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31:幕間/幸福の時まで

 樒に手伝ってもらってから、上手くいくこともあればいかないこともあった。

 樒と契約を交わしてから、既に五度はやり直している。悠と恋人にならなかった時もあったし、なれたあとにやり直した時もある。彼女を失う度にやり直した。

 それでも、徐々に効果はでてきている。


 まず、あの女の加護を削ぐ、と言っていた件は、本当にどうにかしてしまったらしかった。まあ樒は自らを神と名乗ったのだ、そういうこともあるだろう。

 あの女は気づいていないようだったが、あきらかに怪異に狙われる頻度が多くなっていたし、その分百鬼たちに絡む回数は減っていったのだ。それでもどうにかして接触しようとし、小山悠を害しに行くのだから油断はできないのだが。

 一番初めに比べれば、あの女の加護は半減くらいか、あるいはもっと削れているのではないだろうか。

 そうして、何をどうしているのか百鬼には知り得ないが、あの女から記憶も削っているらしい。樒本人がにこにこと嬉しそうに教えてくれたので間違いはないと思う。実際、あの女から発せられる不快な言葉から、百鬼の個人情報めいたものは消えている。

 



 一度、なぜそこまで助けるのかと聞いたことがあった。


「興味、ですねぇ。キミのそれはもはや執着と言っていいけれど、それでも根っこの部分は愛情というものなのでしょう。私には無いそれを知りたかった、というのがまず一番最初にあった理由です」


 他は語らない、というように人差し指を口元に当て、首を傾げてにんまりと笑う。

 百鬼としては、協力してくれるのならなんだっていい。それが興味であれなんであれ、最愛を救う手立てになるのなら。


「まあもう少しですから、ここまで来たら乗りかかった船。契約もありますし、この件に関して私に損はないのでねぇ」


 契約時の口振りから察するに、樒もあの女の魂には興味があるのだろう。百鬼に詳らかにしていない理由の中には、あの魂を手に入れたいというようなニュアンスの言葉もあった。

 百鬼には、小山悠さえいれば良い。例えば、もし悠の魂を対価に望まれていれば、契約など初めからしなかったし、それこそ死に物狂いで抵抗するだろう。

 何度も時を戻して繰り返した百鬼には、怪異としては特級の力がある。

 共倒れになったとしても、あの子の魂を護るためならそうする。


「君を敵に回すほど私は愚かでは無いので。私にはあっちで十分だしねぇ」

 

 それを全てわかっているというように、樒は頷いた。

 作戦会議という程のものではなくとも、情報共有は頻繁にしている。どんどん怪異について詳しくなっていったが、それは彼女を救うための情報となる。それも含めて樒との契約は百鬼にとって有用だった。

 助言通りここ数回のやり直しでは生徒会と繋がりを作ったし、今回も同じく協力を取り付けてある。繰り返しの度に得た知識は、彼らに混じるための材料となったことは有難い。怪異を取り込んでいても百鬼の祓う力は消えていないから、それもあって生徒会に誘われたこともある。自由に動くために断ったが、彼らの信頼を得ることはできている。


 まだ彼女とは出会えていない。彼女がこの学園に来るのはもう少し先だ。あの子はきっと第二図書室に来るから、こちらから会いに行かなくてもそれを待てばいい。本当は迎えに行きたいところだけれど、まだ知り合いでもないからそれも出来ない。もどかしいが、それでもまた会えるのは確定していると思えば耐えられた。

 今回の始まりは、なんて話しかけよう。

 きみも絵本が好きなの、とか、こんなところに人が来るのは珍しいね、とか、そんな当たり障りのない感じに話しかけようか。それとももっと違う感じに、彼女を怖がらせず、自分に興味を持って貰えるように捻ってみるべきか。

 まさか第二図書室に巣食う怪異そのものを手に取っている姿を見ることになるとは思わず、頭で考えていた再会の言葉は随分と慌てたものになってしまうとはまだ百鬼は知らない。

 もうすぐだ。二年に上がれば、新入生の中に彼女はいる。

 また会える。また言葉を交わすことが出来る。

 また、触れ合うことが出来るのだ。


「繋がりは上々、私の方の下準備もあと少しで終わる。ふふ、ああどんな檻が似合うかな」


 不穏な一言を聞いた気がしたが、それは百鬼にとっては関係ないことなので聞き流す。

 樒は、今回でカタをつけられるのではないか、と言った。

 ここまで加護を削ぎ、関連する記憶を消されては、恐らく怪異の対応に追われて百鬼たちのことは後回しになるだろうから、と笑った。ひどく楽しそうな、うつくしい笑顔だった。


「私が見るに、一年です。きみの最愛は、どうもこの一年の中に命を落としやすいらしいですからね。一年守り抜けば、きっときみの願いが叶う。上手く事が運べるよう祈っていますよ。まあ私、本来なら祈られる側ですけど」


 生徒会には情報を流していないが、有事の際には協力出来るよう連携しているし、それ以外にも手駒になりそうな怪異は取り込んである。

 行き当たりばったりだった最初の頃とは違って、彼女を守るための手はいくつも用意した。


「今度は間違えない。今度こそ間違わずにきみを助ける──ああ、早くきみに会いたいな、悠」


 そして出来ることなら、また恋人になってくれたら。

 

百鬼のお話はここまで。次回から本編軸に戻ります。


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