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18:鷹木十字路

 その十字路に纏わる怪異は、ゲームにも出てきていなかったものを含めて、知っている限りでは三つある。


 ひとつは、人のいなくなる十字路。

 逢魔が時、ふと気づくと、あたりに誰もいなくなっていることがあるという。自分以外の生き物は存在しない、静寂ばかりが満ちる場所になる。そこから出る方法は二つあり、正しい道を選び続けるか、その場所で出会う「何か」に案内してもらって帰ってくるか。

 それ以外の方法では決して帰ってくることが出来ない。

 この怪異が観測されるようになってから、時折この十字路では行方不明者が出てはニュースになる。

 これは、ゲームには登場しなかった。私はニュースで存在を知った怪異だ。


 ひとつは、丑三つ時の結婚式。

 深夜、この十字路でどこからかウェディングベルが聞こえる。時間帯的にも辺りに結婚式をやっている場所などなく、どこから聞こえてくるのかわからない。

 うつくしい曲と鐘の音、そして祝福を告げる人々の声、それはそれは楽しげで幸せそうな音を響かせる。

 それが聞こえてきたなら、すぐにその場を離れなければならない。

 その結婚式は、見てしまえば参加者として怪異の中にとらわれてしまうのだ。

 これは鬼塚真昼ルートに存在していた。

   

 ひとつは、鷹木十字路の首なし屋台。

 怪異に対するアイテムを販売する、不定期に現れる不思議な屋台だ。紙袋を被った怪しい店主が、怪異を退ける魔よけを売ってくれる。値段は驚くほど安く、誰でも買える価格設定となっている──ただし、紙袋を故意に外してしまうと、一転して襲いかかってくる。これはゲーム内共通ルートに存在していた。

 不定期にでてくる屋台、という設定だが、ゲームではちゃんと法則があって、基本的に怪異イベント直前の行動ターンで鷹木十字路に現れる。攻略情報サイトにも、難度の高い怪異イベントの前は必ず寄るように、と書かれていたくらいだ。



 これらの怪異が住み着く十字路が、この鷹木十字路だ。

 人のいなくなる十字路は先程も言ったがニュースで存在を知った、ゲームにはなかったものだ。ゲーム内では鷹木十字路の首なし屋台と丑三つ時の結婚式しか登場しなかった。

 さて、なぜこんな話を今したかと言うと、絶賛遭遇中だからである。

 人のいなくなる十字路、というゲーム内には存在しなかった怪異に。


「うそぉ……」


 辺りを見回しても、人の気配が一切ない。

 たしかに今、夕方の薄暗い時間だ。逢魔が時と呼ばれる時間帯には違いない。だからといって、まさかこんな風にあっさり出会うとは、全くもって思っていなかった。普通一人の時に遭遇するものでは無いのか。

 カナリアと、百鬼先輩。この二人と喋りながら歩いていたはずだった。相槌を打って、少し足元を見て顔を上げたらこれである。あまりに突然のことに辺りを見回してカナリアたちを探してみたが、人影などどこにもない。

 正しい道を選び続けるか、何か──本当に正体は分からない何かに導いてもらうか、二択。正直詰んでる。

 ハッと気づいて、携帯を取り出す。


「ひえっ……」


 取り出した拍子に揺れたお守り根付の、灰色の石が。


「少し黒くなってる……!」


 白色の強めの灰色だったのに、傍目から見ても分かるくらいに色が濃くなっている。

 確か完全に黒くなると駄目、と先輩は言っていたので、まだ灰色の範疇であれば多分そこまでやばくは無い、と思いたい。そうだと言って欲しい、そうであってください切実です。

 ゲームだと、黒くなること自体なかった。なぜならお守り根付は消耗品、一度貰っても一回から数回目の怪異イベントで無くなり、鬼塚さんが新たに持ってきてくれるのだ。一度貰えば終わりでないあたりリアルだよな、と色んなところで言われていた。

 ちりん、と小さく音を立てたお守り根付ごと、携帯を手の中に握り込む。


「何か……何かってなんだろう分からないからそっちは多分あてにしたらダメだよね」


 中にいる何かっていうアバウトすぎる情報に頼るよりは、正解の道とやらを探した方がいい気がする。

 ただ、正解の道というのも曖昧なのだ。この十字路のどこかに正解があるとして、選び続ける、というのが気になる。

 似たような怪異がゲームでもあったが、あれは完全なる覚えゲー、右左上上左、と「どこへ進む?」という選択肢で十回ほど正しく選び続けるという攻略法だった。

 それと同じだった場合、間違えた時点で最初の場所に戻される。戻されればいい方で、戻されなかった場合は迷い込んで出られない、となるパターンだ。戻されたところで、間違えられる回数制限がある可能性もある。

 どうしよう、どこにも進めない。だってゲームにない怪異の正解なんてわからない。たとえゲームにあったとしても、正解を選び続けるパターンのものは攻略サイトやメモを見ながらやっていたので、覚えているわけが無い。


「……どう、しよう」


 どうにもできない、と泣きそうな私は、ぽつんと十字路の真ん中に立ち尽くした。


 

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