35:永遠の夏祭り
ところで、夏休みに起こるイベントに巻き込まれた話をしてもいいだろうか。
合宿、ではない。これは百鬼先輩と共にどうかと誘われたのだけれど、百鬼先輩が私の分も断った。拒否権のあるものらしく、犬飼さんが「まあ確かに、きみは良くないものを引き寄せるかもしれないし、構わない。もし来たくなったら前日までに教えてくれ」と許可してくれたので、私たちは参加していない。
海水浴、でもない。
これはあの図書室に行こうかと言っていた日に、百鬼先輩に誘われたのだけれど私が怖くて全力拒否をした。怖い思いをさせてしまったから、埋め合わせにどうかな、と優しく微笑んで誘ってくださったのだが、無理です海の怪異は怖いですと私が断ってしまった。
あとこれは怪異は関係ないけれど、百鬼先輩に水着を晒す勇気もなかった。
ではなにか。
夏祭りである。
スケジュール的に合宿、海水浴、夏祭り、花火大会という順番でイベントはあるので、合宿と海水浴はこの時点でなくなったと思っていいかもしれない。海水浴はまだもしかしたらあるかもしれないけど、私自身に行くつもりがないので多分ない。
さて、そう、夏祭りである。
夏祭りに行こう、と推しに誘われて、断れる人がいたなら見てみたい。私には無理だった。にこやかに「夏祭りがあるんだけど、行こうか」と行くのが決まってる感じに誘われて、無理ですとお断りすることなどできなかったのである。
あと心の中で手のひらをくるっと返した理由がひとつ。
「俺は浴衣着てくけど、ハルカは浴衣着てくるのかな?」
これです。ゲームでもお目にかかれなかった、推しの浴衣姿。私はそれにホイホイと釣られたわけである。
ちなみに、きみが私服なら合わせて私服にしようかな、と言われたので、私の浴衣参戦がこの時に決定した。
「ああ、そういえば、鳴瀬さんは誘おうか?」
「あっ、ぜひ誘いたいです」
推しと二人で浴衣の夏祭りとか、私の心臓はおそらく供給過多で心不全を起こしてしまうので、その提案には全力で乗らせていただいた。多分百鬼先輩のなかで、私にはカナリアしか友達がいないと思われている。勿論それは……全然間違ってないのですけれども。
それに、カナリアと会いたいというのもあった。生徒会室授業になってからはほぼ会っていないし、十字路の時に心配をかけたお詫びもしたい。
夏祭りには怪異が居るのだけれど、謎解きなら覚えているからもしかしたら大丈夫かも、というものと、心に願った人を呼べるお守りがあるという理由で、行きますと頷いたのだ。
鬼塚さんには新しいお守りをもらってあるので、今私と百鬼先輩の持っているものは白強めの灰色である。つまりまだ加護がバリバリにある。これも行くことに決めた理由の一つだ。
カナリアに連絡を入れると、行きたい、とすぐに返ってきた。
「ナキリ先輩と二人きりじゃなくていーの?」
と首を傾げたうさぎのスタンプ付きで来たので、二人きりなんて死んでしまいます、と天使の輪っかが飛んでいくスタンプ付きで返しておいた。
とりあえず二人とも浴衣で行くから良ければ浴衣できてね、と送って、私と百鬼先輩とカナリアと、この三人で夏祭りに行くことになったのである。
現地集合、十六時に待ち合わせ。
出店はたくさん回りたいので、軍資金はバッチリ準備した。
「悠、久しぶり~!」
お互いの浴衣が着崩れないようふわっと抱きついてきたカナリア、大変可愛い。彼女は私の今世での第二の推しです。
家に迎えに来てくださった百鬼先輩と手を繋いでここまで来たのだけど、先輩はさっと空気を読んで手を離してくれた。
「ひさしぶり」
「もー、生徒会室授業になってから全然会えないんだもん」
たまに生徒会に顔を出してくれていたけれど、それでも全然会えなかったので、本当に久しぶりだ。
「ナキリ先輩も、どうも~」
「うん、どうもね」
にこやかに会話をしながら、とっても自然にカナリアは私の手を百鬼先輩に渡した。渡された百鬼先輩も、特に何か言うでもなく私の手を握る。
あれ、どうしてそうなる?
「ナキリ先輩、十字路の時みたいにならないように、ずっと離さず悠の手繋いでてくださいね」
「もちろん」
「えっ!?」
思わずふりかえったら、からかっている顔ではない、真剣な顔をしたカナリアと目が合う。私と目を合わせて、悠も離しちゃだめだからね、と念を押された。
目を白黒させていたら、苦笑した百鬼先輩に頭をぽんと撫でられた。
「きみ、あの十字路のときすごく心配されていたっていう自覚はある?」
「そうだよ! あの時はほんとにほんとに心配したんだからね!」
美男美女に挟まれて心配したよと言われ、頷かない訳にはいかなかった。
祭りの間くらいは手を繋がないと思っていたのだけれど、無理なようだった。
「ナキリ先輩が離れる時は私と繋いでようね!」
いい笑顔でそう言ったカナリア、最初から私と手を繋いでくれるという選択肢はないらしい。百鬼先輩の方が強そうだし安心でしょ、と言われてしまえば、強そうというところはそれは確かにそう、と頷く他なかった。




