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 百鬼先輩は、どうやら私の荷物を取りに行ってくれていたらしい。なるほどだから最後に生徒会室にきたのか。

 それにしては帰ってくるのが遅かったような、とも思ったが、百鬼先輩にも色々用事とかあるだろうしと思えば納得である。むしろ、本当に手を煩わせて申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

 気にするなと言われてぐちぐちと繰り返せば、それは鬱陶しいことこの上ないのはわかりきっているので、もう言わないけれど。

 犬飼さんは蛇目先生と連れ立ってどこかへ行ってしまったので、今生徒会室には私の他に百鬼先輩と眼目さん、鬼塚さんがいるのだが。

 

「さ、眼目さん……なにか、あの、私の顔についてますでしょうか……」


 眼目さんにじっと見られていて落ち着かないです、はい。

 壁際から動かない鬼塚さんにも見られているので、正直逃げたい。

 とはいえ、見る力のある眼目さんと祓う力のある鬼塚さんなので、なにか意味がありそうで逃げるのもちょっとどうかなと思っている。

 私の隣にまだ座っている百鬼先輩は、何かよく分からないけどにこにこしながらだんまりを決め込んでいるので助けも求められない。いや助けを求めるつもりは無いんですけど、気持ち的に。


「きみ、ちょっと忠告しておくけど」

「は、はい」


 眼目さんの一言は、なぜだかとても言いにくそうな感じである。

 私としては眼目さんの忠告といわれれば、もはや聞くしかない案件なのだけれど。そんなに言いづらい何かが見えたのだろうか。

 こころなしか、顔色が悪い、ような。


「本当に、何も遠慮しないでそのひとに守られててよ」

「は……え、はい、えっと……??」

「きみが遠慮して一人になったら、大変なことになるから」 


 ……言い方から察するに、私が遠慮して一人になった結果のバッドエンドを見たようだ。そんなに、顔色を悪くするほど酷い未来が見えたのだろうか。

 廊下に呼ばれた私の最期をみた、とか?


「俺も一人にはさせないよう注意するけど」

「小山さんが勝手に離れたら意味が無いですから」


 酷い言われようだけど、そこまで言われて離れるかと言われれば、先輩には大変申し訳ないけど離れられない。眼目さんの能力を知らなかったら、やっぱり迷惑だからと離れていただろうけれど。

 何を見たのかわからないけれど、確実に死に直結しそうな気配なのだ。それはもう、先輩には今度お礼をするとして、ひとまずは安全になるまではお世話になるつもりはある。


「先輩たちが良いって言うまでは、その、お世話になる、つもりです」


 とりあえず宣言してみる。隣の百鬼先輩が満面の笑みを浮かべたのがちらっと見えてしまって、ひえ、と身体を引かせてしまった。

 眼目さんは私をじっと見た上で、それならいいけど、と頷いた。

 入れ替わりで壁際にいた鬼塚さんが寄ってくる。今度は何かと身構えた私に、彼はポケットからなにか取りだして私に差し出した。


「ええと、あの、なんでしょうか……」

「手ぇ出せ。別に呪いの石とかそんなんじゃねえからよ」


 呪いの石ってなんだ、とビビりながら手を出せば、ころりと落とされたのは何かの綺麗な石と鈴が付いた根付だった。

 あ、これ、知ってる。

 どのルートでも出てくる、鬼塚さんからヒロインに渡すお守り根付だ。実際にグッズ化されたもので、もちろん私も買った。なぜなら付いている石が各キャラクターカラーになっていて、お気に入りのキャラクターで組み合わせられるものだったからだ。

 百鬼先輩のものは公式グッズはなかったのだけれど、石が付け替えられるつくりになっていたので、前世の私は百鬼先輩のカラーである黒……黒曜石を別に買ってきて付けていた。


「お守り代わりにやるよ」


 ぽかん、と根付けを見る。

 各ルートで貰えるこのお守り根付、ゲームでは統一してヒロインのカラーであるピンクだった。


「あ、りがとう、ございます……」


 私に手渡されたのは灰色……どのキャラクターカラーでもない。

 いやまった、モブの私に渡されるものがキャラクターカラーなわけが無いではないか。モブは灰色と公式的に決まってた可能性もあるけれど、初めて見た色だ。すごい、オリジナルアイテムと同じものだ。

 とりあえずずっと持っているものにつけておけばいいかな、と思ったので、スマホのカバーにつけておくことにしよう。忘れる前につけとこ、とおもってスマホを探せば、気づいたらしい百鬼先輩が私に荷物を渡してくれる。


「荷物はこれで全部? 他に取りに行きたいものとかがあったら、あとで教室に寄っていこう」


 優しさの塊かな、この百鬼先輩というお方は。

 私の荷物は通学鞄だけだし、中を覗いてみても忘れ物は多分ない。

 スマホを取り出して根付をつけている間、鬼塚さんが百鬼先輩にもお守りを渡したらしい会話が聞こえてきた。ちらりと隣を見ると、百鬼先輩にも灰色の石のついた根付を渡している。あれ、黒じゃない。

 しかし鬼塚さんそれ大事、とっても大事です。百鬼先輩にお守りがあれば、とりあえず私が巻き込んでも先輩はある程度守られる。ファインプレイです鬼塚さん。


「とりあえず学校にいる間は肌身離さず持っとけ。そんなんでも、そこそこ効果はあっからよ」


 ゲームと同じならそこそこ所ではないくらい効果があるお守りだ。

 とりあえず肌身離さず持っていればいいこの根付、効果はものすごくある。これが貰えたあとのストーリーでは、個別ルートのバッドエンド以外に死亡ルートはほとんど存在しないくらい、怪異にとても効果がある。

 因みにあたり姫には、公式的な呼び名はノーマルエンドと呼ばれている、選択肢間違いと怪異によってゲームオーバーになると迎えるエンディングがあるのだが、その八割方がヒロインか攻略対象死亡によるバッドエンドテイストである。

 有名だったのは、ゲームを開始して五分ほどで出てくる一番最初の選択肢だ。放課後になって「すぐに帰る」「少し探索してみる」という選択肢が出るのだが、すぐに帰るを選ぶと暗転して帰り道に怪異に襲われるノーマルエンドを迎える。いやわかるかそんなもん、と色んなところでネタにされていたし、あたり姫を知らない人でもこのネタは知ってるくらい有名な開幕バッドエンド。

 少し探索するを選ぶと狐野陸と再会するイベントがあるので、つまりこのエンドは攻略対象と一緒にいないと怪異がやばいぞ、一般人は怪異と出会ったらどうにもならないからな、ということを教えてくれるある種チュートリアル的なエンドである。


「その石が黒くなったら、俺ンとこ持ってこい」

「えっ……えっ、これ黒くなるんですか?」

「詳しいこたァ百鬼に聞きな」

「百鬼先輩?」


 百鬼先輩そんなことも詳しいんですか、と一瞬思ったけれど、そもそも彼は情報通な先輩キャラだ。怪異にとても詳しく、助言とも皮肉とも取れる言葉をくれるひと。それは詳しくてもおかしくない。


「危ないところに近づくと黒くなるんだ。完全に真っ黒になると良くないから、その前に鬼塚のところに行こうね」

「えっ、あっ、はい」


 その情報どこから持ってくるんだろう、と百鬼先輩を見上げると、ニコリと笑い返される。

 まだ、怪異の手は、取ってない……よね?

 まだ大丈夫、だよね。


「またその目で俺を見るんだね……きみは本当に、よくわからないなぁ」


 ふっと優しい笑みに変わった百鬼先輩を、私はすこし不安げに見ていたんだろう。

 よく分からない、と言いながら、先輩の言葉にはトゲがない。

 どうか、まだ、怪異に落ちていませんように。

 

    

 

 

 

 

 

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