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どうしてこうなったのか。思い返してみても意味がわからない。頭を抱えたい。しかし、しかしなのだ。これが百鬼先輩を安心させるのだから、私としてはもう少し頑張らねばならない。
たとえそれが自分にとって天国と地獄が同時にやってくる時間だとして、そして先輩に現在進行形で手間をかけさせているとしても。
「ハルカ? どうかしたの、難しい顔して。どこか分からないところがあったかな」
眉を下げ、心配そうに私の顔をのぞきこんだ先輩に、慌てて首を振る。
ここがどこか。場所は生徒会室だ。詳しく言うなら、生徒会室の奥にもうひとつある部屋に用意された机に、勉強道具を広げている。目の前には同じように椅子を用意された百鬼先輩が、参考書を片手に私の勉強を見ている。さらにその奥にはこちらの様子を見つつ、なにかの書類を見ている蛇目先生がいる。
そう、何故か私は生徒会室で授業をし、百鬼先輩に勉強を教えて貰っている。
もはや説明をされても意味がわからない。
先輩は私に付きっきりで、各教科の教師の作ってきたプリントを解く私に勉強を教えてくださっている。ちなみに体育は全部見学で、授業内容の補習プリント提出で良いことになっている。体育の教師からはちゃんと運動しとくようにと注意されたけれど、それだけだった。
先輩の勉強は大丈夫なんですか、と聞いた時、彼はにこやかに「ああ、もう卒業資格はあるから大丈夫だよ。教員に許可もとってるし、ほら、蛇目先生もいるしね」と仰った。
初耳だし爆弾情報すぎて「アッ、そうなんですね」としか返せなかった。卒業資格がもうある、とは。先輩まだ二年生ですよね。スキップは日本では認められていたっけ。
蛇目先生は保健医のはずでは、と首を傾げれば、大丈夫彼も教員免許は持ってるし問題ないでしょ、と先輩は笑っていた。そういうことではないのでは、と思いはしたが、先輩がそう言うので多分大丈夫なのだろうと無理やり納得することにした。基本はプリントだし、蛇目先生が見るにしろ先輩が見るにしろ、私のやることは変わらない。
ちなみに保健室はどうなっているのかと聞いたら、臨時の教員が入っているらしい。私一人を生徒会室で勉強させるために結構な大事になってしまっていて、あまりのことに私はひとまず窓の外を見て「おそらきれい」と現実逃避を決め込んだ。にこやかな百鬼先輩にすぐに戻された。
「そもそも、怪異対策の一環だから君は本当に気にしなくていいんだよ。蛇目先生がこっちにいるのも同じ理由だしね」
これは私だからではなく、同様の状態にある生徒がいればそうするものだ、と言われてしまえば、もう何も言えないわけである。
詳しく聞けば、うちの学校に怪異に対応出来る教員は蛇目先生しか居ないらしいのだ。だから彼は生徒会の顧問をしている。また、生徒会に怪異に強い生徒が集められているのも同様の理由らしかった。これはマンモス校である故に由緒正しい退魔の家系などが高確率で入ってくるこの学校の、ある種伝統らしい。命の危険もあるものを生徒に任すのはどうなの、と前世の私がちらっともやもやしたものを感じるものの、一般人の大人と対怪異に特化した家系の高校生では圧倒的に後者の方が安心出来るというのも分かるので納得はできる。一応生徒会に入るにあたって、いろいろな誓約書やらなにやら渡されるらしく、もちろん拒否権もあるらしいので私がどうこう言えることでもないのだけれど。
攻略対象の皆様を知ってるから怪異をどうにか出来る人がいるのを私は知っているけど、本来なら怪異は避けるものであり、また解決には国が動くものだ。だから今の私が生きるこの日本という国には、怪異対策のための国家機関がある。
「ほら、手が止まってるよ」
「あ、すみません」
指摘され、慌ててプリントに向き直る。
現在歴史のプリント中である。大まかな歴史などはほぼ前世と同じなのは助かるのだが、如何せん歴史の動く場面でちょくちょく怪異が出てきてそこに混乱してしまうので、私の中で一番苦手な教科だ。本能寺の変にでてくる鏡の怪異なんて知らんそんなもん。
先輩の声がとても分かりやすく解説してくれているので、聞き惚れそうになりつつも必死に頭をはたらかせる。
よくわからないのだが。
先輩はどうも私を転校生に会わせたくないらしい。
何か嫌な予感がすると言っていたし、そもそも転校生の話をしていたときから何かイラついていたようだったし。
今の先輩は、特にイライラしてはいないように見える。参考書片手に私を見る先輩は、普段通りだ。
「図書室にもあまり行けないから、俺がおすすめの本持ってくるからね」
生徒会室授業の初日にそう言って笑っていた先輩は、私に付き添う為に図書室にも行っていない。先輩本人が「そもそもここにある絵本は大体俺の家にもあるし、きみに貸すくらい問題ないよ?」と言っていたし、絵本の貸し借りは図書室ではなく先輩相手にかわって続いている。感想を言い合ういつもの昼休みは、場所が生徒会室に変わっただけで続いているので、それは素直に嬉しかった。
放課後に生徒会の雑務を手伝う以外に校内をあまり歩かない私の一日は、現在ほぼ生徒会室で完結している。
噂の転校生に関しても、姿を見たことは一度もない。
たまに一緒に雑務を手伝ってくれている百鬼先輩が大回りのルートを提案してくることがあるので、もしかしたら先輩主導で転校生を避けているのかもしれない、とは思う。
百鬼先輩ならそのくらいは出来そうだ、と私は思っているので、あまり突っ込むことはせずに大人しく従っている。
窓の外を見ると、日差しが眩しい。梅雨も明けた空はカラッとした晴天で、今日みたいな日に泳いだら気持ちが良さそうである。まあこの世界、海にも山にも川にも怪異はいるので、遊びに行くのも少し不安にはなるのだが。
あと数日で、夏休みになる。
夏休みの間は、今みたいに毎日百鬼先輩に会えなくなるので、それが少し寂しい、とぼんやり思った。




