くなったんだけど……本当に、夏祭りの前に渡せていれば永遠の夏祭りに迷い込むなんてなかったかもしれないのに」
複雑な顔をしながら、私の手から髪飾りを取り上げた先輩は、私の髪に付けてくれる。先輩の言う隠す力というのは、前に学校で私にしてくれたやつだろう。
先輩、なんというか、私に対して本当に過保護ではないだろうか。
永遠の夏休みもそうだけれど、ほかの怪異に巻き込まれた時だって、それは言ってしまえば間が悪かっただけで、先輩のせいではないのに。どうしてそんなに自分が悪いみたいに言うのか、私にはわからない。
「二人でいるのに巻き込まれるなんて、あんなのわかんないじゃないですか。先輩がこれを作るのが遅くなったせいとか、絶対ないです」
自分の怪異の巻き込まれ具合を見れば、もしかしたら先輩に貰ったこの髪飾りがあったって永遠の夏祭りに迷い込んでる気もする。それは先輩が言う魔よけや隠す力というのを疑っている訳ではなく、この頻度なら有り得そうという予想だ。
「ありがとうございます、大切にします」
「しまい込んでたら意味が無いからね。ちゃんと毎日つけてね」
「はい」
流れるように頭を撫でていった手が、いつものように私の手を取る。もう手を繋いで移動するのが当たり前になってしまった気がする。それでも、私は推しと手を繋ぐというこの行為にまだ慣れてはいないので、いつも触れる瞬間には少し緊張してしまうのだけれど。
「カナリアとの話が終わったら、すぐ連絡します」
「うん、そうして」
なんでもないようなことを話しながら歩いて、約束の場所まで来ると、もうカナリアは来ていた。
薄い黄色のシフォンワンピース姿で、百鬼先輩といいカナリアといい、シンプルな服装なのにかっこいいし可愛い。素敵の二文字と少女漫画的な花が背景に散っているように見える。
自分の服装が薄手のシャツワンピに日焼け対策のストールを羽織っただけのもので、もう少しオシャレをするべきだったと後悔した。
「あっ、こっちこっち。おはよう悠」
「カナリア、おはよう」
百鬼先輩に変わるように私の手を取るカナリアは、にこにこと可愛い笑顔で行こうと私を誘った。
「ナキリ先輩、すぐ終わると思うので、近場で時間潰しててください」
「うん。じゃあ気をつけてね」
百鬼先輩は少し先にある本屋に行くようで、私とカナリアは手を繋いだままカラオケ店に入った。
ちなみに、私が外を出歩く時は手を繋ぐのが必須になりつつあって、手を離す選択肢は存在しない。しようとすれば百鬼先輩にもカナリアにも諭されるので、大人しく繋がれておくことにしている。
後からもう一人来ることを受付につたえ、角の部屋に二人で入る。
「じゃあ、悠。私の話を聞いてくれる?」
真面目な顔をしたカナリアは、信じなくてもいいから何も聞かずにとりあえず聞いてほしい、と話し始めた。




