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25:季節外れの転校生

 制服も夏服になり、梅雨も開けた七月のこと。


「この時期に転校生、ですか?」

「そう。やっかいなことにね」


 生徒会室でくつろぐ百鬼先輩からの情報は、なぜだかとても苛立たしげに伝えられた。




 人の居なくなる十字路から無事帰還したあと、生徒会室で聞き取り調査をされ、原初の密林檎を百鬼先輩が器用にうさぎさんにしたものを食べ、翌日にカナリアに大泣きされたあと、私は何故か生徒会に所属することになってしまった。

 というのも、あまりに怪異と遭遇する頻度が高い、と百鬼先輩が心配してくださった結果、百鬼先輩の口利きで、いつの間にやら私は生徒会雑務担当という肩書きを手に入れていたらしい。事後承諾だったので、私がこれを知ったのは生徒会室に呼び出されたあとである。

 私が遭遇したのは渡り廊下と十字路の二つだからそんなに頻度は高くないのでは、という質問に対しては、犬飼さんから「ここまで短い期間で二つの怪異に遭遇している、という点がどうにも気になる。二度あることは三度あるとも言うだろう、念の為だ」というお答えをいただいた。シンプルに怖いので大人しく生徒会雑務担当をやることにしました。

 そして大変悩ましいことに、私は百鬼先輩と登下校まで手を繋ぐことになり、毎日が瀕死である。

 流石に学校内では繋がない。けれど、それも先輩的には心配らしく、結構な頻度で繋ぐ繋がないの言い合いが起きる。誰か助けて欲しい。カナリアがいる時は言われないので、先輩は私が一人になる時間をどうにかなくしたいらしかった。

 先輩までそんな感じなので、二度あることは三度あるが本当になりそうで怖い。


 そんなこんなで生徒会役員になったのだけれど、やることは雑用なのであまり難しいことは無いのがありがたいところだった。そしてその雑用で私が校内を走り回る時のお目付け役が、なぜか役員ではない百鬼先輩であるのは純粋に申し訳ない。

 好きでやってるから気にしなくていいんだよ、とは先輩の言葉だけど、百鬼先輩も生徒会役員である、というレベルで生徒会室に来ていただいているわけで。気にしないはずもなく、かと言ってそれを露わにしては先輩が気をつかってくださるために言葉にもできない。

 切実に私に怪異をどうにかできるだけの力が欲しい、そう思ったところでどうにかできるわけもないので、こちらも大人しく百鬼先輩にお世話になっている。

 

「珍しいですね、夏休みも近いこんな時期に」

「さてね。そのあたりは家庭の事情ってやつだろうけど」


 あと二週間もすれば夏休みに入る、というタイミングだ。

 家庭の事情にしても、どうにかずらして夏休み明けではだめだったのかな、という非常に微妙な時期である。

 それにしても、本当に珍しいことに、先輩が苛ついている。理由はいまいちわからないのだが、普段が穏やかに(見ようによってはミステリアスに)微笑んでいるお方なので、声に滲む苛立ちが少しだけ気になる。


「ハルカ、君はあんまり関わらない方がいい。こんな読めないもの、外れた方がいいに決まっているんだけど──それでも嫌な予感がしてならないから」


 真剣な顔をして、先輩がそんなことを言った。

 関わらない方がいいと思う、ではなく、関わらない方がいい、と断定されてしまった。

 先輩がどういう情報網を持っていて、どんな情報からそんな話になったのかは、私には分からない。分からないけれど、先輩がそう言うのなら、私に従わない選択肢はない。

 いやだってゲームの中でも色々なことを知っていた先輩の言うことだ、絶対なにかあるに違いないと私は思うわけですよ。百鬼先輩が嫌な予感とまで言うのだから、私は従っておいた方がいいのだろう。彼の言う予感は、直感であり、そうして彼の経験則からの予測だろうとさすがに私にだって分かる。怖い以外の何物でもない。


「転校生に自分から関わることはそう無いと思うんですけど」

「そうだね。三組に来るらしいから、君と接点という接点はないけど」


 もう何組に来るのか知っているようだけれど、本当にどういう情報網を持っているんだろう。

 私は一組なので、二つ隣の組となれば確かに接点はない。自分から転校生にぐいぐい行かない限りは、あまり関わることもないだろうけれど。そもそも違うクラスに行くこともそうそうないし。

 何がそんなに心配なのだろう。


「向こうからこられたんじゃ、避けようがないだろうし……ハルカ、ものは相談なんだけどね」


 首を傾げた私の手を取り、苛立ちをさっと笑顔に隠した百鬼先輩が、内緒話をするみたいに柔らかく囁いた。


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