36
りんご飴、綿菓子、じゃがバター、と美味しそうなものに目移りしながら、縁日の屋台をのぞいていく。
「悠、何か食べる?」
「う、ん、甘い物食べたい、かなぁ……?」
輝かしい百鬼先輩を直視することが出来ず、どうしても隣にいるカナリアに話しかけてしまう私は、今絶賛どう説得したら手を繋ぐのをカナリアにして貰えるかを考え中です。
そもそも永遠の夏祭りは、一人でいるとか、はぐれたとか、そういった場合に迷い込む場所なので、誰かと一緒なら避けられる傾向にある怪異なのだ。
つまり私は、今回は百鬼先輩ではなくカナリアと繋いでいても良いのではないか、と思うのですが。
そして今の状況を見てほしい。
百鬼先輩と手を繋いでいて、にこにことこちらを見ている先輩とは別に隣にいる女の子と話している私……パッと見た感じだと手を繋いでいる彼氏(とても畏れ多いのですが兄妹と言うには似てなさすぎてここはそう見えるかもしれないという話として聞いてください)を見向きもせずに友達と話している女という、謎な組み合わせすぎない?
私の手、カナリアが繋いだ方が不自然ではなくなるのでは?
あっ説得の文面これでいけるかもしれない。
「あの、先輩」
「なぁに、ハルカ」
そうと決まれば進言を、と先輩の方を見て、一瞬でカナリアの方に視線を戻した。
柔らかな笑みをたたえ、裾の方にとんぼ柄をあしらった紺色の浴衣をうつくしく着こなした、輝かしい推しがいた。しかもなぜか最近よく見ることが増えた、柔らかな笑みを浮かべている。前までは同じように笑っていても、どこか線を引いているようだったのに、それを感じない後光が差しているかのような笑顔なのだ。
家に迎えに来てもらったときにも直視できず、今に至るまでずっとあまり見ていられなかった推しを、うっかりとノーガードで視界に入れてしまったのだ。話しかけておいて速攻で視線を逸らすという失礼すぎる態度を謝りたい気持ちなのだけれど、どうしてもかっこよくて見られない。これが浴衣の力だというのか、正直舐めてた。
「わっ、悠なにどうしたの」
「ちょっと……先輩が……眩しかったといいますか……」
ぱっと振り向いたせいかカナリアをびっくりさせてしまったのだけれど、心臓がそれどころではなかった。どくどくと早まった心臓を抑えるように胸元でぎゅっと拳を握っていると、なぜか先輩が私の方を覗き込むみたいにして屈んでくださる。
私多分今顔真っ赤だ。
「ああ、逆光だったのかな、ごめんね。それでどうしたの」
「ひ……」
あまりの輝かしさに、一瞬で言いたいことは吹っ飛んだ。頭が真っ白になって、言葉なんてもはや出てきそうにもない。
「ハルカ?」
「ご、ごめんなさい、あの、なんでもないです」
そう、と頷いて、先輩が私の手を引く。
多分カナリアには私の心境が察された様子で、隣にはニマニマと笑う美少女がいました。彼氏ではない事は全力で伝えてあるけれど、それはそれとして私が百鬼先輩を好きなことに彼女は気づいているっぽいのだ。
そんなに笑ってないで助けて欲しいのだけど!
「二人は何か食べたい?」
「うーん、私も悠に賛成で甘いの食べたい気分なんですけどー」
悠は、と二人に聞かれて、視線を屋台に移す。先輩見られなくてごめんなさい悪気はないんです、と内心謝りながら視線をうろうろさせていたら、奥まった場所に紙袋をかぶったひとが店番をしている屋台を見つけた。
あれ、もしかして、とじっと見ていると、結構な距離があるのに気付いたらしい店主が私に向かってひらひらと手を振る。
これ、夏祭りイベントの導入では……、と思わず握った手に力を込めてしまった。それに気付いたらしい先輩が私の視線を追ったのだろう、樒、と呟いたのが聞こえた。
「二人ともどうかした? いいお店あった?」
「うん、少し知り合いの店を見つけたから寄ってきていいかな。きみ、少しだけハルカと手を繋いでいてくれる?」
「よくわかんないけど、はーい」
私の手がカナリアとしっかり繋がれたのを見て、百鬼先輩は樒さんの方に歩いていく。
「悠、待ってる間になんか食べてよっか」
「……あっ、うん、そうだね」
何を話しに行ったんだろう、と先輩を見ていた私の手を引くカナリアに着いていく。多分、私とカナリアを連れていかなかったということは、聞かれたくない話、なのかな。先輩に憑いてる怪異の話なのかも。
「やっぱり王道でりんご飴か綿菓子かな」
「うん、私りんご飴食べたいかも」
それなら私たちは待っていればいい、と納得して、カナリアと連れ立って歩く。りんご飴ならさっきお店近くにあったよね、なんて話しながら歩いて。
そういえば今世で友達と夏祭りなんて初めてでは、と浮かれた私は、カナリアとりんご飴といちご飴ひとつずつ、ついでに百鬼先輩の分も買って、他はどうしようかなんて話しながら歩いていた。
しっかりと手を繋いで歩いているのは、怪異対策だったのに。ちゃんと手を繋いでいて、二人で歩いていたのに。
私たちは、りんご飴を買って戻る時、シャンシャンという鈴の音を聞いた──それは、永遠の夏祭りに出会った時に聞く、神の鈴の音だ。




