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 高く澄んだ鈴の音が聞こえてきたら、早くその場所から逃げないといけないよ。そうしないと、帰れなくなってしまうからね。


 夏祭りに行く時に、この辺りの子供たちが必ず親に言われる言葉だ。子供に限らず、この時期ならニュースでも言われる。

 生還例の多い怪異であるし、一人でいると迷い込むという、この怪異に出会う要因も分かっている。だから夏祭りは二人以上で出かけることが(ボッチには辛い話だけど)推奨されているし、はぐれた子供を見かけたら保護するのが決まりとなっている。


 右手を見る。カナリアとしっかり繋がれている。

 そのまま視線をカナリアの顔まで持っていくと、彼女はどこか険しい顔をして辺りを見回していた。

 さっきまでりんご飴の屋台の前あたりにいたはずなのに、鳥居の前に戻っている。鳥居の、境内側に私たちは立っているのだ。


「か、カナリア、これ」

「分かってる、これ永遠の夏祭りだよね。……手を繋いでるのに、どうして」


 呟いて、カナリアはさっと携帯を取り出してなにか操作を始めた。それを見て、そうだお守りは、と私も手に持っていた巾着から取り出す。ちりちりと音を立てている根付に付いている石は、濃いめの灰色だった。


「それ」

「あの、貰ったお守りなんだけど……真っ黒になるとだめだからって言われてて」

「もともと白かったの?」

「ううん、白強めの灰色だった」


 カナリアが眉を寄せて、何か考えるような仕草を見せる。

 そうして、なにかに気づいたみたいに顔を上げると、わたしの手を引いて歩き出した。


「とりあえず、移動しよ。ここ、やばい気がする」


 正直、どうしてふたりでいるのに、と混乱していながらも、ゲームでも立ち止まっているのは危なかったことを思い出して、手を引かれるままについて行く。カナリアは隠れるようにして、鳥居の前から物陰へと移った。

 まず、この異界と化した祭り会場では、人ではないものや、帰れなくて異形と化した元々人間だった人達が祭りを楽しんでいる。

 人間であることがバレても問題は無いのだけれど、安全に攻略するためには、私たちは人間であることを隠すためのお面を手に入れなければならない。ゲームでは、この祭りの中で何か物と交換で手に入れられる狐のお面は攻略に必須なアイテムだった。


「……あのさ、悠」


 こそこそと、物陰に隠れながら、カナリアは声を潜めて私を呼ぶ。片手には携帯を持って何か操作をしつつ、ねえ、と私の携帯を指す。


「ナキリ先輩と繋がったりしない?」


 言われて、ハッとする。そうか、百鬼先輩と連絡が取れれば。

 こういう異界は何故かSNSが繋がることがあったはず、と携帯を見てみると、圏外だった。ダメもとでメッセージを送信してみるけれど、エラーが返ってくる。


「やっぱだめかぁ。ナキリ先輩こういうの強そうだから、ヒントとか電話ででもいいからもらえればいいのにって思ったんだけど」


 そう肩を落としたカナリアは、彼女の方もダメだったんだろう、携帯をしまった。

 そうして、しきりに辺りを見回している。

 なんだろう、カナリアはあまり怖がっているように見えない。私は少し震えてしまって、繋いだ手を離せないでいるけれど、彼女は取り乱した様子がない。内心は慌てているかもしれないし、怖がっているかもしれないけれど、私の目には冷静に見える。


「カナリア……」

「悠、大丈夫だよ。生還例多い怪異だし、絶対助かるって信じよ」


 私ににっこりと笑ってみせて、カナリアは励ましてくれた。

 もしかしたら、私が脅えているせいで彼女は弱音を吐けないのかもしれない。

 そうだ、私もしっかりしないと。この怪異がゲームのような謎解き形式なら、私も役立てるはずだ。ゲームではお役立ちアイテムを樒さんから買うけれど、ヒントをくれるアイテムのそれが無くても解ける可能性はある。


「あ」


 そこまで考えて、そういえば私はお守りを持っていた、と思い出した。夏祭りに来ることになって、このお守りがあるから万が一が起こってもきっと大丈夫だろうからと、ちゃんと持ってきている。


「悠、どうしたの?」

「まって、そうだ。わたし、お守りを持ってる」


 そうだ、これがあれば、百鬼先輩を呼べるのではないだろうか。先輩には迷惑かもしれないけれど、怪異に詳しい先輩がいてくれれば百人力だ。


「心に思い描いた人を呼べる、お守り……」

「──それ、もしかしてナキリ先輩呼べたりするの?」

「前に一度だけつかったときに、百鬼先輩は、ちゃんと来てくれた、よ……」


 あの十字路で樒さんから貰ったもの。ゲームにはなかったものだけど、ここに百鬼先輩が呼べたら。

 カナリアに、それなら呼んでみてほしい、と言われて頷く。

 手を離すのがまだ少し怖かったので、カナリアの手を握ったままで、四苦八苦しながら巾着を探る。普段は通学用の鞄につけているけれど、今日は財布にしまってきてある。

 手を離そうか、と控えめに問いかけてくれたカナリアに、ごめん怖いから繋いでてと情けないお願いをしつつ、財布から飾り紐のお守りを取り出す。


「……百鬼、先輩」


 声が震えてしまったのは、怖さが抜けてないから。来てくれなかったらどうしよう、という不安もある。

 不思議そうにしながら、けれど真剣に私を見ているカナリアは、何も言わずに私のしたいようにさせてくれている。

 大丈夫、きっと来てくれる。十字路の時だって来てくれた。それに百鬼先輩は樒さんと一緒にいたから、あの二人だから永遠の夏祭りの気配に、もしかしたら気付いてくれているかもしれない。

 百鬼先輩、と心で強く思い描いて。どうか、と繰り返し呼びかけた。

  

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