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 はてさて、よく分からない組み合わせの道中、これが意外にもとても楽しい。

 普段百鬼先輩と帰っているけれど寄り道は皆無、家直行なので、こうやって街を歩くのがものすごく楽しいのだ。しかもずっとご機嫌の百鬼先輩がいて、さらには友だちになったカナリアもいるので、楽しさ倍増、というところだ。

 途中コンビニで飲み物買ったり、クレープの屋台を見つけて買いに行ったり、かなり満喫している私だった。

 ちなみに百鬼先輩とは奢る奢らないの一悶着があった(どうにか自分で支払うことに成功した)あと、先輩が惣菜クレープを食べていて、私はいちごチョコ、カナリアはカスタードだ。先輩もカナリアもひと口ずつくれたのだけれど、私がお返しにひと口どうぞと差し出したクレープは「いいよいいよ悠が食べなよ」「そうそうハルカが全部食べなさい」とにこやかに受け取って貰えなかったのはなぜなのだろう。ちなみに先輩は自分が口をつける前に私にひと口くれた紳士である。間接キスなど先輩は気にしないだろうが、それをするとなったら私が死ぬので大変ありがたい気遣いだった。


「あ、こっちこっち。この奥だよ」


 食べ終えたクレープのゴミを捨てて、雑談しつつ歩いていた先、カナリアが「えっここ通る?」というような道を指さした。道というかビルとビルの間の隙間、というのが正しいような場所で、普段であれば絶対通らないところだ。

 確かに人が二人ほど通れる幅はあるが、そしてゴミなども置かれていないが、なかなかここを通ろうとは思わないところだ。カナリアが手を引いてくれて、つられて踏み出すも、一瞬竦む。


「悠?」

「あ、ごめん、なんかちょっと怖かった気がしてしまったというか……」


 ああ、そうだ。ここ、少し渡り廊下に雰囲気が似てる気がする。ゾワゾワするような怖さは無いのだけど、ほんの少し暗い雰囲気が、あの呼び声を思い出させた。 


「悠は意外と怖がりなんだ?」


 むしろ、この世界の人間は普通は怖がりなのだが。何せ怪異がそこらに存在している。

 意外そうに言ったカナリアが、ぱっと私から手を離した。

 まさか離されるとは思わず「えっ!?」と情けない声を上げてしまった私を、カナリアはくるりと向きを変えるみたいにして百鬼先輩の方へと押す。


「というわけで、先輩ちょっと悠の手引いてあげてくださーい。悠も、手を引くのが先輩なら怖くないでしょ?」


 え、え、と困惑していれば、百鬼先輩が私の手を取る。


「もちろん、任されたよ。ほらハルカ、行こう」


 きゅっと握られた手のひらを思わず見て、そうして満面の笑みを浮かべている百鬼先輩を見上げる。

 ここ通ればすぐだからね、と笑ったカナリアはもう先へと進んでいて、あとには私と百鬼先輩が残されていた。

 手を。手を繋いでいる。確かに学校で手を繋いだが、それは一瞬だった。ぐわんと頭に血が登ったようだった。


「ひ、や、いや、一人で大丈夫です!!」

「そう? でも震えているよ。だからほら、このまま行こう」


 渾身の力を入れる、などとても出来ないが、手を引き抜こうとすれば先輩は笑いながら手を繋ぐ力を強くする。それだけで、私の手は先輩から抜けられなくなってしまう。


「ふ、震えてないですっ!」

「震えてるよ。繋いでるからよく分かる」


 そうばさっと私の抵抗は切り捨てられ、先輩はカナリアの後を追うように手を引いた。すたすたと進んでしまうから、慌ててあとをおいかければ、光が途切れたビルの影に入った瞬間に背筋がぞわりと震える。

 ずるり、と足元を這う影にびくりと震えた私に気づいて、先輩は足を止めてくれた。


「……うん、なるほど。きみはなかなか敏感なようだ」


 何かに納得したようにひとつ頷き、繋いでいた手を解く。そうして私が慌てるよりも早く、先輩の手が腰に回った。柔く引き寄せられて目を白黒させている間に、先輩は手に携帯を持ち、ライトを付けて足元を照らす。思わず先輩の制服にすがりついてしまったけれど、先輩は気にした風もなく笑った。


「暗闇が怖いのは仕方の無いことだからね。ほら、これで大丈夫だよ」


 不思議と、先輩がライトで足元を照らした途端に、怖気が消えた。

 腰を支えられつつ促され、先輩と並んで歩く。入る直前にあった怖さも、震えも、この時には無くなっていた。


「悠、そんなに怖かったの……?」


 あまりにも遅かったからか、カナリアが引き返してきて。先輩に縋り付く形になっていた私を見て、眉を下げて心配そうにしている。たしかに先輩に引っ付いているこの状況、そう思われても仕方ないし、さっきまでは進むのを躊躇うほどに怖かったのは事実だ。


「ええと、うん、怖かったんだけど……ごめんね、大丈夫。進めるよ」


 一度百鬼先輩を見上げたら、笑顔で頷かれた。そっと制服から手を離し、先輩が歩幅を合わせてくれるのに甘えつつ進む。

 カナリアはちらちらとこちらを振り返って、けれどちゃんと進んでいるから大丈夫と思ったのか、先に進んだ。

 時間にして五分もかからず、道が開ける。

 目の前には、古びた店が一軒、ぽつねんと建っていた。

誤字脱字報告ありがとうございます……!

指摘していただいた部分を修正致しました。

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