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 百鬼先輩に抱っこされたままで眠ってしまった私、どうやらとても怖い夢を見ていたらしい。

 百鬼先輩から話を聞くうちに、私はこてんと眠ってしまったらしかった。大失態というか、よくその状況で眠れたなと自分に問いたい。推しに横抱きに抱っこされててなんでスコンと眠れたんだ。失礼だしありえない、と頭を抱えたいレベルである。

 眠ってしまった私をソファに寝かせた百鬼先輩は、私が魘されていたのだと教えてくれた。

 でも確かに、覚えてはいないけれど怖かったという感覚だけがある。

 怪異に追いかけられたから見た夢なのか、関係ないものなのか、その辺は分からないけれど、起きてなお胸がモヤモヤするのだから、相当な悪夢だったに違いない。良かった内容を覚えていなくて。

 そうして生徒会室で、百鬼先輩は私が起きるまでの間に、いろいろと考えていたらしかった。


「追い追いにはなるけど、これからハルカにもいろいろと話さなきゃいけないね」


 どこか嬉しそうな声音でそう言って、百鬼先輩は説明のために私にもう一度怪異の姿を見せてくれた。さっき一度元の姿に戻ったのは、私にあまりあの姿を見せていたくなかったから、らしい。

 最期のスチルにあった姿でにっこりと笑って、びっくりしすぎて固まっていた私に百鬼先輩は「怖くない?」と眉を下げた。反射的に「怖くないです!」と言ってしまったけれど、先輩が嬉しそうなのできっと正解だった。さっきもそう言ってくれたからこの姿を見せる勇気が出た、と先輩は笑っていたが、そもそも私は画面の中でではあるがその姿は見慣れている。


「訳あってこんな姿だけど、これ、ちゃんと後々祓えるように手配はしてるからね。心配はしないで」


 首を傾げていた私に、先輩は事も無げにそう言った。

 待って、いま先輩とんでもないことをサラッと言った。私がずっと望んでいたことを、私がずっと願っていたことを、なんでもないように教えてくれたぞ。


「え……え、祓える、ん、ですか……?」


 怪異の手を取り、最後まで説得に応じず、消えていったゲームでの姿が頭をよぎる。

 私はその終わりが嫌だった。この世界に転生したと知って、どうにか出来ないかと空回りするくらいに、あの終わりをどうにか変えたかった。

 それが、なんと百鬼先輩自身が解決策をお持ちだと言うのだ。

 ゲームとは違う展開か、と思いかけ、まだゲーム開始時期では無いからこれからそうなる可能性もあると考え直した。


「祓える、というか、引き渡すが正しいかな。樒がね、この怪異を引き受けてくれるんだ」


 樒さんありがとう本当にありがとう貴方が神かいや本当に神様だった、と心の中で拝んでいたら、その姿のままで先輩が隣に座った。

 よく見ると、手も人間のものでは無い硬質なものになっているし、やっぱり耳は尖っている。そして、髪に埋もれようにして目立たないけれど、角のようなものもあった。


「ずっとずっと昔にね、俺はこの怪異に憑かれたんだ。あの時は余裕がなくて抵抗できなくてね。俺の方が強かったからなのか、こっちが取り込んだって状態になっちゃったけど」


 じっと見ていたら、説明をしながら「触る?」と先輩が私の手を取って角まで持っていった。つるつるとした感触の角が触れる。

 畏れ多い、と思いつつ、初めて触れるその感触は不思議な感じがして、無意識に撫で回してしまった。


「ふふ、くすぐったい。本当に怖くないんだね。角がお気に入り?」

「あっごめんなさい無遠慮に!角もかっこいいです!」


 慌てて手を引っ込めた。ついでによく分からない言葉も漏れ出たけれど、先輩が嬉しそうだから気にしないことにする。


「準備も必要だし、きみを守るには丁度いいから今はまだ祓わないんだけどね。全部終わったら、樒に渡すことになってるんだ」


 言い方から、随分長いこと怪異に取り憑かれていたという感じに聞こえる。そうであるならば、もしかして私が入学する前からすでに先輩はこうだったのだろうか。

 そして樒さんが祓う予定だったから、ゲームでもヒロインは救えないということだろうか。

 ゲームのそのイベント内で、きみには俺を救えない、というセリフがあった。それは恨み言みたいに私は受け取っていたけれど、神様が引き取るレベルだったのなら根本的に無理だったのかな。

 ……あれ。待って。いま聴き逃しそうになったけれど、私を守るのに丁度いいということは、それって私が先輩から怪異を祓うのを遅らせてるということでは。


「っ、あの、先輩」

「あはは、本当に全部顔に出るね。負担にならないように時間をかけて剥がすから、今はまだ準備期間であってその時期じゃないだけ。きみを守るのに丁度いいのは本当だから俺が利用してるだけで、それはきみのせいじゃなくて俺の事情だよ」


 先輩の手が、慰めるみたいに私の頭を撫でた。

 私のせいじゃないというそれが本当のことなのか、私には分からないのだけれど。でも先輩がそう言うのだから、私はそれを信じればいいだけだろう。力のある怪異だったら祓うのに時間がかかりそうだし、それは本当のことだろうから。


「……先輩が、辛くないのなら、私はそれでいいんですけど。あっいや、助けて貰っておいてそれでいいなんて失礼な話なんですけど、えっと、先輩が良いなら」

「うん。俺は納得してる。だからハルカは気にしないで良いよ」


 ほっと安堵の息を吐いた私を、先輩はじっと見て。

 そうして、とりあえず今日はここまでね、と話を締めた。


「あんまり一度に話すと、きみはぐるぐる考え込みそうだからね」


 おっしゃる通りです、と頷いて、少しだけ気が抜けて、ソファにぐったりと沈む。無意識に気を張っていたのか、面接みたいに背筋を伸ばして話を聞いていたらしい。

 そんな私の姿を見て、先輩は笑って、同じようにソファにぽすんと背を預けた。瞬きの間にいつもの姿に戻っていて、ころころと姿を変える先輩を不思議な気持ちで見上げた。

 今日はなんというか、知らないことが、本当に全く知りえなかった情報がたくさんだ、と目をまわしている私を、先輩が優しく見下ろしていた。

彼女の中には「怪異に追いかけられたこと」と「百鬼が話したことのなかで、忘れさせなかったこと」しか残っていなので、あの怪異がなんだったのかの説明も含めて記憶にはありません。

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