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とても長いこと間が空いてしまってすみません……!またちょくちょく上げていきますのでよろしくお願いします。
昼休み、迎えに来てくれた百鬼先輩と図書室に向かう道すがら、今日友だちと帰る旨を伝える。
お洒落なお店、というのが一体どんな店なのか聞くのを忘れたのでメッセージを送りつつ、先輩には鳴瀬さんと帰ることになったのだと言った。
「友だち?」
「そうなんです、最近よく話しかけてくれて」
きょとんとした顔をされたので、友だちいないと思われていたのだろうか。そうかもしれない。というか確かに友だちと言える相手は、鳴瀬さんが来るまでいなかったかもしれない。
「寄り道するなら、俺もついて行くことになるけど……」
「えっそうなんですか?」
なぜ、と問いかけようとして、そもそも自分が怪異に狙われている可能性を考えればそうなるか、と納得した。
百鬼先輩はゲーム内では怪異として強大な力を奮っていたけど、そうなる前は「祓えるひと」だと資料集にあったはずだ。だから私の送り迎え担当になっているのだし。
「友だちに一応聞いてみてくれるかい?」
言われて、すぐにメッセージアプリを開く。メールアドレス登録もしてあるけど、こっちのが早いよね、とアプリの方も友だちになっているのだ。
新着メッセージを開くと、可愛い猫のキリッとした顔のスタンプと共に、「お洒落な店はねぇ、雑貨屋さんだよ」と送られてきていた。
そういえばお店はどんなところ、とさっき送った私のメッセージに対する返信だ。
それに返事を送りつつ百鬼先輩も同行する旨を送る。昼休みだから携帯を見ていたのか、直ぐに既読がついた。
「おお〜噂のナキリ先輩も来るのね! いいよいいよ、一緒に行こ!」
即断で快諾である。思い切りが良いな、鳴瀬さん。
もしかして彼氏、という疑問がまだ残っているのか、最後に「紹介してね」と添えられている。一応、彼氏ではないことを念押ししておこう。
「大丈夫だそうです」
先輩を見上げると、にこりと微笑まれる。眩しい。目が眩むほどの美しさに思わずそっと視線を逸らした。いい加減慣れてもいいとは思うのだけれど、何せ彼は私の推し。推しの笑顔はたまにものすごい威力を持って胸に刺さるのだ。
「放課後になったら迎えに行くから、教室にいてね」
「はい」
すんなりと決まった待ち合わせだ。私の教室にいれば良いから、鳴瀬さんにはホームルームが終わったあとにこっちに来てもらおう。
図書室に着いて、今日も今日とて絵本をオススメされる。
借りていた本を返して感想を言うのはすでにもう日常で、図書室の窓側の奥の席が私たちの定位置になっている。あまり利用者もいないので、ここの席はいつも空いているのだ。
借りた本の感想をいつものように語って、百鬼先輩からその本の豆知識やら裏設定やらを教えてもらう。
にこやかに私の感想を聞いていた百鬼先輩は、ふと一瞬だけ真顔になって、そうして私を呼んだ。
「ねえハルカ」
ぱっと見上げた顔は既にいつもの柔和な笑顔で、続きの言葉を待っていれば先輩は笑顔のままで「俺とも連絡先を交換しようか」と言った。
ひえ、と息を飲んだ私に構わず、彼は黒いカバーのついた端末をポケットから取り出している。
「今後こういったことがあったら、メールなりメッセージなり送れば楽だろう」
ほら君も出して、と急かされ、ポケットからお守り根付のついた携帯を取り出す。ちりんと涼しい音を立てたそれを、先輩がそっと見ている。なんだろう、と思ったけれど、黒くなるとヤバいという話を聞かされていれば、色を確認したのだとすぐに思い至る。
特に変わりのない灰色の石から、先輩はすぐに視線を外した。
それはそれとして、唐突にやってきた連絡先交換という重要イベントに、私の頭はいっぱいいっぱいである。
待って欲しい、畏れ多い、というか推しの連絡先を私ごときが!?
私の頭の中はそんなことがぐるぐる回っていたのだけれど、にこやかに携帯を差し出して私を待つ先輩に、お断りの選択肢などなかった。というか断ることも、私なぞが先輩を拒否するなどおこがましい、と言った具合の考えが過ってしまう。
「はいコード出して……うん、よし。ちょっと一言送るから待ってね」
さっさと設定した先輩は、すいすいと携帯を操作して私に「よろしくね」とひとこと送ってくださった。永久保存版である。私は絶対このアプリを初期化しないし、携帯変える時はバックアップして絶対消さない。
私もなにか返すべきかと悩んで、当たり障りのないゆるふわマスコットのスタンプを送っておく。
「今度から何かあったらメッセージ送って。もちろん何も無くても送っていいし、絵本の感想もこっちに送っても……いや、それはこうやって直接聞きたいからなし。でも、気楽に送って」
寛大すぎるお言葉にこくこくと頷く。何も無い時にメッセージを送れる気はしないのだが、それでも何か、例えば親が迎えに来てくれるときとかは早めにメッセージを送れるのは、先輩に手間をかけさせないという点で便利だ。
私は連絡先を聞くのを逃げていたことをとりあえず忘れることにして、先輩の連絡先を消さないようバックアップをしっかりと取っておくことにした。