表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/55

13:金糸雀の鳴く鳥籠

 百鬼先輩は、本当に毎朝迎えに来てくれて、帰りも家まで送るという生活を続けてくれている。

 渡り廊下の怪異に呼ばれてから二週間、私は百鬼先輩にお世話になりっぱなしだった。

 学校でも一人を避けている──というよりは、ちょくちょく休み時間に様子を見に来てくれる先輩のおかげで、一人になる時間がほぼないのだ。恐らく怪異のことは教員にも知らされていて、教室や廊下で先生に話しかけられることも増えた。トイレに行く時はさすがに一人、かと思いきや、どこをどう話が通っているのか知らないが、誰かしらがついてきてくれる。

 その中で一番声をかけてくれるのが、聞いて驚きの鳴瀬カナリアさんなのだ。怪異に関わる未来があるかもしれない鳴瀬さんとなるべく関わらないようにしていた過去があるけれど、むしろ自分が今怪異に狙われている疑惑があるため鳴瀬さんを巻き込むことになりかねないとは思う。

 だがしかし、なのである。

 彼女の関わる怪異は「金糸雀の鳴く鳥籠」だ。この怪異は人を襲うものでは無い。

 怪異関連の人は怖いが、怪異関連というより怪異が怖いが、金糸雀の怪異は怖いというよりは不思議系だし、場合によっては人を助けるものでもある。

 そもそも最初から怪異関連の最重要人物に自分から会いに行っておいて、他の怪異の人怖い、と遠ざけるのはどうなんだと反省しました、はい。

 金糸雀の鳴く鳥籠はシティパートで発生する怪異で、学園内ではまず遭遇しない。

 あとは過去の自分をぶん殴ってやりたいのだが、鳴瀬さんめちゃくちゃ人懐こくて可愛い子なのだ。話しててもふんわり可愛いし、私を見つけて駆け寄ってくる姿がもう頭を撫でたいくらいに可愛い。なんでこんなに仲良くしてくれるのかイマイチ分からないんだけど、でも可愛いのだ。これはもう、仲良くしてくれてありがとう、というレベルだ。

 ふわふわ金髪は腰まである長さで、ハーフのため少し色素の薄い肌は妖精のようだし、何より瞳が美しい蒼。間近で見た時ため息が出たほどの美しさだった。だけれど、性格はゲームの通り可愛い系なのだ。そのギャップはもはや語彙力を無くすほどの可愛さである。


「あ、悠」


 ほらみてこっちに駆け寄ってくる姿がヒロインばりに可愛い!!

 ちなみに彼女の出会う怪異である金糸雀の鳴く鳥籠は、とある骨董品店にある。彼女は学校からの帰宅途中にその骨董品店に惹かれ、そこで出会うのだ。

 そこで彼女が購入するのが「金糸雀の鳴く鳥籠」だ。

 見た目は蔦の絡んだ意匠が美しい鈍色の鳥籠で、大きさは両手で抱えなければ持てないくらいのサイズ。もちろん中にはなにも入っていない状態で売っている。けれど、空ではない。

 名前の通りの怪異──要は、空のように見えるが中には既に目に見えない金糸雀がいるのだ。

 この金糸雀は、特定の条件下で姿を現し、美しい声で鳴く。

 彼女は、夜毎に美しく鳴く金糸雀を不思議に思って生徒会に相談しに来る。今は見えないけれど、夜になると美しい声で鳴く金糸雀が現れるのだ、と言って。

 金糸雀は鳥籠を開けておくと外に出ることはあるが、基本的に購入した人のそばを離れない。それは、この鳥籠を買いたいと思う人間を主人として見るからだと言われている。主人たり得ない人間はそもそも鳥籠に惹かれないのだという。

 その時はたしか、普通には見えない金糸雀を肩に乗せていた鳴瀬さんを見て、生徒会長自ら鳴瀬さんの家に赴いたはずだ。もちろん、ヒロインである語部さんを連れて。

 そうして彼らは、彼女の部屋に住みついた悪霊と対峙することになるのだ。


 つまり、この「金糸雀の鳴く鳥籠」は、主人に危機を知らせてくれるもので──しかし金糸雀自身の力は弱く、護ってくれる訳では無い。本当に「知らせるだけ」なのである。

 資料集によれば、元ネタは炭鉱の金糸雀。なるほど納得の元ネタだ。

 ゲームでは、この怪異イベントの後には鳴瀬さんの立ち絵にたまに半透明の金糸雀が居ることがある。鳴瀬さんはこの金糸雀以外にもチラホラと出番があるのでちょくちょく見かけることになるのだが、金糸雀は大体肩に乗っているか、胸元当たりを飛んでいて、大変可愛らしかったのを覚えている。

 ちなみにこの金糸雀の鳥籠はヒロインが転入してきてからの怪異なので、まだ出会うことは無い。


「今日一緒に帰らない?」


 こてんと首をかしげた鳴瀬さんに、もちろんはい喜んでと答えつつ、どうしたのだろうかと首を傾げる。悲しいことに、話すようになったのは本当につい最近で、一緒に帰るような仲では、ない。いやこれは、この可愛らしい彼女と仲良くなれたと思うべきだろうか。


「帰り道にねぇ、とってもお洒落なお店を見つけたんだ」


 ほんわかわらってそう言った鳴瀬さんは、良かったら一緒に行こう、と誘ってくれた。大変可愛い。


「あーっと、ええと、寄り道するならちょっと先輩に確認取らないといけないんだけど、いいかな……」


 先輩とは、言わずもがな百鬼先輩である。先輩以外の誰かと帰る場合はそちらを優先していいと先輩は言っていたのだけれど、寄り道するとなると話は別らしい。まあ今まで誰とも帰る機会がなかったので、確認とったことなどないのですけれども。


「先輩?」

「うん、いつも送り迎えしてくれてて」


 そこまで言ったところで、目の前の鳴瀬さんのお顔がとってもキラキラと輝いていることに気づく。えっとなんだろうな嫌な予感。そういえば鳴瀬さんには図書室の先輩とは話したことがあるけど、百鬼先輩とは全く面識がないな、と思っていれば。


「もしかして、彼氏?」


 にこにこ、というよりも好奇心旺盛、といったお顔である。

 若干ひきつりつつ、そんな誤解をさせては先輩に申し訳が立たないと慌てて首を振った。


「まさか、そんな畏れ多い! 先輩は前に危ないところを助けてくれたひとでして!」


 彼氏などとんでもない、危ないところを助けてくれて、もしかしたらまた何かあるかもしれないからと行動を共にしてくれているのだと、しどろもどろに私は説明する。

 ふーん、と首を傾げた鳴瀬さんはまだ疑っているみたいだけれど、まったくもってそんな関係ではないのだ。本当にそんな誤解をされたら先輩に申し訳なさすぎる。


「送り迎えしてくれてるんだよねぇ……? それって、前言ってた昼休み図書室に一緒に行く先輩でしょう?」

「そ、ソウデスネ……?」

「今日も昼休みは図書室に行くの?」

「ハイ……」


 鳴瀬さんの笑顔が訝しげというか疑わしげなのだが、ほんとうに彼氏ではないし先輩は完全なる厚意である。好意ではなく、厚意だ。

 もちろん昼休みは図書室だった。あと二限終われば昼なので、ご飯を食べ終わる頃に先輩は多分教室に来てくれるはずなのだった。昨日も先輩オススメの絵本を三冊借りているので、今日返しに行く予定なのだ。


「あ、昼休みに先輩に帰り寄り道しても大丈夫か確認してくる」

「えっもしかして連絡先、知らない?」

「え、うん、知らない」


 そもそも連絡を取ることがない。先輩はなんというか、どこでも時間ピッタリに来るのである。朝は準備が終わったらインターホンが鳴るし、昼休みはご飯を食べ終わるタイミングで来てくれて、そして放課後はすぐに来てくれる。

 あとは私の心の問題というか、百鬼泰成というひとの連絡先を私ごときが知るのはどうなんだろうか、という葛藤もあって、百鬼先輩が言い出さないのをいい事に全く話題に出していない。先輩タイミング良いし今まで必要としてないし、と逃げている。


 連絡先も知らない彼女が果たしているだろうか、と思ったのかもしれない。鳴瀬さんはあっさりと「わかった、じゃああとでね」と頷いて、それから百鬼先輩については何も言わなかった。

 予鈴が鳴るので手を振って別れ、席に着く。

 ちなみに鳴瀬さんとは連絡先を交換しているので、昼休みに確認でき次第メッセージを送るつもりだ。初対面の時に「連絡先聞いてもいーい?」と大変可愛らしくお願いされ、私はその笑顔にころりと落ちてその場で連絡先を交換したのである。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ