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 こうしていたって何も始まらない、そう思いはしても、足が動かない。

 間違えてしまったら?

 ──きっと二度と戻れない。ここから抜け出せない。

 ここはそういう世界だ。そうしてこの世界は、私にとっては現実であると、もう理解している。あたり姫みたいに、失敗したらリロードしてやり直し、など出来ない。

 どうしよう、と何度目かも分からない呟きがこぼれる。

 鷹木十字路にまつわる怪異でも、せめて首なし屋台だったなら良かったのに。


 首なし屋台。日時はランダムではあるけれど、鷹木十字路の中に現れる怪異。特定の場合を除いて人に危害は加えない、対怪異専門の屋台。


 そこまで考えて、ふと顔を上げる。

 確率は、極めて低い。無駄足になる可能性の方が高い。

 それでも、もし()()()()()()()()()()()()()()()


 無茶苦茶な考えでも、もし、という希望は持ったっていいはずだ。

 きょろ、と十字路を見回してみる。

 場所は分からないが、ゲーム内の背景を思い出して照らし合わせれば、どうにかわからないだろうか。

 今立っている位置は、十字路の真ん中。恐らくだけれど、この四方向に伸びる道に入らなければ、この怪異の「正解の道を選ぶ」という行動に当てはまらないはずだ。

 十字路のなかで少しだけ動いてみる。特に何も変化はない。なにか聞こえてきたりだとか、おぞましい気配がするということもなかった。

 覚悟を決めて、もう一度周りをよく見る。


(たしか、背景にはビルの入口があった。それで、画面では見切れてたけど隣の壁は多分コンビニ)


 今わたしが立っている位置から見て、前方向と左側にビルがある。隣にコンビニがあるのは左側だ。目視で確認できる場所に屋台など出てはいないが、それでも調べないよりは。

 ビルへと向かって歩き出すと、手の中で根付がちりんと音を立てた。

 びくりと肩を震わせ、手の中の携帯を見る。

 特に何か変わった所はない。石も、先程と同じ色だ。


「ゆっ、ゆ、揺れたから音が鳴っただけだよね!」


 タイミングの良さにびびりながら、あえてなんでもないのだと声に出して言う。そうでもしないと泣いてしまいそうだ。

 がくがくと震える身体をどうにか動かしてビルに近寄る。

 ゲームの背景にそっくりなその場所に、ゆっくりと近づいてみる。

 屋台なんて存在しなかった。

 わかっていたことだけれど。そもそも最初から屋台なんて見えていなかった。何も無いとわかっていてここまで来た。

 それでも諦めきれずに、何かないかとじっと見つめる。


「す、みま、せん。どなたか、いませんか……」


 いるわけが無い、そう思っていながらも声をかける。

 喉がからからに乾いていて、自分でもびっくりするようなか細い声だった。

 手の中の携帯を、それが縁だというように握りしめる。ちりちりと小さく音を立てる鈴にびくつきながら、私は繰り返した。


「どなたか、いませんか」


 音のない十字路は、小さい私の声でも良く聞こえる。ガチガチと歯を鳴らしている音すら聞こえてくる。


「どなたか、いませんか……っ」


 半泣きで繰り返したところで、ちりん、と根付が大きく鳴った。思わず携帯を見ると、先程と変わらないお守り根付がぢりぢりと不思議な音を立てている。

 こんな状況で、こんなことが起こるとは思っていなくて、ひ、と悲鳴が口からこぼれる。なに、なに、何が起こってるの。

 思わず取り落としてしまい、がしゃん、と大きくない音が響いた。

 地面に落ちた携帯は、すこし画面がひび割れてしまっている。拾うのを躊躇って手を伸ばしあぐねていると、地面に落ちている状態で、根付がちりんと音を立てた。


「ひっ」


 どうしたら、何が起こっているのか、そもそもこんな不気味に音を鳴らしているお守りを拾ってもいいのか。そんな風にぐるぐる考えて、けれどこのお守り根付は効果があると知っているから、手に持っていないのも不安だった。

 怖い。手を伸ばすのが怖い。でも拾うのも怖い。

 どうしよう、でも、と迷いに迷ってから、ゲームでのお守り根付を信じてようやく手を伸ばしたとき。


「お嬢さん、落し物ですか」


 上から、声が降ってきた。思わず顔を上げると。


「どうも、珍しい魂のお嬢さん。これ、貴方のでしょう?」


 白い髪の、赤い目をした男の人が、携帯を拾って差し出していた。

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